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7.誘拐するならもっとうまくやってもらわないと

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「はあっ……、はあっ……」

 路地裏を走っていた男は、追手がいないことを確認すると一軒のぼろ屋に逃げ込んだ。
 一見すると廃屋にしか見えないこの建物だが、実は男たちがいつも利用している秘密の通路の入口になっている。
 部屋の端にある床板を外すと、街の外にある森へと続く地下通路が現れるのだ。
 男は子供を攫ってはこの通路から街の外へと運び出し、奴隷として貴族相手に売りつける、闇の奴隷商人だった。

 男は今日の戦果である幼女へと目をやった。
 仲間がひったくりをして囮になっている間に、男が連れ去ったのだ。
 床に座り込んでいる幼女は泣きわめくようなことこそなかったが、幼いながらも己の置かれている状況をある程度理解しているのだろう。
 その表情は恐怖に染まっていた。

「見た目は悪くねぇ。こりゃそれなりの金になりそうだ」

 見目のいい幼女というのは需要が高い。
 もちろん労働力としてではなく、愛玩奴隷としてだが。
 一部の変態貴族たちは、幼児にしか性的興奮を抱くことができないらしい。
 男には理解不能な性癖だが、それで商売が成り立っているのだから貴族様々だ。

 男は床板を剥がすと、再び幼女を抱え上げた。

「これからお前は新しいご主人様のところに行くんだ。
 泣いたりするなよ、痛い思いをしたくなかったらな」

「……ひぅ」

 返事をする余裕もないのか、幼女の口からは小さな悲鳴のようなものが漏れただけだった。
 男としても泣き叫ばれるよりは、おとなしくしてくれた方が、なにかと都合がいい。

 いつものように、街の外へと続く通路へと足を進めようとしたその時だった。

「その子を連れていくのは待ってくれないかしら?」

 突如聞こえた声に、男は慌てて振り返った。
 そこには一人の女が立っていた。

「誰だっ!」

 家の扉は閉まっている。
 他に人間が出入りできるような窓もない。
 この狭い室内で誰かが出入りして気がつかないはずがないのだ。
 いったいこの女はどこから現れた!?

「その子を連れて行かれると困るのよ。
 いや、連れてってくれるのはいいんだけど、せめてやるなら私が対処できないような方法で誘拐してくれないと。
 どうしようもないことなら諦められるけど、助けられるのに助けないのはいい人ではないでしょう?」

 いったいこの女は何を言っているんだ。
 このガキを連れ戻しに来たのか、それとも連れ去って欲しいのか。
 気味の悪いやつだ。

 だが、落ち着いて女のことを良く見ると、目鼻立ちの整ったいい女ではないか。
 格好は冒険者のような軽装備で野暮ったいが、服に覆われているスタイルも悪くない。

 突然の出来事に戸惑っていた男だったが、女の容姿を見て奴隷商人としての本能が働いた。
 この女は高く売れるぞ、と。
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