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3.強い魔導士

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 目を見開いたレイシアがとっさに腕でガードしようとしているが、明らかに戦士タイプの大男の拳を、後衛であるレイシアが受ければひとたまりもないだろう。

(ヤバイッ!!)

 僕は無我夢中で二人の間に割って入る。
 レイシアと同様に後衛である僕の身体能力では、男の拳を受け止めることなどできない。
 ならばせめてレイシアを殴らせるわけにはいかない。

 ゴリッという鈍い音とともに顔面に突き刺さる拳。
 そのまま僕の身体は吹き飛ばされ、ギルドの壁へとぶち当たった。

「ライドっ!!」

 悲鳴をあげたレイシアが駆け寄ってくる。
 叩きつけられた衝撃で身体がうまく動かない。
 口の中の血の味だけが、殴られたのだということを教えてくれた。

「ふん、ルーキーが調子にのるからだ」

 興が冷めたのか、背を向けて立ち去る男。
 だが、レイシアはそうではなかった。
 その男の背に向けて手を構えたのだ。

 レイシアは基本的に味方の強化や回復、相手の弱体化などの補助魔法を使用するが、攻撃魔法もいくつか習得している。
 その威力は魔力強化なしでも、僕のものよりずっと強力だ。
 いくら頭に血が上っているとはいえ、さすがに相手を殺すような魔法を使うことはしないだろう。
 ただ、問題はそこではない。
 一部例外を除き、基本的に街中における攻撃系魔法の使用は禁止されているのだ。
 もし使ってしまったら、何らかの制裁を受けることになってしまう。
 僕が不甲斐ないばかりに、レイシアがその罪を負わせるわけにはいかない。

 まだ自由にならない身体を無理やり動かし、レイシアの手をつかむ。

「ぐっ……、レイ、シア……。僕は大丈夫だから」

「なんで止めるのよ! あいつはライドを馬鹿にしたのよ!」

 僕なんかのためにこんなに怒ってくれるなんて、本当にレイシアは優しい人だ。
 その優しさだけで、男に対する怒りなんてどこかに消えてしまった。
 だからこそ、レイシアの手を汚させるわけにはいかない。

「僕のために怒ってくれてありがとうね。
 レイシアは本当に優しいな。
 だからこそ、こんなところで手を出して欲しくない。
 攻撃しちゃったら、それこそ殴ったあの人と同じになっちゃうよ」

「でも、だって……。それじゃあ、ライドは馬鹿にされっぱなしじゃない……!」

「うん。だから冒険者としてもっと頑張って、レイシアたちの仲間として馬鹿にされない強い魔導士になる。見返すならそれが一番でしょ?」

 僕が『半人前』であることがすべての原因なのだ。
 たとえここでやり返したとして、原因を取り除かなければ根本的な解決にはならない。
 結局、僕が強くならなければならないのだ。

「そんなの……ズルいわ」

 構えていたレイシアの手から力が抜ける。
 もう問題ないと判断した僕は、レイシアの手を離した。

「また足を引っ張っちゃうこともあるかもしれないけど、これからもよろしくね」

「まったく……。強くなるのなら、まずはその自分を卑下する癖を直しなさいよね」

「そう、だね。頑張るよ。……さて、ちょっと先に宿に戻ってるね。アレンをよろしく」

「あっ、ちょっと!」

 僕は未だ痛む身体を起こし、レイシアを振りきるようにして宿へと戻った。

 宿はいつも二部屋とるようにしている。
 アレンとレイシアで一部屋、僕が一部屋だ。
 僕だけ一人で部屋を使えるというのは少し申し訳ないが、二人が交際関係にある以上、この分け方が最も無難だろう。
 僕は上着だけ脱ぐと、そのままベッドへと身体を倒した。

「はぁ……」

 深い溜め息が漏れる。
 あの場ではレイシアをなだめるために強がって見せたが、正直そんなに簡単に割り切れるものでもない。

 僕だってここまでアレンとレイシアに置いていかれないよう、鍛練を続けてきたのだ。
 休みの日は少しでも魔力量が増えるように、ぶっ倒れるまで魔法を行使している。
 魔力がつきた後は、ひとつでも使える魔法が増えるよう魔導書を読み漁っている。
 それでやっと現状の『半人前』の実力なのだ。
 強くなるなんていくら言葉で言ったところで、実際にどうすればいいかなんて正直見当すらつかない。
 レイシアは僕のことを買ってくれているが、現実問題、二人のレベルについていけなくなる日は近いのかもしれない。

「そろそろ潮時なのかな……」

 アレンもレイシアも本当にいい奴だ。
 きっとこの先どれだけ僕が足を引っ張ったとしても、僕を追い出すようなことはしないだろう。
 挑むダンジョンのレベルを落とし、僕に合わせてくれるに違いない。
 けど、それでは駄目だ。
 二人はこんなところで終わっていいような人ではない。
 もっと強く、それこそ国を代表するような冒険者にだってなれるだけの才能を秘めている。
 近くで見てきた僕にはそれがわかる。

 だからこそ、僕はここら辺で身を引くべきなのかもしれない。
 新進気鋭の『深淵の牙』だ。
 僕が抜けたところで、すぐに次のメンバーは見つかるだろう。

「どこに行こうかな……」

 冒険者くらいしか僕にできることはない。
 かといって『深淵の牙』と同じ街を拠点に活動するのは居心地が悪いだろう。
 西のウェリスか……、東のイストリアか……。

 ダンジョン帰りで疲れていたのかもしれない。
 僕の意識はいつの間にか深い眠りのなかに飲み込まれていった。
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