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23.完全無欠少女、王子!
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ソリス・ウィリムスはウィリムス王国の第三王子として生を受けた。
ウィリムス王国はリーニアス帝国と並ぶ大国であり、その国の王子として生を受けた俺の人生はイージーモードだった。
第一、第二王子共に優秀で跡継ぎの心配もないため、最低限の公務さえこなしていれば誰からも煩く言われることはなかった。
俺が兄上たちと比較して平凡であり、期待されるような存在ではなかったというのもあるだろうが。
小さい頃は己の非才に嘆いたこともあったが、今ではそのお陰で重圧を感じることもなく自由にできるのでむしろ感謝しているくらいだ。
王族として最低限の教育しか受けていない俺だが、それは世界最高峰の教育でもあるので、最難関といわれるローランド魔術学院へ入学すること自体はそれほど難しくなかった。
首席で入学した兄上たちと比べられることもあったが、そんなことは今さらだ。
俺はこの学院生活を楽しく過ごすと決めていた。
その合間に婚約者探しでもすれば良いだろう。
王族なので基本的に婚約の自由はないが、それでも第三王子である俺はいくらか融通もきく。
それなりの身分の者を見繕って陛下に紹介し、国にとって有益な婚約だと認めさせれば恐らく通るだろう。
幸いにも学院に通う者は身分の高い者が多い。
確か帝国の公爵令嬢であるルヴィリアも今年入学するはずだ。
幾度か顔を合わせたことがあるが、あれは絶世の美女だ。
俺の妃として申し分ない人物だろう。
時期を見て接触していけば問題あるまい。
そう思っていた。
入学式で妖精に出会うまでは。
◇
彼女を初めて見たとき、俺は目を疑った。
はちみつ色の髪をした彼女の美しさはあまりに現実離れしていて、王族として幾人もの美女を目にしてきた俺が目を奪われてしまうほどだった。
ミエリィ・マイリングと呼ばれた彼女が俺の関心を惹いたのは、その美貌だけではなかった。
なんと彼女は見事な前方宙返り5回ひねりを決めて登壇したのだ。
そして挨拶で話したことと言えばお友達宣言とティーパーティーのことだけだ。
彼女はいったい何なんだ?
その疑問はミエリィと同じクラスになることで少しずつ氷解していった。
今まで俺は自分のことを自由な存在だと思っていた。
王族の力を使えば大抵のことなら思い通りにできたし、俺と顔を合わせるものは皆恭しく接してきた。
それが普通だし、当たり前だと思っていた。
だが、彼女は違った。
俺の想像の斜め上を行く自由さを持っていて、一度たりとも俺を敬う素振りを見せなかった。
いくらこの学院が平等を掲げているといっても、同じクラスに王族がいたら普通は俺の機嫌を損なわないよう立ち回るだろう。
実際、他のクラスメイトは俺に媚を売るか、俺と関わらないようにするかのどちらかだ。
しかし、ミエリィは普通に話しかけてくる。
タメ口で。
それに授業で模擬戦をしても俺に花を持たせる気が一切ない。
まあ、あれだけの力量差があれば、どれだけ手加減されても俺に花を持たせるのは難しいのかもしれないが。
比類なき美貌を振り撒きながら自由に飛び回るその姿はまるでお伽噺に出てくる妖精のようで、気がついたときには俺は彼女に惹かれてしまっていた。
◇
彼女が声をかけてくる度に俺の心は高鳴った。
彼女ともっと話をしたいと思った。
だがしかし、俺の身分がそれを許さなかった。
王族として他人に嘗められるということは、国を嘗められているのと同義だ。
彼女にそんなつもりがないことは十分に分かっているが、彼女の馴れ馴れしい態度が気に入らない人物がいるのもまた事実だった。
ミエリィが話しかけてくる度に、俺の取り巻きたちが俺を彼女と引き離そうとする。
俺に対する彼女の無礼が気に入らないらしい。
いや、違うか。
無礼者を近づけないということを功績として俺に媚を売っているのだ。
媚を売られること自体は慣れているが、ミエリィとの接点を持ちたい俺としては少し煩わしかった。
だが、取り巻きといっても彼らの中にも各国の高位貴族の出身者がいるし、彼らの行いは正しく、無礼なミエリィが間違っているのは事実なので、彼らを無下にすることはできなかった。
だからこそ、彼女がティーパーティーに誘ってくれたときも涙を飲んで教室を後にするしかなかった。
せめて彼女がもう少し常識的な振る舞いをしてくれれば。
ああ、だが俺が惹かれているのは自由な彼女な訳で。
どうすれば良いのか明確な答えが出ないまま、日々は過ぎていった。
◇
このまま変わらぬ日々が過ぎていくと思われたある日のことだった。
転機は唐突に訪れた。
なんとミエリィと2人きりになる機会に巡り会えたのだ。
正確には見張りの賊がいるし、2人とも魔封じの手錠をかけられ牢屋に入れられている状況だが。
ウィリムス王国はリーニアス帝国と並ぶ大国であり、その国の王子として生を受けた俺の人生はイージーモードだった。
第一、第二王子共に優秀で跡継ぎの心配もないため、最低限の公務さえこなしていれば誰からも煩く言われることはなかった。
俺が兄上たちと比較して平凡であり、期待されるような存在ではなかったというのもあるだろうが。
小さい頃は己の非才に嘆いたこともあったが、今ではそのお陰で重圧を感じることもなく自由にできるのでむしろ感謝しているくらいだ。
王族として最低限の教育しか受けていない俺だが、それは世界最高峰の教育でもあるので、最難関といわれるローランド魔術学院へ入学すること自体はそれほど難しくなかった。
首席で入学した兄上たちと比べられることもあったが、そんなことは今さらだ。
俺はこの学院生活を楽しく過ごすと決めていた。
その合間に婚約者探しでもすれば良いだろう。
王族なので基本的に婚約の自由はないが、それでも第三王子である俺はいくらか融通もきく。
それなりの身分の者を見繕って陛下に紹介し、国にとって有益な婚約だと認めさせれば恐らく通るだろう。
幸いにも学院に通う者は身分の高い者が多い。
確か帝国の公爵令嬢であるルヴィリアも今年入学するはずだ。
幾度か顔を合わせたことがあるが、あれは絶世の美女だ。
俺の妃として申し分ない人物だろう。
時期を見て接触していけば問題あるまい。
そう思っていた。
入学式で妖精に出会うまでは。
◇
彼女を初めて見たとき、俺は目を疑った。
はちみつ色の髪をした彼女の美しさはあまりに現実離れしていて、王族として幾人もの美女を目にしてきた俺が目を奪われてしまうほどだった。
ミエリィ・マイリングと呼ばれた彼女が俺の関心を惹いたのは、その美貌だけではなかった。
なんと彼女は見事な前方宙返り5回ひねりを決めて登壇したのだ。
そして挨拶で話したことと言えばお友達宣言とティーパーティーのことだけだ。
彼女はいったい何なんだ?
その疑問はミエリィと同じクラスになることで少しずつ氷解していった。
今まで俺は自分のことを自由な存在だと思っていた。
王族の力を使えば大抵のことなら思い通りにできたし、俺と顔を合わせるものは皆恭しく接してきた。
それが普通だし、当たり前だと思っていた。
だが、彼女は違った。
俺の想像の斜め上を行く自由さを持っていて、一度たりとも俺を敬う素振りを見せなかった。
いくらこの学院が平等を掲げているといっても、同じクラスに王族がいたら普通は俺の機嫌を損なわないよう立ち回るだろう。
実際、他のクラスメイトは俺に媚を売るか、俺と関わらないようにするかのどちらかだ。
しかし、ミエリィは普通に話しかけてくる。
タメ口で。
それに授業で模擬戦をしても俺に花を持たせる気が一切ない。
まあ、あれだけの力量差があれば、どれだけ手加減されても俺に花を持たせるのは難しいのかもしれないが。
比類なき美貌を振り撒きながら自由に飛び回るその姿はまるでお伽噺に出てくる妖精のようで、気がついたときには俺は彼女に惹かれてしまっていた。
◇
彼女が声をかけてくる度に俺の心は高鳴った。
彼女ともっと話をしたいと思った。
だがしかし、俺の身分がそれを許さなかった。
王族として他人に嘗められるということは、国を嘗められているのと同義だ。
彼女にそんなつもりがないことは十分に分かっているが、彼女の馴れ馴れしい態度が気に入らない人物がいるのもまた事実だった。
ミエリィが話しかけてくる度に、俺の取り巻きたちが俺を彼女と引き離そうとする。
俺に対する彼女の無礼が気に入らないらしい。
いや、違うか。
無礼者を近づけないということを功績として俺に媚を売っているのだ。
媚を売られること自体は慣れているが、ミエリィとの接点を持ちたい俺としては少し煩わしかった。
だが、取り巻きといっても彼らの中にも各国の高位貴族の出身者がいるし、彼らの行いは正しく、無礼なミエリィが間違っているのは事実なので、彼らを無下にすることはできなかった。
だからこそ、彼女がティーパーティーに誘ってくれたときも涙を飲んで教室を後にするしかなかった。
せめて彼女がもう少し常識的な振る舞いをしてくれれば。
ああ、だが俺が惹かれているのは自由な彼女な訳で。
どうすれば良いのか明確な答えが出ないまま、日々は過ぎていった。
◇
このまま変わらぬ日々が過ぎていくと思われたある日のことだった。
転機は唐突に訪れた。
なんとミエリィと2人きりになる機会に巡り会えたのだ。
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