224 / 244
224話 幕間 空船の守り人 4
しおりを挟む着陸した"空船の守り人号"の船体後部が上下に開き、その開いた下部分を床にしてリルト達が中から現れる。
リルトが中へ何か合図をすると床はそのままゆっくりと降下して地面に接地する。
「戻りました。 どうでした? "空船の守り人号"は?」
リルトが皆に歩み寄りながら訊ねる。
「…やっぱり飛空艇作れたんだね?」
ウルリッヒ王が訊ねる。
リルトは答える前にワーディル老を見る。
「ある程度は話しておいたぞ」
「上手く作れる自信が無いタイミングでアリルメリカから話をもらって、その後に作れるようになってみたら、ファル爺が言うには性能が高すぎる、という事だったんで説明するより見てもらおうかと」
「…核は直せるんだよね?」
「…始祖王の偉業を称える記念、とかで何機か遺す。 という意味でなら直しますよ。
ボクが手掛けるのにわざわざ安全性の低いモノを作る気にはなれませんから、直すのであれば以前の核は使いません」
「まぁ、それはそうだろうね。
分かった、リルトくんが言うように1機は始祖様の作ったままで直してもらおう。
それ以外の飛空艇は新たな核で直してもらう」
ベアトリーチェとファルーサが微笑み合いながら小さく拍手している。
「まぁその前に、ウチの船の中も案内しますよ。
軽く飛んで乗り心地もみてもらって。
皆も一緒にどう?」
「もちろんワシらも行くぞ」
ワーディル老、ロンドル大司教、教皇、オルガスティア陣営の皆が頷く。
ーーーーーーーーーー
「はぁっ!?」
ウルリッヒ王の驚きの声が響く。
王は自らが乗ってきた床から身を乗り出し船体の外を見て、また船内を見る。
「こ、これは…?」
ピグミア宰相も船内を見回し困惑している。
「ど、どうなっているんですか?」
皆が乗り込んだ船内は"倉庫"といった雰囲気の広々とした空間。
ただし、船体とほぼ同じ横幅、奥行きも船の全長に近い。
で、ありながらも壁面には階段と2階踊り場が設置され、いくつもの扉が見える。
幅を見る限り扉を開ければそこはもう船の外だろう、という不可思議な光景にこの船の性能を知らない面々はただキョロキョロとするしかない。
「大したものは入っていませんが開けて見ていいですよ?」
リルトがそう言うとウルリッヒ王は手近の扉を開く。
そこには棚が置かれた倉庫があった。
隣の扉を開くと、そこにはベッドやテーブルを置いた小さな宿の一室のような居住空間があった。
「こ、これは一体…?」
「この倉庫自体が実際の船内ではなく、ボクが付与した機能で作られている"拡張空間"になっているんです」
「ストレージの中、みたいなものですね?」
ロンドル大司教が訊ねる。
「そうだね。
飛空艇をストレージ内で作ってるうちに、だんだん手狭になるにつれてその工作空間を広げてたらイメージを付与出来るようになってね、それを使ってるんだ」
「これは、大型輸送機と同等…いや、もっと容量がありそうです」
ピグミア宰相が周囲を見渡しながら呟く。
「じゃあ船内の構造は好きな形に出来る、という事なんですね?」
ベアトリーチェがリルトに訊ねる。
「まぁそういう事だね。
でもボクの手間が増えるばっかりだから、その辺は代金に上乗せしないとだなぁ…」
「…これなら一隻でも多機能にすればいいんじゃねぇか?」
「いや、リルト殿がせっかくまだ何処からも受注していない好機ですから、今のうちに何隻か頼んでおく方が利口ですよ」
「…たしかにな」
オルガスティア陣営はボソボソと話し合っている。
「ウチの飛空艇なんて、狭い通路と居住空間を何とかやりくりして、窮屈な思いして乗ってるのに…」
「ここまで性能が違うともう"型落ち"と言われても腹も立ちませんね」
「じゃあ甲板に出て、乗り心地をみようか?」
リルトの案内で階段を上がり甲板に出る一行。
「わぁ、甲板も広くて気持ちいいですね」
ファルーサが見回しながら言う。
「…やっと来たな、諸君」
背後上方向から突然声がかかり、一同は振り向く。
そこには船尾楼の上に立ち腕を組む少女が一人。
「うわ…また違う上位精霊が…」
ウルリッヒ王がげんなりとした表情で少女を見る。
そこにいたのは10歳前後に見える少女。
輝く茶色のクセのあるショートボブの髪、軍服と軍帽で装い、軍服の上着は袖を通さず肩に羽織っている。
そして身体には人形のようなラインが刻まれている。
「私は地の精霊イシュタル。
この船の船長であり、また父上が娘達の中で最も愛している最愛の娘でもある」
…ガシッ!
空中からラインの入った手が現れイシュタルの頭を掴む。
「…ふざけた事を言っていると捻り潰しますよ?」
「…ごめんなさいキュベレーお姉さま」
手が放されるとイシュタルはおもむろに船尾楼から身を投げ、フヨフヨと飛び降りてくるとリルトに抱きつく。
「…死ぬかと思った」
「何してるのキミ?」
0
お気に入りに追加
519
あなたにおすすめの小説
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~
剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。
『スキルの素』を3つ選べって言うけど、早いもの勝ちで余りモノしか残っていませんでした。※チートスキルを生み出してバカにした奴らを見返します
ヒゲ抜き地蔵
ファンタジー
【書籍化に伴う掲載終了について】詳しくは近況ボードをご参照下さい。
ある日、まったく知らない空間で目覚めた300人の集団は、「スキルの素を3つ選べ」と謎の声を聞いた。
制限時間は10分。まさかの早いもの勝ちだった。
「鑑定」、「合成」、「錬成」、「癒やし」
チートの匂いがするスキルの素は、あっという間に取られていった。
そんな中、どうしても『スキルの素』の違和感が気になるタクミは、あるアイデアに従って、時間ギリギリで余りモノの中からスキルの素を選んだ。
その後、異世界に転生したタクミは余りモノの『スキルの素』で、世界の法則を変えていく。
その大胆な発想に人々は驚嘆し、やがて彼は人間とエルフ、ドワーフと魔族の勢力図を変えていく。
この男がどんなスキルを使うのか。
ひとつだけ確かなことは、タクミが選択した『スキルの素』は世界を変えられる能力だったということだ。
※【同時掲載】カクヨム様、小説家になろう様
創造眼〜異世界転移で神の目を授かり無双する。勇者は神眼、魔王は魔眼だと?強くなる為に努力は必須のようだ〜
雅
ファンタジー
【HOTランキング入り!】【ファンタジーランキング入り!】
【次世代ファンタジーカップ参加】応援よろしくお願いします。
異世界転移し創造神様から【創造眼】の力を授かる主人公あさひ!
そして、あさひの精神世界には女神のような謎の美女ユヅキが現れる!
転移した先には絶世の美女ステラ!
ステラとの共同生活が始まり、ステラに惹かれながらも、強くなる為に努力するあさひ!
勇者は神眼、魔王は魔眼を持っているだと?
いずれあさひが無双するお話です。
二章後半からちょっとエッチな展開が増えます。
あさひはこれから少しずつ強くなっていきます!お楽しみください。
ざまぁはかなり後半になります。
小説家になろう様、カクヨム様にも投稿しています。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる