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232話 ラスカリア 38
しおりを挟む地上に降り立ち、無事戦闘を終えた仲間達を見回す。
レシアナは直接戦闘を一切行っていなかったからケガは無いけど、オレが渡した魔道具をずっと使っていたので精神的消耗が激しかったようで、スケルトンの残骸の隙間に座り込んでいる。
その肩ではアーロウスがやり遂げた顔をして満足げだ。
「リルト」
ポラリスは…汗ばんではいるが元気なようだ。
今は嫌な顔をしてゴーレムの残骸を指先している。
「はいはい、今片付けますよ」
ゴーレムの残骸をアンデッド用のスペースにしまいながら玉座の方を見ると、リーチェさんとルーサさんは嫌な顔をしているが、近衛のオセットさんがコボルド王を解体しようと剥ぎ取りナイフを構えている。
と、いうことは魔石は無事なんだな。
…ゾワッ!!
「なっ?!」
「きゃあ!」
オレが嫌な魔力を感じたのと同時に玉座からは驚きの声が上がった。
そこには、コボルド王の遺体横の地面から伸びた手。
漆黒の魔力の渦から伸びた腕は女性のもの、手首より少し上からまるで手袋のように黒く染まった手はしなやかで、細い指、鋭く伸びた爪がオセットさんが切り開いた魔石のある箇所に伸びようとして…ピタッと止まる。
と、腕は魔力の渦の中へソッと戻って行き、それと同時に地面の渦がジワジワと広がっていく。
「みんな!コッチへ戻って!」
呼びかけに即座に反応した4人が、身体強化を使ってオレの横にかなりの速度で下がって来て並ぶ。
「4人とも下がって」
「!? でも、リルトくん!」
「リーチェ、いいからリルトくんの言う事を聞いて。
リルトくんがリーダーよ」
「…」
ルーサさんに言われリーチェさんが下がり、護衛の2人も下がる。
一歩づつゆっくりと玉座へ進むオレの前では、広がった魔力の渦からせり上がって来るものが。
それは2対の羽。
骨格だけのように細く鋭い一本指と爪、被膜に覆われた翼。
続いて現れたのは茨の輪。
墨のように漆黒の魔力で形成された暗黒の光輪。
そこに現れたのは女性だった。
俯き加減で目を閉じ、手をだらりと下げ敵意は感じないが、身体から放たれる闇の魔力の波動はビリビリと周囲の空間を軋ませている。
全身が渦から現れる。
背後のコウモリのような羽は大小6枚、暗黒の光輪を掲げた長い髪も漆黒、艷やかな髪が流れる先は濃い赤に黒の模様が入った毒々しくも荘厳なドレス。
足は裸足だが、手の先のように黒いのでまるでブーツでも履いているかのようだ。
(…メサリエルと同格…か?)
鑑定は完全に弾かれた。
が、感覚だけでもオレが逆立ちしても勝てる見込みが無い相手だという事は分かる。
(…正攻法ではね)
…ブワッ!!
暗黒の魔力に満たされそうになっていた玉座の間に、純粋な属性魔力、精霊力が広がっていく。
オレが自分の背後左右を見ると、空中から様々な属性魔力を纏った女性の腕が6本生えている。
(…"千手"のポラリスを差し置いてオレが千手観音みたいだな)
6本の腕の隙間からは皆の姿が見える。
さっきまでは強大な暗黒の魔力に当てられて膝を突いていたけど、精霊力のおかげで持ち直したみたいだ。
精霊達の臨戦体勢をよそに、俯いていた顔を上げ、虹彩の無い目を開いた女性は、オレを真っ直ぐ見ながら地面に両膝を突き口元の前で両手をしっかりと組み合わせる。
いわゆる"祈りの体勢"だ。
「神前に不躾に現れた事をお許し下さい。
お初にお目にかかります、わたくしは【魔界六公】の一人、名をエレスマデュアと申します」
(…やっぱり"悪魔"か。
"魔界六公"は何なのか分からないけど、たぶん天使達の代表【四天】と同じだろう。
…ということは最強格の悪魔か)
「ま、魔界の…悪魔…?」
「神話の存在が…目の前に?」
「…何でリルトくんに跪いてるの?」
具合いは良くなってもこの状況に皆混乱しているようだ。 まぁ、オレだって冷静を装ってはいるけど、相当混乱している。
ただ相手はこの場の全員を瞬殺出来る力はあってもそうする気は微塵も無い様子。
たぶんオレの持つ神力を感じ取って"上位者"と思っているんだろう。
悪魔達が住む"魔界"も、創ったのは"最高神"とか"創造神"とか呼ばれる、神話で存在が示唆されているだけで地上には名も知らされていない天界の長だ。
ティナが【原初の全知全能神】と呼んでいたのがそうだろう。
そして悪魔達が崇拝する邪神・悪神も、元は天界で産まれた存在。
陣営が違ったとしても、神を崇める配下である、という立ち位置は天使達と変わらないという事なんだろうな。
「ボクはリーフゼルファルート。普段はリルトって名乗ってる。
残念ながら神ではなくハーフエルフだよ?」
「リルト様…
今はまだ人の身、という事でございますね?」
崇拝を宿した瞳で理解を示す悪魔。
(うーん…困った。
話し合いで穏便に帰って欲しいけど、なんだか何もかも暴露する羽目になりそうな…)
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