上 下
232 / 244

232話 ラスカリア 38

しおりを挟む

 地上に降り立ち、無事戦闘を終えた仲間達を見回す。

 レシアナは直接戦闘を一切行っていなかったからケガは無いけど、オレが渡した魔道具をずっと使っていたので精神的消耗が激しかったようで、スケルトンの残骸の隙間に座り込んでいる。
 その肩ではアーロウスがやり遂げた顔をして満足げだ。


「リルト」

 ポラリスは…汗ばんではいるが元気なようだ。
 今は嫌な顔をしてゴーレムの残骸を指先している。

「はいはい、今片付けますよ」


 ゴーレムの残骸をアンデッド用のスペースにしまいながら玉座の方を見ると、リーチェさんとルーサさんは嫌な顔をしているが、近衛のオセットさんがコボルド王を解体しようと剥ぎ取りナイフを構えている。
 と、いうことは魔石は無事なんだな。


…ゾワッ!!

「なっ?!」
「きゃあ!」


 オレが嫌な魔力を感じたのと同時に玉座からは驚きの声が上がった。


 そこには、コボルド王の遺体横の地面から伸びた手。

 漆黒の魔力の渦から伸びた腕は女性のもの、手首より少し上からまるで手袋のように黒く染まった手はしなやかで、細い指、鋭く伸びた爪がオセットさんが切り開いた魔石のある箇所に伸びようとして…ピタッと止まる。

 と、腕は魔力の渦の中へソッと戻って行き、それと同時に地面の渦がジワジワと広がっていく。

「みんな!コッチへ戻って!」

 呼びかけに即座に反応した4人が、身体強化を使ってオレの横にかなりの速度で下がって来て並ぶ。

「4人とも下がって」

「!? でも、リルトくん!」
「リーチェ、いいからリルトくんの言う事を聞いて。
 リルトくんがリーダーよ」
「…」

 ルーサさんに言われリーチェさんが下がり、護衛の2人も下がる。


 一歩づつゆっくりと玉座へ進むオレの前では、広がった魔力の渦からせり上がって来るものが。

 それは2対の羽。
 骨格だけのように細く鋭い一本指と爪、被膜に覆われた翼。

 続いて現れたのはいばらの輪。
 墨のように漆黒の魔力で形成された暗黒の光輪。


 そこに現れたのは女性だった。

 俯き加減で目を閉じ、手をだらりと下げ敵意は感じないが、身体から放たれる闇の魔力の波動はビリビリと周囲の空間をきしませている。


 全身が渦から現れる。
 背後のコウモリのような羽は大小6枚、暗黒の光輪を掲げた長い髪も漆黒、艷やかな髪が流れる先は濃い赤に黒の模様が入った毒々しくも荘厳なドレス。
 足は裸足だが、手の先のように黒いのでまるでブーツでも履いているかのようだ。


(…メサリエルと同格…か?)

 鑑定は完全に弾かれた。
 が、感覚だけでもオレが逆立ちしても勝てる見込みが無い相手だという事は分かる。


(…正攻法ではね)


…ブワッ!!


 暗黒の魔力に満たされそうになっていた玉座の間に、純粋な属性魔力、精霊力が広がっていく。


 オレが自分の背後左右を見ると、空中から様々な属性魔力を纏った女性の腕が6本生えている。


(…"千手"のポラリスを差し置いてオレが千手観音みたいだな)


 6本の腕の隙間からは皆の姿が見える。
 さっきまでは強大な暗黒の魔力に当てられて膝を突いていたけど、精霊力のおかげで持ち直したみたいだ。



 精霊達の臨戦体勢をよそに、俯いていた顔を上げ、虹彩の無い目を開いた女性は、オレを真っ直ぐ見ながら地面に両膝を突き口元の前で両手をしっかりと組み合わせる。
 いわゆる"祈りの体勢"だ。


「神前に不躾ぶしつけに現れた事をお許し下さい。
 お初にお目にかかります、わたくしは【魔界六公まかいろっこう】の一人、名をエレスマデュアと申します」


(…やっぱり"悪魔"か。
  "魔界六公"は何なのか分からないけど、たぶん天使達の代表【四天してん】と同じだろう。
 …ということは最強格の悪魔か)


「ま、魔界の…悪魔…?」
「神話の存在が…目の前に?」
「…何でリルトくんにひざまづいてるの?」


 具合いは良くなってもこの状況に皆混乱しているようだ。 まぁ、オレだって冷静を装ってはいるけど、相当混乱している。
 ただ相手はこの場の全員を瞬殺出来る力はあってもそうする気は微塵みじんも無い様子。
 たぶんオレの持つ神力を感じ取って"上位者"と思っているんだろう。

 悪魔達が住む"魔界"も、創ったのは"最高神"とか"創造神"とか呼ばれる、神話で存在が示唆されているだけで地上には名も知らされていない天界の長だ。
 ティナが【原初の全知全能神】と呼んでいたのがそうだろう。

 そして悪魔達が崇拝する邪神・悪神も、元は天界で産まれた存在。
 が違ったとしても、神を崇める配下である、という立ち位置は天使達と変わらないという事なんだろうな。


「ボクはリーフゼルファルート。普段はリルトって名乗ってる。
 残念ながら神ではなくハーフエルフだよ?」

「リルト様…
 人の身、という事でございますね?」
 崇拝を宿した瞳で理解を示す悪魔。



(うーん…困った。
 話し合いで穏便に帰って欲しいけど、なんだか何もかも暴露する羽目になりそうな…)




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

『スキルの素』を3つ選べって言うけど、早いもの勝ちで余りモノしか残っていませんでした。※チートスキルを生み出してバカにした奴らを見返します

ヒゲ抜き地蔵
ファンタジー
【書籍化に伴う掲載終了について】詳しくは近況ボードをご参照下さい。 ある日、まったく知らない空間で目覚めた300人の集団は、「スキルの素を3つ選べ」と謎の声を聞いた。 制限時間は10分。まさかの早いもの勝ちだった。 「鑑定」、「合成」、「錬成」、「癒やし」 チートの匂いがするスキルの素は、あっという間に取られていった。 そんな中、どうしても『スキルの素』の違和感が気になるタクミは、あるアイデアに従って、時間ギリギリで余りモノの中からスキルの素を選んだ。 その後、異世界に転生したタクミは余りモノの『スキルの素』で、世界の法則を変えていく。 その大胆な発想に人々は驚嘆し、やがて彼は人間とエルフ、ドワーフと魔族の勢力図を変えていく。 この男がどんなスキルを使うのか。 ひとつだけ確かなことは、タクミが選択した『スキルの素』は世界を変えられる能力だったということだ。 ※【同時掲載】カクヨム様、小説家になろう様

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。 現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。

処理中です...