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213話 幕間 祝福 2

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 手入れの行き届いた落ち着いたリビングで、私は出されたお茶にも手を付けずガチガチに緊張している…

「教皇様、そのように服を握っているとせっかくの正装がシワくちゃになってしまいますよ?」

 背後に控えるコーリアに言われ自らの手元を見ると、膝に置いた手で教皇の正装を無意識にギュッと掴んでいた。
 慌てて離して服を伸ばす。


「私が…もしも私が教皇様の立場ならば、やはり同じように緊張していたと思いますよ」
 ロンドル大司教が優しげに私を見ている。


 リルト様の情報の大事な部分を聞かされていないコーリアや神殿騎士の二人は、何故ここまで緊張しているのか分からないだろう。


 ハーフエルフの寿命は"どちらの親に似たか?"によって非常に大きく異なる。
 ヒューマンの親に似て100~200歳という事もあれば、エルフの親に似て1000~2000歳という事もある。
 リルト様がどうかは分からないが、ハイヒューマンになった私がまだ存命の間に昇神される可能性さえあるのだ。
 いわば"生身の神"の御前に立つに近い心境だ、緊張しないはずがない…


…コンコンコン
「リルトです」


 少し高い涼やかな声を聞き、いらっしゃった事に緊張が高まるのかと思ったが、何かストンと落ち着いてしまった。


 入って来たリルト様は質の良い平民服で輝く長い藍色の髪を後頭部で束ねている。
 少年と青年の境目、可愛らしいような、凛々しいような、綺麗なような…
 第一印象をまとめきれない不思議な感覚に囚われていると、大司教に促され私の向かいに座った彼の瞳が私を映す。

 彼からは"神託"の時に感じる神力と同じ波動を微かに感じる。
 やはり只人ではないのね…


「はじめまして。
 まぁそちらはご存知だと思いますがリルトと申します。
 大司教から下手に丁寧だと逆に恐縮してしまうと言われているのでへりくだった言葉遣いは止めてますけど…大丈夫ですか?」

「はい、もちろんけっこうです。
 はじめまして、教皇の任を頂いているソーレリスと申します。
 お目にかかれて幸いです」


「ははは。
 まぁ何か重大な話し合いをしなきゃいけない訳でも無いですし、ざっくばらんに…は、ちょっと難しいですか?」
 リルト様の視線は私の背後へ…

 振り向くとコーリアも、神殿騎士の二人も両手を組み合わせリルト様に祈りを捧げている。


「か、彼らはリルト様に会えて感動してしまったようで…」


「はぁ…まぁいいか。
 それで、まずは教皇さんにお礼を。
 私がここで始めようとしている事業計画に教会も協力して頂けるとお話しを頂いてます。
 どうもありがとうございます、でもいいんですか?
 こんな個人の事業に手を貸して?」


 昨夜は会ってどうするか心配したが、リルト様の方から私も考えていたスラム対策事業の話を振ってくれて助かった。
 …でも、リルト様に"教皇さん"と役職名で呼ばれて、何か距離を感じて悲しい気持ちになってしまった。

「私の事はどうかソーレリスとお呼び下さい。

 事業協力に関しては問題ありません。
 リルト様が利益追及の為にこの事業を始めていない事は存じ上げていますから。
 それに教会としてもスラムの方々に助力出来る機会があれば積極的に動くのはどこの国でも行っていますので」


「そうですか。それなら良かったです。
 では、金銭で…というのも教会に対して無粋ですから、お返しにはその事業で出来た商品を納めさせて頂きますね。

 それと…大司教に聞いたら、ソーレリスさんと"中央神官"?という方々が私が倒れている間、わざわざ祈りを捧げてくれていたとか?
 それのお礼をこちらに…後ろの三人は偶然居合わせて運が良かった、って事で」

 リルト様が空中にアイテムストレージを開き、そこから小さな平たい箱を4つ、大きな箱を1つ取り出し、小さな箱を4つ私の前へ差し出す。

「1つはソーレリスさんの、後の3つは後ろの三人にどうぞ。
 こちらには中央神官の方々の分が入ってますから、お帰りの際にお持ち下さい」

 私は3つの箱をコーリアに渡し、1つを手の上にリルト様を見る。

「開けて見ても?」
「はい、どうぞ」

 ゆっくりと開けた箱の中には10cmほどのプレートにチェーンが付いたペンダントが入っていた。

 おそらく銀であろうプレートには青みを帯びた薄っすら輝く鉱石で雲、その間に浮かぶ島、羽ばたく鳥の横を泳ぐ不思議な大きな魚?が描かれている。
 …不思議な風景だ、でもとても美しい。



「ボクが何処かの書物で見た"神界の風景"を描いたものです」



 雷に打たれたように身体中を衝撃が走る。
 ロンドル大司教を見ると私の視線の意味に気づいたように小さく頷いている。


 …これが、これが神界の風景。
 コーリア達がいるので誤魔化されていたが、これは本当の神界の風景なんだ。
 神々が住まういと高き場所…


 ふと気がつくとリルト様が私にハンカチを差し出している。
 …いつの間にか泣いていたようだ。

「どうぞ?」
「あ、ありがとうございます」

 ちょっと恥ずかしかったがありがたく受け取り涙を拭く。


「あ、あのリルト様!
 このような貴重なもの、私も頂いてよろしいのですか?」
 コーリアが箱を開けてリルト様に訊ねる。

「え? あぁ、それは今ボクが攻略しているダンジョンで採掘出来る銀とコボル鉱石で作りました。
 元手は0ゴルだから気にしないで?」

「そ、そうですか。
 では、ありがたく頂戴いたします」
 コーリアと騎士二人は深々と頭を下げる。


 リルト様は両腕を組み、何か考えていらっしゃる。

「うーん…やっぱり他にも何かお礼になるもの無いかな?」

「い、いえリルト様! これで充分ですから」
「でもなぁ…」


…ピシッ!


 空間が鳴り突然部屋を結界が覆い、膨大な神力が充満していく。





「では、リルト様が"祝福"を与えるのはどうですか?」





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