上 下
5 / 10

5.初依頼

しおりを挟む
「それでラザール、最初の依頼はどうするんだ?」

「せっかく冒険者になったんだし、今晩中にできそうな簡単なヤツがあれば、それを受けてみるよ」

「でしたら、これなんてどうですか?」

 そう言ってラティーがカウンターの上に出したファイルの中から、一つの依頼書を見せてくれた。

「……ギルドの倉庫の片付けか」

「はい。新人のラザールさんにいきなり魔物相手の夜戦をおすすめすることはできませんし、近場で、かつすぐにできる簡単な依頼というと、正直これくらいしかありませんね」

 初依頼が冒険者らしくない、地味なものというのは少し思うところがあるが、せっかくラティーが選んでくれたのだ。
 冒険者には危険と隣り合わせの依頼も多い。
 背伸びなどせず、こういう依頼からきっちりこなす方が、リスク管理能力が身に付くのかもしれない。

「ならこれで……」

「初心者向けの安全な依頼なら、こっちのがいいんじゃねぇか?」

 俺がラティーの勧めてくれた依頼を受けようとしたところで、ゾルグが一枚の依頼書を差し出してきた。

「廃材の運搬?」

「ゾルグさん、確かにその依頼もFランク用のものですけど、パーティー向けの、それも数日かけて行うような依頼ですよ」

「だが、俺なら一晩もかからずに依頼を完遂できるぞ」

「はあ……。それはSランクのゾルグさんだからでしょう。
 ラザールさんのことを目にかけているのはなんとなくわかりますが、ご自身と同じ水準で物事を考えていたら、せっかくの才能が花開く前に潰えてしまいますよ」

「目にかけるとか、そんなんじゃねぇよ。
 ただ、こんな逸材が常人と同じペースで依頼を受けていたらもったいないと思っただけだ。
 こいつは間違いなくSランク冒険者になれる。
 本当ならドラゴン討伐でも受けさせたいところだが、実力はともかく、冒険者としては新人で、本人も戦闘にそこまで乗り気じゃねぇからな。
 これでも妥協して依頼を選んでるんだよ」

「Sランク冒険者って……。
 ラザールさんはそこまでの人物なのですか?」

「ああ、間違いねぇ。俺が保証する」

 視線を交わし合うゾルグとラティー。
 それにしても、なぜだがゾルグの俺に対する評価がやけに高い気がする。
 おそらく、昨夜酒場で俺が腕相撲の勝負で勝ったことが原因だと思われるが、あの時のゾルグは酔っていた。
 Sランク冒険者とはいえ、酔っ払ってしまえば本来の力は出せないだろう。
 そもそも、ラティーの話だと、ゾルグの強みは力よりも防御力にある様子だった。
 そんな相手にちょっと腕相撲で勝ったからといって、俺にSランク冒険者になるだけの才能があるとは思えない。

「ゾルグ、なにやら期待をしてくれるのは嬉しいが、俺はそんなに優れた人間じゃないぞ。
 田舎の村に産まれて、ずっと畑仕事だけやって生きてきたからな。
 だから、今回はラティーの勧めてくれた方の依頼を受けることにするよ」

「……わかった、ならこうしよう。
 ラザールが倉庫の片付けの依頼を受けて、俺は廃材の運搬の依頼を受ける。
 そっちの依頼が終わり次第、廃材の運搬をお前がやる。
 もし、今日中に終わらないようなら俺が引き継ぐし、完遂できたらラザールが依頼を受けたことにすればいい」

「ちょっと、ゾルグさん!
 Sランク冒険者が初心者向けの依頼を受けるなんて、そんな新人の仕事を奪うようなこと認められませんよ」

「ラティー、今回だけだ。
 なあ、ラザール。お前、天恵を授かったのはいつだ?」

「昨日だが……」

「それで、どこまで自分の天恵のことについて把握している?」

「いや、まだなんとなくしかわかってない」

「そうなんだろうな。
 お前の感じからして、嘘をついているとも思えねぇし。
 ラティー、こいつはまだ自分の持っている力をちゃんと理解してねぇんだ。
 だが、俺はラザールの中にとんでもない力が眠っていると確信している。
 力の使い方を知らない状態でラザールを放置するのは、あまりに危険だ」

「危険って、そんな大袈裟な……」

「大袈裟なんかじゃねぇよ。
 ラザール、俺と腕相撲をしたとき、お前本気だったか?」

「いや……」

「俺はその本気ですらないラザール相手に力負けしたんだ。
 言っておくが、酔っていたからとか、そんなレベルの話じゃねぇからな。
 酔っていようが、Sランクの俺がそう簡単に負けたりしねぇんだよ、普通は。
 それに、だ。
 俺だから負けただけで済んだが、もし他の奴が相手だったら、お前は相手の腕を確実にへし折っていたぞ。
 その自覚はあるか?
 お前はお前が思っている以上に、ヤバイ天恵を授かっている。
 天恵の内容まで追及するつもりはないが、せめてお前が自分の持っている力を正しく把握するまでは、俺はお前を野放しにはできねぇ。
 それがお前のためであり、無用な被害を周りに出さないためだと思うからだ」

 真剣な口調のゾルグ。
 所詮夢の中の話だ。
 好きなようにやればいい。
 そう割りきるには、あまりにゾルグの様子は真に迫っていた。

 確かに、俺は自分の天恵【夢双】について完璧に理解しているわけではない。
 今後もこの夢の世界を訪れることを考えると、この世界の住人に迷惑をかけるようなことがないよう、自分の力を確かめるのもいいかもしれない。

「正直、自分では実感がわかないが、ゾルグがからかっているわけじゃないのはわかる。
 俺も自分の天恵についてもっと知りたいし、Sランク冒険者様が付き合ってくれるってなら、こんなラッキーな話はないだろう」

「おし、決まりだな。
 ラティー、そう言うことだから依頼の承認頼むぜ」

「何がそういうことなんですか。
 ……はあ、まったく。
 こういうことして、あとでギルド長から怒られるのは私なんですからね」

「わりぃな」

 愚痴をこぼしつつも、依頼の処理を行っていくラティー。
 面倒見のいい質なのだろう。
 冒険者の無茶にも誠実に対応してくれるからこそ、こうして受付を任されているのかもしれない。

「はい、こちらが依頼の詳細になります。
 倉庫の片付けに関しては、ギルドが発注したものですし、よほどのことがない限り失敗になることはありません。
 ですが、いい加減な仕事内容だとランクアップの評価に響いたりしますから、気をつけてくださいね」

「初仕事だしね。きっちりやるよ」

「んじゃ、俺はそこで酒でも呑んでるから、片付け終わったら呼んでくれ」

 それだけ言うと、ゾルグはギルド内に併設されているバーへと向かって行った。

「自由で勝手な人ですけど、あれでも皆に慕われてるんですよ」

「そうなんだろうな」

 俺は、早速バーにいる他の冒険者と騒いでいる、ゾルグの背中に視線を向けた。
 昨日出会ったばかりの俺をわざわざギルドまで案内してくれただけでなく、依頼の面倒までみてくれようとしている。

 俺が腕相撲でSランク冒険者のゾルグに勝った。
 たかが腕相撲とはいえ、それは俺が思っている以上にとんでもないことだということは、ゾルグの話からなんとなくは理解した。
 だが、それを差し引いても、ゾルグが気のいい奴だということに変わりはないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界召喚で適正村人の俺はゴミとしてドラゴンの餌に~だが職業はゴミだが固有スキルは最強だった。スキル永久コンボでずっと俺のターンだ~

榊与一
ファンタジー
滝谷竜也(たきたにりゅうや)16歳。 ボッチ高校生である彼はいつも通り一人で昼休みを過ごしていた。 その時突然地震に襲われ意識をい失うってしまう。 そして気付けばそこは異世界で、しかも彼以外のクラスの人間も転移していた。 「あなた方にはこの世界を救うために来て頂きました。」 女王アイリーンは言う。 だが―― 「滝谷様は村人ですのでお帰り下さい」 それを聞いて失笑するクラスメート達。 滝谷竜也は渋々承諾して転移ゲートに向かう。 だがそれは元の世界へのゲートではなく、恐るべき竜の巣へと続くものだった。 「あんたは竜の餌にでもなりなさい!」 女王は竜也を役立たずと罵り、国が契約を交わすドラゴンの巣へと続くゲートへと放り込んだ。 だが女王は知らない。 職業が弱かった反動で、彼がとてつもなく強力なスキルを手に入れている事を。 そのスキル【永久コンボ】は、ドラゴンすらも容易く屠る最強のスキルであり、その力でドラゴンを倒した竜谷竜也は生き延び復讐を誓う。 序でに、精神支配されているであろうクラスメート達の救出も。 この物語はゴミの様な村人と言う職業の男が、最強スキル永久コンボを持って異世界で無双する物語となります。

処理中です...