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「榎本先生、背中に糸くずがついていますよ」
私は背後から近づくと榎本先生の背中に手を伸ばした。
「ほら、とれましたよ」
「おお、ありがとな。
そうだ御堂、実は今朝……」
キーンコーン
その時、榎本先生の言葉を遮るように予鈴のチャイムが鳴った。
「ほら先生、授業始まりますよ。
話なら後でうかがいます」
それだけいうと私は自分の席へと戻った。
「そんなたいした話じゃないんだが……。
まあ後でもいいか」
そんな暢気なことを呟きながら教壇へと立つ榎本先生。
(既に闘いは始まっているんですよ、榎本先生)
私は教科書で口元を隠しながらほくそ笑んだ。
◇
カンニングはどうしてバレるのか。
それは世にはびこるカンニングの多くが1つの共通点を持っているからである。
ではその共通点とはなんなのか。
それはカンニングに使用するアイテムを身近に用意する必要があるという点である。
カンニングペーパーしかり、スマートフォンしかり。
いずれのカンニングアイテムも隠しながらこっそりと見ることのできる場所に用意する必要がある。
それがわかっているから試験官は一人一人の様子に注意を払うし、カンニングをする際の不自然な体の動きを察知することができる。
手の届くところでこっそりカンニングするからバレる。
ならばいったいどうすればいいのか。
その答えに私は気がついてしまった。
それならば遠くから堂々とカンニングをすればバレないのが道理であると。
「それじゃあ始め」
榎本先生の開始の合図に合わせ、小テストを解き始めるクラスメイトたち。
私もシャーペンを手に持つと真面目に問題を解いている風を装う。
(まだだ……、まだ……)
焦ってはいけない。
カンニングのチャンスがくるのを神経を研ぎ澄ませながら待つ。
教室には机を滑るシャーペンの音と、巡回をしている榎本先生の靴音だけが静かに響いていた。
そして先生が私の隣を通過したところでついにその瞬間が訪れた。
(きたっ……!)
私は通りすぎる先生の後ろ姿を注視した。
正確には先生の背中に貼ってあるカンニングペーパーをだが。
今回のカンニング法は榎本先生の背中にカンニングペーパーを貼りつけるという大胆にして、榎本先生にはバレにくいという画期的な方法だ。
先生がどれだけ注意して生徒の様子を見て回ってもけっしてカンニングを見つけることはできない。
なぜならカンニングが行われるのは必ず先生が背を向けたときだけだからだ。
カンニングペーパーは授業開始前に糸くずをとってあげると見せかけて先生の背中に貼りつけておいた。
後はカンニングペーパーの方から答えを見せにやってきてくれるという作戦だ。
これならさしもの榎本先生といえど、私のカンニングを見抜くことはできまい。
「先生、背中になにか貼られてますよ」
「ん?
なんだこれ」
榎本先生は自身の背中から剥ぎ取ったものを不思議そうに眺めていた。
(残念、もうバレたか)
できれば小テストが終わってから見つかるのがベストではあったが、見つかってしまったのなら仕方ない。
先生の背中という目立つ場所に貼る以上、遅かれ早かれ見つかってしまうのは当然想定していた。
その際に犯人が私だとバレてしまってはもともこもない。
だが私に抜かりはなかった。
カンニングペーパーはパソコンを使って作成し、朝登校前にコンビニで印刷してきたものだ。
故に筆跡等から私を特定することはできない。
(これぞ完全犯罪)
先生が歩き回る以上、実際にカンニングペーパーを読むことができるのはわずか数秒であり、点数をとるという目的に完全に適した方法ではない。
しかし、そんなことは関係ない。
私はただ、カンニングがしたいだけなのだから。
「御堂、これを貼ったのはお前か?」
「違いますよ」
私は慈愛の笑みを浮かべながら答えた。
まったく、真っ先に私を疑うなんて失礼な先生だ。
だが、たとえ私を疑おうとも証拠はどこにもない。
私の勝ちは既に確定事項だ。
「そうか。
ところで御堂、今朝コンビニへ行ったか?」
なんだ?
まさか朝コンビニへ入ったところを見られていたのか?
先生の意図はわからないが、ここで嘘をつくのは愚策かもしれない。
「はい。
お昼ごはんを買いに行きました」
これは嘘ではない。
お昼ごはんのパンを買ったのは事実だ。
「なるほどな。
でだ、これに見覚えはあるか」
そういうと先生はポケットから一つのUSBを取り出した。
(あれは私の……っ!)
どうして先生が私のUSBを持っているのだろうか。
疑問はあるが、ここは正直に答えるべきだろう。
「私のUSBです」
「実はな、今朝俺もコンビニに行ったんだよ。
そしたらプリンターの前で何かやっているお前をみかけてな。
まあ、なんか真剣そうにしていたから声はかけなかったんだが。
昼飯を買ってコンビニを出ようとしたとき、ふとプリンターが視界に入ってな。
そこにこれが忘れてあったんだよ。
お前のだと思ったから持ってきちゃったんだが、まさかこの中にこのカンニングペーパーのデータが入っていたりしないよな」
「あはは、まさか。
そんなもの入っている分けないじゃないですか」
(まずい、まずい、まずい!
カンニングペーパーのデータどころか、今後のカンニング予定表から新たなカンニング案、さらにはカンニングをする上で必要になるスキル一覧まで入ってます!)
冷や汗が頬を伝い、顔面に張りつけた笑みがひきつる。
流石にここで認めてしまうわけにはいかない。
安易に嘘をつくとそこから綻びが生じる可能性があるが、この際仕方ない。
「なるほどな。
だが、カンニングペーパーがこうしてある以上、俺としても確認をしないわけにはいかないんだよ。
御堂には悪いが、後で中をみさせてもらうからな。
別に御堂を疑っているわけじゃないんだ、誤解しないでくれよ」
「すみません、私がやりました」
ガバッと私は腰が90度になるまで頭を下げた。
「はぁ……。
御堂、後で準備室な」
こうして本日の闘いも御堂の敗けで幕引きとなった。
私は背後から近づくと榎本先生の背中に手を伸ばした。
「ほら、とれましたよ」
「おお、ありがとな。
そうだ御堂、実は今朝……」
キーンコーン
その時、榎本先生の言葉を遮るように予鈴のチャイムが鳴った。
「ほら先生、授業始まりますよ。
話なら後でうかがいます」
それだけいうと私は自分の席へと戻った。
「そんなたいした話じゃないんだが……。
まあ後でもいいか」
そんな暢気なことを呟きながら教壇へと立つ榎本先生。
(既に闘いは始まっているんですよ、榎本先生)
私は教科書で口元を隠しながらほくそ笑んだ。
◇
カンニングはどうしてバレるのか。
それは世にはびこるカンニングの多くが1つの共通点を持っているからである。
ではその共通点とはなんなのか。
それはカンニングに使用するアイテムを身近に用意する必要があるという点である。
カンニングペーパーしかり、スマートフォンしかり。
いずれのカンニングアイテムも隠しながらこっそりと見ることのできる場所に用意する必要がある。
それがわかっているから試験官は一人一人の様子に注意を払うし、カンニングをする際の不自然な体の動きを察知することができる。
手の届くところでこっそりカンニングするからバレる。
ならばいったいどうすればいいのか。
その答えに私は気がついてしまった。
それならば遠くから堂々とカンニングをすればバレないのが道理であると。
「それじゃあ始め」
榎本先生の開始の合図に合わせ、小テストを解き始めるクラスメイトたち。
私もシャーペンを手に持つと真面目に問題を解いている風を装う。
(まだだ……、まだ……)
焦ってはいけない。
カンニングのチャンスがくるのを神経を研ぎ澄ませながら待つ。
教室には机を滑るシャーペンの音と、巡回をしている榎本先生の靴音だけが静かに響いていた。
そして先生が私の隣を通過したところでついにその瞬間が訪れた。
(きたっ……!)
私は通りすぎる先生の後ろ姿を注視した。
正確には先生の背中に貼ってあるカンニングペーパーをだが。
今回のカンニング法は榎本先生の背中にカンニングペーパーを貼りつけるという大胆にして、榎本先生にはバレにくいという画期的な方法だ。
先生がどれだけ注意して生徒の様子を見て回ってもけっしてカンニングを見つけることはできない。
なぜならカンニングが行われるのは必ず先生が背を向けたときだけだからだ。
カンニングペーパーは授業開始前に糸くずをとってあげると見せかけて先生の背中に貼りつけておいた。
後はカンニングペーパーの方から答えを見せにやってきてくれるという作戦だ。
これならさしもの榎本先生といえど、私のカンニングを見抜くことはできまい。
「先生、背中になにか貼られてますよ」
「ん?
なんだこれ」
榎本先生は自身の背中から剥ぎ取ったものを不思議そうに眺めていた。
(残念、もうバレたか)
できれば小テストが終わってから見つかるのがベストではあったが、見つかってしまったのなら仕方ない。
先生の背中という目立つ場所に貼る以上、遅かれ早かれ見つかってしまうのは当然想定していた。
その際に犯人が私だとバレてしまってはもともこもない。
だが私に抜かりはなかった。
カンニングペーパーはパソコンを使って作成し、朝登校前にコンビニで印刷してきたものだ。
故に筆跡等から私を特定することはできない。
(これぞ完全犯罪)
先生が歩き回る以上、実際にカンニングペーパーを読むことができるのはわずか数秒であり、点数をとるという目的に完全に適した方法ではない。
しかし、そんなことは関係ない。
私はただ、カンニングがしたいだけなのだから。
「御堂、これを貼ったのはお前か?」
「違いますよ」
私は慈愛の笑みを浮かべながら答えた。
まったく、真っ先に私を疑うなんて失礼な先生だ。
だが、たとえ私を疑おうとも証拠はどこにもない。
私の勝ちは既に確定事項だ。
「そうか。
ところで御堂、今朝コンビニへ行ったか?」
なんだ?
まさか朝コンビニへ入ったところを見られていたのか?
先生の意図はわからないが、ここで嘘をつくのは愚策かもしれない。
「はい。
お昼ごはんを買いに行きました」
これは嘘ではない。
お昼ごはんのパンを買ったのは事実だ。
「なるほどな。
でだ、これに見覚えはあるか」
そういうと先生はポケットから一つのUSBを取り出した。
(あれは私の……っ!)
どうして先生が私のUSBを持っているのだろうか。
疑問はあるが、ここは正直に答えるべきだろう。
「私のUSBです」
「実はな、今朝俺もコンビニに行ったんだよ。
そしたらプリンターの前で何かやっているお前をみかけてな。
まあ、なんか真剣そうにしていたから声はかけなかったんだが。
昼飯を買ってコンビニを出ようとしたとき、ふとプリンターが視界に入ってな。
そこにこれが忘れてあったんだよ。
お前のだと思ったから持ってきちゃったんだが、まさかこの中にこのカンニングペーパーのデータが入っていたりしないよな」
「あはは、まさか。
そんなもの入っている分けないじゃないですか」
(まずい、まずい、まずい!
カンニングペーパーのデータどころか、今後のカンニング予定表から新たなカンニング案、さらにはカンニングをする上で必要になるスキル一覧まで入ってます!)
冷や汗が頬を伝い、顔面に張りつけた笑みがひきつる。
流石にここで認めてしまうわけにはいかない。
安易に嘘をつくとそこから綻びが生じる可能性があるが、この際仕方ない。
「なるほどな。
だが、カンニングペーパーがこうしてある以上、俺としても確認をしないわけにはいかないんだよ。
御堂には悪いが、後で中をみさせてもらうからな。
別に御堂を疑っているわけじゃないんだ、誤解しないでくれよ」
「すみません、私がやりました」
ガバッと私は腰が90度になるまで頭を下げた。
「はぁ……。
御堂、後で準備室な」
こうして本日の闘いも御堂の敗けで幕引きとなった。
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