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9.謎の村人少年
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「では登録の続きをさせていただきますね」
「よろしくお願いします」
「ケントさんにはFランクの冒険者として活動していただくことになります。そして依頼の達成状況に応じて昇格することができます。ランクはFから順にE、D、C、B、A、Sとなっています。依頼は基本的に自分のランクと同じランクの依頼を受けていただくことになりますが、もし同じランクの依頼がない場合は一つ下のランクの依頼を受けていただくことになります」
「昇格の目安などはありますか」
「昇格の条件は機密となっておりますので詳細はお話しすることができません。しかし、上位のランクに上がるほど昇格条件は厳しくなっており、現在Sランク冒険者として活躍している方は3名しかおりません」
(3人しか最高ランクに到達できてないのか。なかなか厳しそうだな。でもまあ上のランクになるとプレッシャーとかすごそうだし、俺にはメンタル的に無理かな~。とりあえずCかB位を目標に頑張るか)
「ケントさんの場合、採取系の依頼のみですとEランクまでは昇格できますが、それより上のランクになりますとやはり戦闘能力も必要になってきますので攻撃手段を身につけないと昇格することは難しいと思います」
(おぅふ…、いきなり目標達成が困難になってしまった。何か攻撃手段を身につけるべきかな~、やっぱり。水魔法での攻撃を公表するのは目立ちそうだから却下するとして、剣でも買ってみるかな。素振りをすれば剣術スキルとか手に入るのかしらん)
「先ほどパーティーへ入るよう勧められましたが、攻撃手段のない冒険者ではEより上のランクに昇格できない以上依頼もEランクのものまでしか受けることができないということですよね。そのような冒険者をパーティーに入れてしまえば難易度の高い依頼を受けられなくなってしまいませんか?」
「はい。その場合の救済措置として個人のランクのほかにパーティーランクというものがあります。こちらはパーティーメンバーの能力を総合的に判断しランク付けされます。ですから例えば攻撃手段のない冒険者でもCランクのパーティーに所属していれば、そのパーティーで活動する場合に限りCランクの依頼を受けることができるようになります。もっともパーティーランクの審査基準は個人のものよりも厳しく、またパーティーメンバーが変化するたびに審査が入ることになります」
(なるほど。それなら非戦闘系の冒険者でもパーティー次第で効率的に稼ぐことができるな。俺もEランクに昇格するまでは採取系の依頼のみでいこうと思うけど、その後のことを考えるとパーティーメンバーを探していくべきかもしれないな)
「依頼はあちらのボードに貼りだしてある用紙を受付まで持ってきていただけたら受けることができます。ただし、依頼に失敗すると罰金が発生する場合があります。また、失敗数が多いと降格処分となります。Fランクの場合は除名処分となりますのでご注意ください。その他規則等はこちらの冊子にまとめてありますのでご確認ください」
そういって受付嬢は薄い冊子を差し出した。
(こういうのって後で読もうと思って、そのまま忘れちゃうんだよな~。夜に宿で読むとするか)
「それではこちらがギルドカードになります。再発行は可能ですが手数料として3万ギルがかかりますので紛失にはご注意ください」
ケントは何かの金属でできた名刺サイズの板を受け取った。
オモテ面にはギルドの剣と盾のエンブレムが入れられており、裏面にはケントの名前とFの文字が記されていた。
(これがギルドカードか。アイテムボックスに入れておけば失くすこともないだろう)
「以上で登録は完了となりますが、このまま依頼をお受けになりますか」
「いえ、このあと他の予定がありますので。1つお聞きしたいのですが、冒険者に必要な品はどこに行けば買えるのでしょうか」
「それでしたら、商業区を回っていただければ食料や小道具など一通り揃えることができると思います。武器や防具などは工業区に行けば安く見繕えると思います」
ランドンの街は十字に交差する大通りを境に4つの区域に分かれている。
冒険者ギルドのある商業区から時計回りに居住区、貴族区、工業区となっている。
ケントが泊まった宿屋は商業区に存在する。
「今日はありがとうございました、お姉さん。明日から依頼を受けてみようと思うのでよろしくお願いします」
「…申し遅れました、私冒険者ギルドランドン支部のギルド職員のオリヴィアといいます」
「改めましてケントイツミです。オリヴィアさん、これからよろしくお願いしますね」
◇
~オリヴィア視点~
人影のまばらなギルドのホールを受付の席からぼーっと眺めながら、オリヴィアは先ほど冒険者登録をした黒髪の少年のことを考えていた。
初め彼は突然目の前に現れた。
いくら利用者の少ない時間だからといって目の前で声をかけられるまで相手に気が付かないとは、少し腑抜けすぎているかもしれないと思った。
魔物や盗賊と命の駆け引きをするようなことはなくなったが、今は受付の仕事が私にとっての戦場だ。
気合を入れなおさなければとひそかに誓った。
少年の名前はケントというらしい。
どこにでもいる村人の服装をしており、実際称号も村人であった。
しかし物腰は穏やかで、話し方に教養を感じた。
貴族とまでは言わなくても商人の子供だったりするのだろうかと考えたが、初対面でそのようなことを詮索することはできない。
ケントはレベルが1しかなかったが、病気がちだったりすればそういうこともあるのだろう。
スキルは魔法を2種類も覚えていたが、回復魔法と水魔法でどちらも補助がメインだ。
新人冒険者が命をそう簡単に散らすのは忍びないのでパーティーへ入るよう勧めてみたが、なんと彼はその提案を拒んだ。
攻撃手段のない彼がソロ活動などすればすぐに死んでしまうだろう。
なかなか了承しない彼の態度を見て私も少しむきになってしまい、ケントの提案した勝負にのってしまった。
隠密で隠れたケントのことを見つけてみろというのだ。
私は受付の仕事をする前はBランクの冒険者として活動していた。
パーティーの解散に伴い冒険者はやめてしまったが、レベル1の新人冒険者に後れを取るほどなまっているつもりはなかった。
新人が自分の実力を見誤ることはよくあることだ。
ここで己の無力さを思い知れば大人しくパーティーにも入ってくれるだろう。
彼のスキルはサポートとしては優秀なのでレベルが低いとはいえ受け入れてくれるパーティーはいるはずだ。
しかし実際はそうはならなかった。
私は彼が机の陰に隠れた瞬間、もう見つけることはできなかった。
背後に現れたケントに明らかにスキルレベルⅠの隠密ではないことを詰問したが、彼が言うには技術で隠密の効果を増幅させたというのだ。
今思うと最初に彼が突然目の前に現れた理由もこれだったのではないだろうか。
どうみても普通の村人の技術ではなかったが、勝負は勝負なので彼のソロ活動を認めることにした。
幸い彼もパーティーを組むことに前向きになってくれたようなので良かった。
そんなことを考えていると入り口から1人の男が入ってきた。
よく見ると王国騎士、それも精鋭である近衛騎士の鎧を身にまとっていた。
何事かと思い、身をこわばらせているとその男が話しかけてきた。
「すまない。人を探しているのだが」
「どのような方でしょうか」
私だってギルドの受付嬢だ。
緊張しながらもしっかりと応対をする。
「氷の魔法使いだ。ランドンへ来る途中盗賊に襲われているところを助けてもらったのだが、姿を見せずに立ち去ってしまってな。場所はランドン近郊であったのでランドンに滞在する冒険者ではないかとあたりをつけたのだ」
「氷の魔法使い…ですか。すみませんがそのような魔法に聞き覚えはありません。ランドンの冒険者に氷の魔法使いという稀有な人材がいれば把握しているはずですが」
「やはりそうか。我々も氷の魔法など聞いたことがなかったのでな、何か隠す事情があるのかもしれん。すまないが、もし何か分かったことがあれば領主邸まで知らせてほしい」
「わかりました。ギルドマスターにも伝えておきます」
謎の村人少年に氷の魔法使い。
突然身の回りに現れた不思議な存在に冒険者としての好奇心がうずきだすオリヴィアであった。
「よろしくお願いします」
「ケントさんにはFランクの冒険者として活動していただくことになります。そして依頼の達成状況に応じて昇格することができます。ランクはFから順にE、D、C、B、A、Sとなっています。依頼は基本的に自分のランクと同じランクの依頼を受けていただくことになりますが、もし同じランクの依頼がない場合は一つ下のランクの依頼を受けていただくことになります」
「昇格の目安などはありますか」
「昇格の条件は機密となっておりますので詳細はお話しすることができません。しかし、上位のランクに上がるほど昇格条件は厳しくなっており、現在Sランク冒険者として活躍している方は3名しかおりません」
(3人しか最高ランクに到達できてないのか。なかなか厳しそうだな。でもまあ上のランクになるとプレッシャーとかすごそうだし、俺にはメンタル的に無理かな~。とりあえずCかB位を目標に頑張るか)
「ケントさんの場合、採取系の依頼のみですとEランクまでは昇格できますが、それより上のランクになりますとやはり戦闘能力も必要になってきますので攻撃手段を身につけないと昇格することは難しいと思います」
(おぅふ…、いきなり目標達成が困難になってしまった。何か攻撃手段を身につけるべきかな~、やっぱり。水魔法での攻撃を公表するのは目立ちそうだから却下するとして、剣でも買ってみるかな。素振りをすれば剣術スキルとか手に入るのかしらん)
「先ほどパーティーへ入るよう勧められましたが、攻撃手段のない冒険者ではEより上のランクに昇格できない以上依頼もEランクのものまでしか受けることができないということですよね。そのような冒険者をパーティーに入れてしまえば難易度の高い依頼を受けられなくなってしまいませんか?」
「はい。その場合の救済措置として個人のランクのほかにパーティーランクというものがあります。こちらはパーティーメンバーの能力を総合的に判断しランク付けされます。ですから例えば攻撃手段のない冒険者でもCランクのパーティーに所属していれば、そのパーティーで活動する場合に限りCランクの依頼を受けることができるようになります。もっともパーティーランクの審査基準は個人のものよりも厳しく、またパーティーメンバーが変化するたびに審査が入ることになります」
(なるほど。それなら非戦闘系の冒険者でもパーティー次第で効率的に稼ぐことができるな。俺もEランクに昇格するまでは採取系の依頼のみでいこうと思うけど、その後のことを考えるとパーティーメンバーを探していくべきかもしれないな)
「依頼はあちらのボードに貼りだしてある用紙を受付まで持ってきていただけたら受けることができます。ただし、依頼に失敗すると罰金が発生する場合があります。また、失敗数が多いと降格処分となります。Fランクの場合は除名処分となりますのでご注意ください。その他規則等はこちらの冊子にまとめてありますのでご確認ください」
そういって受付嬢は薄い冊子を差し出した。
(こういうのって後で読もうと思って、そのまま忘れちゃうんだよな~。夜に宿で読むとするか)
「それではこちらがギルドカードになります。再発行は可能ですが手数料として3万ギルがかかりますので紛失にはご注意ください」
ケントは何かの金属でできた名刺サイズの板を受け取った。
オモテ面にはギルドの剣と盾のエンブレムが入れられており、裏面にはケントの名前とFの文字が記されていた。
(これがギルドカードか。アイテムボックスに入れておけば失くすこともないだろう)
「以上で登録は完了となりますが、このまま依頼をお受けになりますか」
「いえ、このあと他の予定がありますので。1つお聞きしたいのですが、冒険者に必要な品はどこに行けば買えるのでしょうか」
「それでしたら、商業区を回っていただければ食料や小道具など一通り揃えることができると思います。武器や防具などは工業区に行けば安く見繕えると思います」
ランドンの街は十字に交差する大通りを境に4つの区域に分かれている。
冒険者ギルドのある商業区から時計回りに居住区、貴族区、工業区となっている。
ケントが泊まった宿屋は商業区に存在する。
「今日はありがとうございました、お姉さん。明日から依頼を受けてみようと思うのでよろしくお願いします」
「…申し遅れました、私冒険者ギルドランドン支部のギルド職員のオリヴィアといいます」
「改めましてケントイツミです。オリヴィアさん、これからよろしくお願いしますね」
◇
~オリヴィア視点~
人影のまばらなギルドのホールを受付の席からぼーっと眺めながら、オリヴィアは先ほど冒険者登録をした黒髪の少年のことを考えていた。
初め彼は突然目の前に現れた。
いくら利用者の少ない時間だからといって目の前で声をかけられるまで相手に気が付かないとは、少し腑抜けすぎているかもしれないと思った。
魔物や盗賊と命の駆け引きをするようなことはなくなったが、今は受付の仕事が私にとっての戦場だ。
気合を入れなおさなければとひそかに誓った。
少年の名前はケントというらしい。
どこにでもいる村人の服装をしており、実際称号も村人であった。
しかし物腰は穏やかで、話し方に教養を感じた。
貴族とまでは言わなくても商人の子供だったりするのだろうかと考えたが、初対面でそのようなことを詮索することはできない。
ケントはレベルが1しかなかったが、病気がちだったりすればそういうこともあるのだろう。
スキルは魔法を2種類も覚えていたが、回復魔法と水魔法でどちらも補助がメインだ。
新人冒険者が命をそう簡単に散らすのは忍びないのでパーティーへ入るよう勧めてみたが、なんと彼はその提案を拒んだ。
攻撃手段のない彼がソロ活動などすればすぐに死んでしまうだろう。
なかなか了承しない彼の態度を見て私も少しむきになってしまい、ケントの提案した勝負にのってしまった。
隠密で隠れたケントのことを見つけてみろというのだ。
私は受付の仕事をする前はBランクの冒険者として活動していた。
パーティーの解散に伴い冒険者はやめてしまったが、レベル1の新人冒険者に後れを取るほどなまっているつもりはなかった。
新人が自分の実力を見誤ることはよくあることだ。
ここで己の無力さを思い知れば大人しくパーティーにも入ってくれるだろう。
彼のスキルはサポートとしては優秀なのでレベルが低いとはいえ受け入れてくれるパーティーはいるはずだ。
しかし実際はそうはならなかった。
私は彼が机の陰に隠れた瞬間、もう見つけることはできなかった。
背後に現れたケントに明らかにスキルレベルⅠの隠密ではないことを詰問したが、彼が言うには技術で隠密の効果を増幅させたというのだ。
今思うと最初に彼が突然目の前に現れた理由もこれだったのではないだろうか。
どうみても普通の村人の技術ではなかったが、勝負は勝負なので彼のソロ活動を認めることにした。
幸い彼もパーティーを組むことに前向きになってくれたようなので良かった。
そんなことを考えていると入り口から1人の男が入ってきた。
よく見ると王国騎士、それも精鋭である近衛騎士の鎧を身にまとっていた。
何事かと思い、身をこわばらせているとその男が話しかけてきた。
「すまない。人を探しているのだが」
「どのような方でしょうか」
私だってギルドの受付嬢だ。
緊張しながらもしっかりと応対をする。
「氷の魔法使いだ。ランドンへ来る途中盗賊に襲われているところを助けてもらったのだが、姿を見せずに立ち去ってしまってな。場所はランドン近郊であったのでランドンに滞在する冒険者ではないかとあたりをつけたのだ」
「氷の魔法使い…ですか。すみませんがそのような魔法に聞き覚えはありません。ランドンの冒険者に氷の魔法使いという稀有な人材がいれば把握しているはずですが」
「やはりそうか。我々も氷の魔法など聞いたことがなかったのでな、何か隠す事情があるのかもしれん。すまないが、もし何か分かったことがあれば領主邸まで知らせてほしい」
「わかりました。ギルドマスターにも伝えておきます」
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