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212話 幕間 祝福 1
しおりを挟む「ありがとうございました」
「おう、良かったら帰りもまた使ってくれよ!」
乗り合い馬車の御者の方と別れ街を見渡す。
非常に活気のある街だ、雑然としているが人々の営みが放つ熱気のようなものを感じる。
(…ここに、ここにリルト様がいらっしゃるのですね)
そう考えるだけで胸に熱いものがこみ上げてくる。
「教皇さ…あ、いえ、ソーレリス様」
幼い頃から私のお付をしているコーリアがつい呼んでしまうのは仕方のない事。
コーリアの後ろに控える神殿騎士の二人も苦笑いしているし、私はクスッと笑ってシーッと指でゼスチャーをして戯ける。
「別に後ろめたい事はありませんが、こんなところに突然教皇が現れれば騒ぎになってしまいますから。
気を付けてコーリア」
「は、はい、すみません気を付けます」
今回は正式訪問ではなく"お忍び"という形だ。
私も教皇の衣装ではなく普通の神官服、コーリアは落ち着いた平民服、神殿騎士の二人も冒険者風の出で立ちで、"旅の神官とお付、その護衛の冒険者"といった一団に扮している。
「まずは宿の方へ行きましょうか?
ロンドル大司教が部屋を取ってくれているはずですから」
コーリアはスケジュールを記したメモを見ている。
「そうですね…リルト様がいらっしゃる宿に…
き、緊張してきました…」
四十にもなって、まるで年頃の娘のように胸が高鳴っている。
「ソーレリス様、お気をつけて。 この街には冒険者が多いです。
中にはガラの悪い者もいますから、私達から離れないようお願いします」
神殿騎士の二人は真剣な表情だ。
「大丈夫ですよ、これでもけっこう強いですからね?」
「いえ、そういう意味では無く、…その、…ソーレリス様はお美しいですから。 その、ナンパ目的というか…」
「…うふふ、こんなおばちゃんに声をかけるような変わり者はそうそういませんから大丈夫ですよ」
確かに"ハイヒューマン"になってから老化現象は止まっているが、見た目は普通におばちゃんだと思うのだけど?
「…無理ですよお二方。
ソーレリス様は自分の見た目を正確に把握出来ていないですから、自分はそこらの街角にいるおばちゃんと同じだと思ってるんですよ…」
「それはさすがに無理が…」
コーリアがお二方と何かボソボソと話しているけど…何だろう?
ーーーーーーーーーー
「長旅ご苦労さまでした教皇様。
お待ちしておりました」
宿のロビー、従業員に呼ばれて外から現れたロンドル大司教は"教皇"の部分を声を潜め話す。
「本名の"ソーレリス"で呼んで下さい。
ロンドル大司教、お久しぶりですね」
さすが神のお力で進化したハイヒューマンは一味違う。
纏う魔力の淀みの無さ、身体から放たれる生命力の強さ、見た目年齢にそぐわないその覇気に騎士二人も息を呑んでいる。
私は今にもリルト様がお出でになるのでは?と周りをキョロキョロしてしまう。
「…? あぁ、そうでした。
私達一行はもうこの宿は引き払っているのですよ」
「えっ?」
「以前からリルト様とワーディル老が作られていた拠点の屋敷が完成しましたので、今はそちらに」
「そ、そうだったんですね」
「リルト様は今ダンジョンに遠征中で、予定通りなら明日か明後日には戻って来られます。
ソーレリス様がいらっしゃる事はお伝えしてありますから、戻られたら屋敷の方で席を設けますので、それまでは旅の疲れをゆっくり取って下さい」
リルト様がいらっしゃらないと聞いて残念なようなホッとしたような気持ちで部屋に案内される。
ーーーーーーーーーー
コーリアとの二人部屋に通され、ようやく旅装を解き、お茶を飲み寛ぐ。
「教皇様、とうとうリルト様に会えますね。
会ったらどうされるんですか?」
「…えっ?」
コーリアの何気ない一言に身体が硬直する。
「えっ?」
「……」
「……」
室内を静寂が漂う…
「まさか…ただただ会いたい一心で、会ってどうするとか、何を話すとか、何も考えてらっしゃらない…なんて事は無いです、…よね?」
コーリアは引きつった笑顔でこちらを見ている。
「……」
マズい…ただただ会いたい一心で来ちゃったし。
会ってどうするとか無いし。
何を話すとか、何も考えて無いです…
「教皇様…」
「ど、どうしようコーリア!何も考えないで来ちゃった! どうしたらいい?」
「そ、そんな事突然言われても私だって分かりませんよ!
どうするんですか? リルト様だって困りますよ!」
「ああぁ!どうしよう!何か、何か考えないと」
「教皇として祝福をお与えするとか?」
「何言ってるんですか罰当たりな!そんなもの私がリルト様から貰いたいくらいですよ!」
「…そうですよね」
…ど、どうしよう…
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