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221話 幕間 空船の守り人 1

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「おい!あそこあれ!」
「あ、見えて来たわよー!」
「おー!」

 屋台を冷やかしたり、雑談をしていた人々は声に反応するように皆同じ方向の空を見上げる。

 晴れ渡る青空の向こう、小さなシミのように見えるそれはだんだんと大きくなり、輪郭を捉えられるようになっていく。





「え~…そっちのパターン?」

 歓声の中、そのリルトの小さな呟きを拾った耳はポラリスのものだけだった。

 ポラリスはリルトの困ったような顔を見て、どうしたのかと声をかけようと思ったが、

「始祖王はジ◯リ好きかぁ…」

 "始祖王"というのはたぶんアリルメリカの最初の王様の事だろう。
 "ジ◯リ"というのは分からないけど古代語にけたリルトの事だから何かの意味があるのだろう。
 タイミングを外されたがそれも合わせて聞こう、そう思った瞬間背後から声がかかる。

「リルトくん、ポラリス。
 飛空艇が降りてくるから全員もう少し下がるらしいわ」 

 レシアナから声がかかり、話しかけるのを忘れてリルトと二人で他のメンバーと合流する為歩き出す。






 魔法付与によって強化された上質な木材、それを補強する金属の帯で纏められ水平に飛び出した翼。
 丸みを帯びた砲弾のような本体にはいくつもの窓が並び、正面には操縦者達の為大きな窓が付いている。

 近づいてきた飛空艇は着陸準備の為減速し、前方向の数カ所から風の魔法を吐き出しさらに速度を落としていく。
 着陸する場所であるこちら側にはまだ離れている飛空艇から強い風が吹き、土埃が巻き上げられるがそれさえ楽しいようで周りからは歓声が上がっている。


「ロンドル殿よ」
「?どうしました?ワーディル老」
 ロンドル大司教は隣に立ち飛空艇を見上げながら話しかけるエルフの大老を見る。
 その隣に立つ教皇も気になりそちらに向き直る。


「ワシは常々、"魔道具の最高峰"とは飛空艇であると思ってきた。
 翼を持たない人に魔力も使わず長距離の移動を可能にして、沢山の人や物資を運び多大な恩恵を与える…
 国にいた頃も飛んでいるのを見つければ飽きもせず見上げ続けたものだ」

「たしかに最高峰でしょうね。
 だからこそ誰も作れず、空はアリルメリカの独壇場だった訳ですから」


「だが…
 こうやって今、改めて見上げた飛空艇。
 …なんて非効率で、なんて不安定で、…そしてなんて不格好なのか…私はこれを最高峰と思っていたのか?」

 不思議そうな顔で飛空艇を見上げるワーディル老から一瞬目を離し、アリルメリカの王族一行を見る大司教。
 反応も無いし、少し離れているのでこの会話は聞かれていないだろう。
 ホッとしてワーディル老へ向き直る。


は、…そこまでですか?」

「ああ、あれを見てしまえば、その性能を知ってしまえば、昔のあの飛空艇には乗れんよ。
 色々な意味でな」







…ブワァッ! ズザザァー!


 土埃を上げ、馬車の車輪どころか馬車自体ほどの巨大な車輪が地面を滑り飛空艇が着陸する。

 見物客から歓声が上がる中、飛空艇の横腹の扉が開き、中から現れた作業員達が後部へ回り、開いた後部の巨大な口で作業を行う。
 洗練された作業はすぐに終わり、取り付けられた傾斜板から軍服を着た一団が降りて来ると、王族一行の前へ素早く整列する。

 先頭には唯一軍服を着ていない貴族らしき格好の子供と、並ぶ軍服の中でも一番装飾の派手な男が並ぶ。
 と、派手な軍服の男が良く通る声を張り上げる。


「アリルメリカ軍空挺部隊、第三軍所属、偵察機"ナイトオウル"6号、オルガスティア王国ラスカリアに只今到着いたしました!」

「うむ、ご苦労。 宰相もご苦労さま」
 ウルリッヒ王は子供の方を向く。

「陛下…ご無事なのは疑ってはいませんでしたが、予定に無い事をするのは勘弁して下さい」
 子供はその容姿に見合わない落ち着いた声で、ため息混じりに話す。

「ごめんごめん。 最近運動不足だったから、ついね?」
「分かりました。 これからは少し時間を作るようにしますから」
「お、やったね」


「ピグミア宰相、お久しぶりですね」
 ベアトリーチェが進み出て、子供に声をかける。

「お久しぶりでございます。
 姫もお変わりないようで安心いたしました」
 宰相と呼ばれた子供は満足げに頷く。

「リーチェ」
 ウルリッヒ王が名を呼ぶと、ベアトリーチェはすぐに意図を汲み取り背後を振り返る。

 進み出てきたリルトはベアトリーチェの横に並び、子供の前に立つ。
 向かい合うとリルトの方が背が高い。


「宰相、こちらが今回依頼をしたリルトです」

 ベアトリーチェの紹介に一瞬いぶかしげな表情をした子供は、わざと見せていたとばかりにすぐさま表情を戻し、貴族に対応する時と同じように胸に手を当て礼をする。

「はじめまして。 宰相させて頂いております、ピグミア=フォン=ノールディスと申します」


 小さく頷くと、リルトも同じように胸に手を当て礼をする。
「私は貴族ではありませんから、そのような礼は不要です。
 はじめまして、ハーフエルフのリーフゼルファルートと申します。 リルトとお呼び下さい」


 宰相が手を差し出し二人は握手を交わす。


「初対面で不躾ぶしつけかも知れませんが、ピグミア宰相は"ブラウニル族"…ですね?」

「いえ、珍しい種族ですし、気になるのはごもっともですから失礼だとは思いませんよ。
 初めてご覧になったんですね?」

「ええ、確か東と西大陸に少数住んでいる、と」

「あまり外向的な種族では無いですから、中央大陸にはほとんどいませんね。
 私の家はかなりの変わり者で、始祖様の時代に東大陸から飛び出して来たんですよ」

「なるほど」


「さっそくだが隊長。 準備は大丈夫かな?」
 ウルリッヒ王が派手な軍服の男に声をかける。

「はい陛下。 そちらのハーフエルフの方がご覧になるのですよね?
 すぐにでもご案内出来ます」


「そうか。
 私とリーチェも同行する事にしたからな、そのつもりでいるように」

「は? 陛下と姫もですか?
 予定ではこちらの技術者と隊員数名で案内する予定でしたが?」

「ああ、少し事情があってな」

「いや、しかし、…機関部などは危険な箇所や汚れている所もありますので…」


「そんな事は気にしないから大丈夫だ。
 …それとも何だ?私やリーチェが同行したら何か不都合な事でもあるのか?」

「あ、いえ…そのような事は…」


「まだ何かあるのかよ…勘弁してくれ…」
 隊長の何か煮えきらない態度にため息をついたウルリッヒ王は、誰にも聞こえない小さな声で呟く。





「とにかくそのつもりで。
 準備し直すならし直すでいいから、取り掛かってくれ」





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