213 / 244
213話 幕間 祝福 2
しおりを挟む手入れの行き届いた落ち着いたリビングで、私は出されたお茶にも手を付けずガチガチに緊張している…
「教皇様、そのように服を握っているとせっかくの正装がシワくちゃになってしまいますよ?」
背後に控えるコーリアに言われ自らの手元を見ると、膝に置いた手で教皇の正装を無意識にギュッと掴んでいた。
慌てて離して服を伸ばす。
「私が…もしも私が教皇様の立場ならば、やはり同じように緊張していたと思いますよ」
ロンドル大司教が優しげに私を見ている。
リルト様の情報の大事な部分を聞かされていないコーリアや神殿騎士の二人は、何故ここまで緊張しているのか分からないだろう。
ハーフエルフの寿命は"どちらの親に似たか?"によって非常に大きく異なる。
ヒューマンの親に似て100~200歳という事もあれば、エルフの親に似て1000~2000歳という事もある。
リルト様がどうかは分からないが、ハイヒューマンになった私がまだ存命の間に昇神される可能性さえあるのだ。
いわば"生身の神"の御前に立つに近い心境だ、緊張しないはずがない…
…コンコンコン
「リルトです」
少し高い涼やかな声を聞き、いらっしゃった事に緊張が高まるのかと思ったが、何かストンと落ち着いてしまった。
入って来たリルト様は質の良い平民服で輝く長い藍色の髪を後頭部で束ねている。
少年と青年の境目、可愛らしいような、凛々しいような、綺麗なような…
第一印象をまとめきれない不思議な感覚に囚われていると、大司教に促され私の向かいに座った彼の瞳が私を映す。
彼からは"神託"の時に感じる神力と同じ波動を微かに感じる。
やはり只人ではないのね…
「はじめまして。
まぁそちらはご存知だと思いますがリルトと申します。
大司教から下手に丁寧だと逆に恐縮してしまうと言われているので謙った言葉遣いは止めてますけど…大丈夫ですか?」
「はい、もちろんけっこうです。
はじめまして、教皇の任を頂いているソーレリスと申します。
お目にかかれて幸いです」
「ははは。
まぁ何か重大な話し合いをしなきゃいけない訳でも無いですし、ざっくばらんに…は、ちょっと難しいですか?」
リルト様の視線は私の背後へ…
振り向くとコーリアも、神殿騎士の二人も両手を組み合わせリルト様に祈りを捧げている。
「か、彼らはリルト様に会えて感動してしまったようで…」
「はぁ…まぁいいか。
それで、まずは教皇さんにお礼を。
私がここで始めようとしている事業計画に教会も協力して頂けるとお話しを頂いてます。
どうもありがとうございます、でもいいんですか?
こんな個人の事業に手を貸して?」
昨夜は会ってどうするか心配したが、リルト様の方から私も考えていたスラム対策事業の話を振ってくれて助かった。
…でも、リルト様に"教皇さん"と役職名で呼ばれて、何か距離を感じて悲しい気持ちになってしまった。
「私の事はどうかソーレリスとお呼び下さい。
事業協力に関しては問題ありません。
リルト様が利益追及の為にこの事業を始めていない事は存じ上げていますから。
それに教会としてもスラムの方々に助力出来る機会があれば積極的に動くのはどこの国でも行っていますので」
「そうですか。それなら良かったです。
では、金銭で…というのも教会に対して無粋ですから、お返しにはその事業で出来た商品を納めさせて頂きますね。
それと…大司教に聞いたら、ソーレリスさんと"中央神官"?という方々が私が倒れている間、わざわざ祈りを捧げてくれていたとか?
それのお礼をこちらに…後ろの三人は偶然居合わせて運が良かった、って事で」
リルト様が空中にアイテムストレージを開き、そこから小さな平たい箱を4つ、大きな箱を1つ取り出し、小さな箱を4つ私の前へ差し出す。
「1つはソーレリスさんの、後の3つは後ろの三人にどうぞ。
こちらには中央神官の方々の分が入ってますから、お帰りの際にお持ち下さい」
私は3つの箱をコーリアに渡し、1つを手の上にリルト様を見る。
「開けて見ても?」
「はい、どうぞ」
ゆっくりと開けた箱の中には10cmほどのプレートにチェーンが付いたペンダントが入っていた。
おそらく銀であろうプレートには青みを帯びた薄っすら輝く鉱石で雲、その間に浮かぶ島、羽ばたく鳥の横を泳ぐ不思議な大きな魚?が描かれている。
…不思議な風景だ、でもとても美しい。
「ボクが何処かの書物で見た"神界の風景"を描いたものです」
雷に打たれたように身体中を衝撃が走る。
ロンドル大司教を見ると私の視線の意味に気づいたように小さく頷いている。
…これが、これが神界の風景。
コーリア達がいるので誤魔化されていたが、これは本当の神界の風景なんだ。
神々が住まういと高き場所…
ふと気がつくとリルト様が私にハンカチを差し出している。
…いつの間にか泣いていたようだ。
「どうぞ?」
「あ、ありがとうございます」
ちょっと恥ずかしかったがありがたく受け取り涙を拭く。
「あ、あのリルト様!
このような貴重なもの、私も頂いてよろしいのですか?」
コーリアが箱を開けてリルト様に訊ねる。
「え? あぁ、それは今ボクが攻略しているダンジョンで採掘出来る銀とコボル鉱石で作りました。
元手は0ゴルだから気にしないで?」
「そ、そうですか。
では、ありがたく頂戴いたします」
コーリアと騎士二人は深々と頭を下げる。
リルト様は両腕を組み、何か考えていらっしゃる。
「うーん…やっぱり他にも何かお礼になるもの無いかな?」
「い、いえリルト様! これで充分ですから」
「でもなぁ…」
…ピシッ!
空間が鳴り突然部屋を結界が覆い、膨大な神力が充満していく。
「では、リルト様が"祝福"を与えるのはどうですか?」
0
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説
前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・
y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える!
てってれてーてってれてーてててててー!
やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪
一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ
この小説の主人公は神崎 悠斗くん
前世では色々可哀想な人生を歩んでね…
まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪
前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる
久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく
色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー
友情、熱血、愛はあるかわかりません!
ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
えっ!?俺が神様になるの? チートで異世界修行物語。
偵察部隊 元リーコン
ファンタジー
主人公の名前は沢村尊流(さわむら たける)45歳。仕事に向かう途中にテロリストに感化された暴漢に遭遇、無差別殺人は防げたが、命を落としてしまう。
死んだ筈なのに先程とは違う場所に尊流は立って居た、知らない場所なのに何故か懐かしい感じがするその場所は、ある神様の神域だった。
そこで現れた神様によって驚愕の事実が告げられた。
沢村尊流は何度も転生して魂の位が上がり、もう少しで神と成れるというものだった。
そして神に成るべく、再度修行の為に転生することになるのであった。
とんでもチートを貰い転生した尊流ははたして神になれるのか、仲間と共に世界を旅するストーリーが始まる。
物語の進行は他の作品に比べかなり遅めかと思いますが、読んだ方が情景を思い浮かべられるように心掛けておりますので、一緒に異世界を旅して主人公の成長を見守り楽しんで頂けたらと思います。
処女作ですので、読みづらい事も有るかと思いますが、頑張って書いて行きますので宜しくお願い致します。
更新は不定期になると思います。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い
八神 凪
ファンタジー
旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い
【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】
高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。
満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。
彼女も居ないごく普通の男である。
そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。
繁華街へ繰り出す陸。
まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。
陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。
まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。
魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。
次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。
「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。
困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。
元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。
なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。
『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』
そう言い放つと城から追い出そうとする姫。
そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。
残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。
「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」
陸はしがないただのサラリーマン。
しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。
今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――
異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる