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219話 幕間 王 4
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リルトくんが微動だにしていないのに背後で次元の出入り口が現れ、中から細い女性の人形の手が手招きをする。
メイドの一人が中へ入り、簡素だが品の良い椅子を一脚持って出てきた。
(…今の精霊は、…何だ?
感じたのは手を出した一瞬だったが、魔力だけならあの女騎士に匹敵していた。
上位精霊の…さらに上?…もう勘弁してくれ…)
「どうぞ」
「ありがと」
リルトくんはソファーの脇に置かれた椅子に腰掛ける。
"まだ正式な対談の席には着かない"という意思表示だ。
「ボクが…最初に"飛空艇を直せるかも?"と気づいた時、一番に頭に思い浮かんだのは"面倒くさい"です」
「…」
「ボクはけっこう悲観主義者で、飛空艇を直せばどれだけの面倒やトラブルが舞い込んで来るのか? と一番に想像してしまったからです」
「現に今も巻き込まれているね…」
「はい。 だから王都でアリルメリカの方々がボクに接触しようとしていると聞いて、上手く逃げてしまおうと思ってたんです。
そして自分達用の飛空艇を作ってコッソリ乗ろうと」
「それは流石に厳しいんじゃないかな?」
「そうですか? ***** *****【空間壁】」
リルトくんが突然魔法障壁を展開し、すぐに解除すると…席からいなくなっている。
私の【気配察知】に…いない。
身体強化で五感を研ぎ澄ます…どの感覚でも反応が無い。
だが私の【直感】はそこにまだいると確信している。
…目の前で発動した隠密スキルがこれほどの威力なのは初めて見るな。
…ピキッ!
空間の軋む音と共にリルトくんの姿が現れる。
「今のを飛空艇に付与したら…見つけられます?」
私は両手を上げる。
「いや、降参だ。
君なら飛空艇をコッソリ運用出来るんだね」
「はい。
ですが…書物を読み、博識な人に聞いて。
アリルメリカの飛空艇がどれだけ人々の役に立ってきたか、そして今も大事な役割を担っているかを知りました」
「光栄だね」
ほとんど過去の王達の業績だが、私だってそれを継続させていくつもりだ。
「だから、言い方は悪いですが、
"任せちゃおう"
と思ったんです。
飛空艇に関する知識、運用してきた実績とその蓄積。
資産もあり、人材も多い。
だから、直すのと作るのはボク。 後はアリルメリカにお任せ、と。
…ですが」
「…ですが?」
分かってはいるが問い返す。
「このまま任せて貴国は、飛空艇の不正利用、飛空艇ギルドの腐敗を抑えられますか?
…申し訳ないですが、ボクにはあっという間に全ての飛空艇が飛ばなくなる未来が見えます」
「…」
つい拳を握ってしまう、情けないが彼の言う通りだろう。
「あ、ちなみにボクが提案している"未来永劫の契約"の監視者は彼女達です」
リルトくんはメイド達を振り返る。
「精霊が監視者か…それなら確かに世界が滅びない限り契約は存続するのだろうな」
「ええ、そして精霊の目から不正や腐敗を隠すのもほぼ不可能です」
「だろうね…」
リルトくんは一度目をつぶり、意思のこもった強い目で私を見る。
「貴国は…大きく、強く、豊かになり過ぎました。
罪を犯した者など放りだしてしまえば気にならない、不正を行われても大して痛みも感じない。
貴族が横暴に振る舞おうと小蝿がうるさい位にしか感じない…
大きいがゆえの鈍感…とでも言うのでしょうか?
そんな病に貴国は罹っています」
ストン…と腑に落ちてしまった。
そうか、我が国はいつの間にか病んでいたのか。
巨人がいつの間にか指先に受けた小さな傷から入った毒で倒れるように、末端からジワジワと病んでいる事にも気づかずやがて身体全体に毒が回る…
「今ならボクも精霊達の力を借りて飛空艇ギルドの運営を出来るでしょう。
アリルメリカは重責を担う事は止めて"飛空艇を持つただの一国"になる決断でもボクは尊重します」
一瞬だけカッとなってしまったが、表に出す前に抑える事が出来た…
遠回しに"役目を降りろ"と言われ、始祖様から託された飛空艇を、空を支配してきた自負を汚された気分になったが、始祖様の想いを踏みにじって来たのは、ほかでもない自分達だ…
「ボクは急ぎませんから。
…痛みを伴う大きな決断が必要になるでしょう、良くお考えになって下さい」
リルトくんは立ち上がる。
「では、失礼します」
メイド達はストレージの中へ、リルトくんと女騎士は退室する。
ーーーーーーーーーー
室内には重い静寂が流れる。
「…私は…」
ふいにリーチェが口を開く。
「私は他国の噂などで"不正を犯した貴族が処刑された"等と耳にするたび思っていました。
"野蛮な、なにも殺さなくても"と…」
「……」
「ですがそれは、小さな国がその限りある大切な資源を、資金を、国や民を豊かにするために全身全霊をもって役立てようとしているからこそ、不正などは許さないという確固たる意思の現れなのですね?」
「…そうだね。
人は弱い。裕福になればそれが当たり前に、いつの間にかそのありがたさを忘れてしまうものだ。
だからこそ厳しく…あり続けなければいけなかったんだね…」
「お父様…」
リーチェの心配そうな優しい眼差しが今は痛い…
「私は…私がリルトくんを見極める? 滑稽だ。
見極められて失望させたのは私のほうだ…」
「「……」」
「…だが、このまま終わる訳にはいかない!
始祖様に託された飛空艇を守り、その御意思を正しく存続させる為にも。
痛みを伴おうと、私がアリルメリカの歴史書に"虐殺王"と書かれようと、国から膿を出し改革を行う!」
「お父様…
私も…私もお手伝いします!」
「いや、こうなるとリルトくんとの関係性も高めておきたい。
急がないとは言ってくれたが、待たせ続ければ本当に教会等に話が行ってしまうかもしれない。
リーチェはリルトくんと密に接触して、アリルメリカは変わっていくつもりがある事をアピールしてくれ」
「分かりました!しっかり親密になります!」
「いや、"アリルメリカの"だよ? 自分の親密度上げようとしてない?」
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