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4.冒険者ギルド
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それは立派な建造物が並ぶフォルモーントにおいて、一際大きな建物だった。
赤銅色をした、レンガ造りの外壁。
四階建ての二階部分には冒険者ギルドを示す大きな看板がかかっており、冒険者の象徴である剣と盾を重ねたデザインが施されている。
正面の入口にある両開きの扉は夜だというのに完全に開け放たれており、流れ者だろうと受け入れるという豪胆な冒険者ギルドらしさが感じられた。
「ここが冒険者ギルドだ。
とりあえず冒険者登録だけして、その後依頼でも見繕おう」
俺はゾルグに続いてギルドの中へと入った。
建物の中は広いホールのようになっていた。
入って左手の壁には大きな掲示板があり、そこにいくつも紙が貼られている。
おそらくあれが依頼書というヤツだろう。
右手にはカウンターがあり、小さなバーのようになっている。
ゾルグは外の店で呑んでいたが、ギルド内でも酒は呑めるらしい。
そして正面にある受付へ、ゾルグは真っ直ぐ歩いていった。
「ラティー、ちょっといいか?」
以前ラド村に行商人の護衛として来た冒険者から、こんな話を聞いたことがある。
冒険者ギルドの受付嬢は皆美人である、と。
果たして、その話は真実だった。
艶やかに流れる若草色の髪。
切れ長の瞳に、透き通るような白い肌。
その美貌は、冒険者たちの視線を惹き付けてやまないだろうことは想像に難くなかった。
「ゾルグさんがこんな時間にギルドに来るなんて。
何かあったんですか?」
この時間にゾルグがギルドに顔を見せるのは珍しいのだろう。
緊急事態を想定しているのか、ラティーは真剣な表情になった。
「ちげぇよ。そういうんじゃねぇ。
今日は期待の新人を案内してきたんだよ」
「期待の新人、ですか?」
そこでようやく、ラティーの視線がゾルグの横にいた俺を捉えた。
これから世話になるかもしれない相手だ。
礼儀など知らない田舎者だが、せめて誠意だけでも伝わるよう姿勢をただす。
「ラザールだ。
仕事を探している時に、ゾルグから冒険者を紹介されてな。
俺に冒険者の仕事ができるかわからないが、よろしく頼む」
「私はフォルモーント冒険者ギルドで受付をしているラティーです。
これからよろしくお願いしますね。
それにしても、ゾルグさんが直々に付き添ってくるなんて、そんな方初めてですよ。
有望な方なんですね」
「よくわからないが、もしかしてゾルグって凄い奴なのか?」
俺のついこぼれた疑問に、ラティーの目がキラリと輝いた。
「もちろんですよ!
世界に五人しかいないSランク冒険者。その内の一人がゾルグさんです。
鍛え抜かれた超硬度の肉体は、竜の牙すら防ぐといわれているんですよ。
〈黒鱗〉のゾルグといえば、マアレヘット王国最強の一人なんですから」
冒険者にはランクと呼ばれる等級が存在する。
新人をFランクとし、そこから実力が上がるのに合わせてE、D、C、B、Aと等級が変わっていく。
ちなみにいつもラド村に来ていた冒険者はDランクだった。
Dランクというと低く聞こえるが、そもそも冒険者の大半がCランク以下である。
Bランクになれれば一流として認められ、Aランク冒険者ともなると、その実力は国軍の一個中隊にも匹敵するという。
そして、そんなAランク冒険者が束になっても敵わない存在。
それがSランク冒険者だ。
その実力はまさに生きる天災であり、個の武力だけで国を相手取って戦うこともできるほどである。
「あんたってそんなに強かったんだな」
ただ酒場で絡んでくる酔っ払い冒険者ではなかったわけだ。
「よせよ。お前だって似たようなもんだろ」
「さっきも言ったが、俺に戦闘経験はないぞ」
「そんな次元の話じゃないんだがな……」
ガシガシと頭をかくゾルグ。
「とにかく、ラティー。ラザールの冒険者登録を頼む」
「はい、わかりました。ラザールさん、こちらの石板に手を置いてください」
「こうか?」
俺は受付のカウンターの上に置かれた、厚みのある白磁の石板の上に手をのせた。
すると、石板が薄く発光を始めたではないか。
「こちらの石板は使用者の神力のパターンを読み取り、記録することができるんです」
「神力ってのはなんだ?」
「神力とは、ルゴス神から授かった天恵を使用するために必要な力のことです。
天恵が人によって異なるように、神力もまた人によって特徴があるんですよ。
それを読み取ることで、個人の識別を可能にしているんです」
個人の識別か。
今この夢の世界にある俺の身体。
これは俺自身の身体なのか。
それとも、天恵によって造り出された仮初のものなのか。
夢の中である以上、仮初のものであるはずだが、だとしたらそこに神力なる力は存在しているのだろうか。
もしかしたら人でなし認定されるのでは、と内心冷や汗をかいていたが、石板の発光が収まってもラティーの様子におかしな変化はなく、そのまま手続きは続いた。
どうやら、この身体にも神力という力は宿っているらしい。
神力を使用する天恵によって産み出されたのだから、そこに神力が宿っていても不思議ではないのかもしれない。
まあ、そもそもその神力というものが、俺の妄想の産物という可能性も否定しきれないのだが。
「ではこちらが、ラザールさんの冒険者タグになります」
ラティーに手渡されたそれは、小さな木片に紐を通したネックレスだった。
「こちらの冒険者タグにはそれぞれ所有者の情報が記録されています。
その情報は世界中どこの冒険者ギルドでも識別可能ですので、ラザールさんがフォルモーントを出て他の街で仕事をする際も、こちらのタグがあればスムーズに依頼の処理ができますよ」
「なるほどな。
俺のタグと、ゾルグのタグの素材が違うのには何か意味があるのか?」
俺はゾルグの胸元にある鮮やかな黄橙色をしたタグへ視線を向けた。
「冒険者タグは冒険者のランクによって異なる素材を使用しているんです。
登録したばかりの新人、Fランクのラザールさんはウッド。
そこからランクが上がるにつれてアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ミスリル。
そして、Sランクを表すオリハルコン。
ゾルグさんのしているタグがそうですね」
ゾルグが俺に見せるように、タグを軽く摘まんだ。
「ラザールさんも、オリハルコンになれるように頑張ってくださいね」
「そうだな。無理しない範囲で頑張ってみるよ」
Sランク冒険者は世界に五人しかいない。
化け物のような実力を持つ奴らの中に自分が加われるとは思わない。
だが、せっかく現実では決してなることのできない冒険者になれたのだ。
どうせならSランクは無理でも、一流と呼ばれるBランクくらいは目指してもいいかもしれない。
赤銅色をした、レンガ造りの外壁。
四階建ての二階部分には冒険者ギルドを示す大きな看板がかかっており、冒険者の象徴である剣と盾を重ねたデザインが施されている。
正面の入口にある両開きの扉は夜だというのに完全に開け放たれており、流れ者だろうと受け入れるという豪胆な冒険者ギルドらしさが感じられた。
「ここが冒険者ギルドだ。
とりあえず冒険者登録だけして、その後依頼でも見繕おう」
俺はゾルグに続いてギルドの中へと入った。
建物の中は広いホールのようになっていた。
入って左手の壁には大きな掲示板があり、そこにいくつも紙が貼られている。
おそらくあれが依頼書というヤツだろう。
右手にはカウンターがあり、小さなバーのようになっている。
ゾルグは外の店で呑んでいたが、ギルド内でも酒は呑めるらしい。
そして正面にある受付へ、ゾルグは真っ直ぐ歩いていった。
「ラティー、ちょっといいか?」
以前ラド村に行商人の護衛として来た冒険者から、こんな話を聞いたことがある。
冒険者ギルドの受付嬢は皆美人である、と。
果たして、その話は真実だった。
艶やかに流れる若草色の髪。
切れ長の瞳に、透き通るような白い肌。
その美貌は、冒険者たちの視線を惹き付けてやまないだろうことは想像に難くなかった。
「ゾルグさんがこんな時間にギルドに来るなんて。
何かあったんですか?」
この時間にゾルグがギルドに顔を見せるのは珍しいのだろう。
緊急事態を想定しているのか、ラティーは真剣な表情になった。
「ちげぇよ。そういうんじゃねぇ。
今日は期待の新人を案内してきたんだよ」
「期待の新人、ですか?」
そこでようやく、ラティーの視線がゾルグの横にいた俺を捉えた。
これから世話になるかもしれない相手だ。
礼儀など知らない田舎者だが、せめて誠意だけでも伝わるよう姿勢をただす。
「ラザールだ。
仕事を探している時に、ゾルグから冒険者を紹介されてな。
俺に冒険者の仕事ができるかわからないが、よろしく頼む」
「私はフォルモーント冒険者ギルドで受付をしているラティーです。
これからよろしくお願いしますね。
それにしても、ゾルグさんが直々に付き添ってくるなんて、そんな方初めてですよ。
有望な方なんですね」
「よくわからないが、もしかしてゾルグって凄い奴なのか?」
俺のついこぼれた疑問に、ラティーの目がキラリと輝いた。
「もちろんですよ!
世界に五人しかいないSランク冒険者。その内の一人がゾルグさんです。
鍛え抜かれた超硬度の肉体は、竜の牙すら防ぐといわれているんですよ。
〈黒鱗〉のゾルグといえば、マアレヘット王国最強の一人なんですから」
冒険者にはランクと呼ばれる等級が存在する。
新人をFランクとし、そこから実力が上がるのに合わせてE、D、C、B、Aと等級が変わっていく。
ちなみにいつもラド村に来ていた冒険者はDランクだった。
Dランクというと低く聞こえるが、そもそも冒険者の大半がCランク以下である。
Bランクになれれば一流として認められ、Aランク冒険者ともなると、その実力は国軍の一個中隊にも匹敵するという。
そして、そんなAランク冒険者が束になっても敵わない存在。
それがSランク冒険者だ。
その実力はまさに生きる天災であり、個の武力だけで国を相手取って戦うこともできるほどである。
「あんたってそんなに強かったんだな」
ただ酒場で絡んでくる酔っ払い冒険者ではなかったわけだ。
「よせよ。お前だって似たようなもんだろ」
「さっきも言ったが、俺に戦闘経験はないぞ」
「そんな次元の話じゃないんだがな……」
ガシガシと頭をかくゾルグ。
「とにかく、ラティー。ラザールの冒険者登録を頼む」
「はい、わかりました。ラザールさん、こちらの石板に手を置いてください」
「こうか?」
俺は受付のカウンターの上に置かれた、厚みのある白磁の石板の上に手をのせた。
すると、石板が薄く発光を始めたではないか。
「こちらの石板は使用者の神力のパターンを読み取り、記録することができるんです」
「神力ってのはなんだ?」
「神力とは、ルゴス神から授かった天恵を使用するために必要な力のことです。
天恵が人によって異なるように、神力もまた人によって特徴があるんですよ。
それを読み取ることで、個人の識別を可能にしているんです」
個人の識別か。
今この夢の世界にある俺の身体。
これは俺自身の身体なのか。
それとも、天恵によって造り出された仮初のものなのか。
夢の中である以上、仮初のものであるはずだが、だとしたらそこに神力なる力は存在しているのだろうか。
もしかしたら人でなし認定されるのでは、と内心冷や汗をかいていたが、石板の発光が収まってもラティーの様子におかしな変化はなく、そのまま手続きは続いた。
どうやら、この身体にも神力という力は宿っているらしい。
神力を使用する天恵によって産み出されたのだから、そこに神力が宿っていても不思議ではないのかもしれない。
まあ、そもそもその神力というものが、俺の妄想の産物という可能性も否定しきれないのだが。
「ではこちらが、ラザールさんの冒険者タグになります」
ラティーに手渡されたそれは、小さな木片に紐を通したネックレスだった。
「こちらの冒険者タグにはそれぞれ所有者の情報が記録されています。
その情報は世界中どこの冒険者ギルドでも識別可能ですので、ラザールさんがフォルモーントを出て他の街で仕事をする際も、こちらのタグがあればスムーズに依頼の処理ができますよ」
「なるほどな。
俺のタグと、ゾルグのタグの素材が違うのには何か意味があるのか?」
俺はゾルグの胸元にある鮮やかな黄橙色をしたタグへ視線を向けた。
「冒険者タグは冒険者のランクによって異なる素材を使用しているんです。
登録したばかりの新人、Fランクのラザールさんはウッド。
そこからランクが上がるにつれてアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ミスリル。
そして、Sランクを表すオリハルコン。
ゾルグさんのしているタグがそうですね」
ゾルグが俺に見せるように、タグを軽く摘まんだ。
「ラザールさんも、オリハルコンになれるように頑張ってくださいね」
「そうだな。無理しない範囲で頑張ってみるよ」
Sランク冒険者は世界に五人しかいない。
化け物のような実力を持つ奴らの中に自分が加われるとは思わない。
だが、せっかく現実では決してなることのできない冒険者になれたのだ。
どうせならSランクは無理でも、一流と呼ばれるBランクくらいは目指してもいいかもしれない。
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