上 下
215 / 244

215話 幕間 王 1

しおりを挟む

ザッ! 

 立ち止まると小さな土煙とともに踏み込んだ足元の草が舞う。

(…勢いが殺し切れてない、ちょっとなまってるな…)


 纏っていた魔力を開放し、軽く汗をかいた金髪をかきあげ身体をほぐしながら来た道を見る。
 道の彼方に土煙が見え、どんどんと近づいてくるそれはふた…いや三人の私の随行者。


 一人は茶色い短髪の精悍せいかんな獣人の若者。
 ローブ姿の同じくらいの年代の男を背負って走っている。
 もう一人は黄緑色の長髪を後ろで結んだ整った顔の若者。 隣の二人を気にせず走っている。



ーーーーーーーーーー

 少しして私の前までたどり着くと、ローブ姿の若者は降ろされ、青い顔をして俯いている。 揺らされて気持ち悪くなったな。

「「はぁ、はぁ…」」

 走っていた二人は肩で息をしている。

「…大丈夫?」

「はぁ、はぁ、陛下。 気遣って頂けるなら、我々にスピードを合わせて下さい」
「いや、現役だから付いて来れるかなって…」
「ハイヒューマンである陛下に我々が付いていける訳無いじゃないですか…」

「…なんかごめんね?」


 振り返りたどり着いた場所を見る。
 ここは我が国アリルメリカから遥か南西にある中規模国オルガスティアの迷宮都市ラスカリア。

 本当は飛空艇と一緒にここまで来る予定だったんだが、久しぶりの外出なので身体を動かしたくて隣国の飛空艇発着場から走って来た。


(やっぱり王様業ばっかりしてたから身体強化が下手になってたなぁ…)


 一人で構わなかったんだが、さすがにそれは宰相から待ったがかかり、近衛騎士団から二人、魔法士団から一人随行する事になった。

 自己紹介はされたが流していたので顔と名前は一致しない。 何百人といる騎士団や魔法士団。自己紹介されるたび一人一人覚えていられるはずが無い。

 茶髪の若者は確か平民上がりの実力派だ。訓練で見てスジがいいなと思って何となく記憶にある。
 黄緑色の髪の若者は…分からない。どっかの貴族子息だったか?
 魔法士の若者は全く分からない。まぁ随行者に選ばれるくらいだしそこそこやるんだろう。


「さて、じゃあそろそろ行こうか?」



ーーーーーーーーーー

 雑然としたアリルメリカの下町のような雰囲気の街。
 けっこう嫌いじゃない雰囲気だが一瞬心の中で、
"ヒューマンの集会でもあるのか?"
 と思ったがここはアリルメリカじゃない。
 飛空艇の航路でも無いしヒューマンばかりの人の波はこれが通常なのだ。

「活気があっていい街ですね」
「そうですね。確か迷宮が近くにあったはずなのでそのおかげでしょう」
 茶髪の若者と魔法士の若者は私と同じ感想のようだ。

「フンッ、我がアリルメリカに比べれば田舎もいいところだ、特に見るべき価値も無いな」
 黄緑髪の若者はやっぱり貴族出の者か…

 まぁ貴族子息で今のような感想ならおそらく王都出身なんだろう。
 この大陸で一番発展している街の出身者からすれば、そういう感想にもなるか…



ーーーーーーーーーー

「お父様?! わぷっ!」
 一月ぶりくらいに見る愛娘を抱きしめる。変わりない様子に一安心だ。

「お久しぶりです陛下。
 飛空艇の到着まであと2日はあったはずですが?」

「ファルーサ子爵も元気そうだね。 身体がなまっていたから走って来たよ」

…トン!
 軽く押されリーチェと離れる。

「もう離して! 子供じゃないんですから止めて下さい」

 …ついこの間まで抱きしめてやると喜んでいたのに、時の流れは残酷だ…


「殿下、お久しぶりでございます。
 このような田舎街に長期滞在しなければならないとは、公務とはいえ大変でございますね?」

「…キリアム殿、お久しぶりです。
 あまり他国の事を悪く言うのは…」

 黄緑髪の若者が随分気安い感じでリーチェに話しかけているが、リーチェは再会にあまり嬉しそうではないな。


 と、ファルーサ子爵が私の疑問に気づいてソッと耳打ちする。
「アルダス侯爵家の嫡子キリアム殿です。
 一応元同級生ですがなのでリーチェはあまり好きじゃないんですけど、どうもめげないタチなようで…」

 アルダス侯爵家といえばガチガチの権威主義だ。
 庶民派なリーチェとは気が合わないだろうな、まぁ私もだが…


「で、どうするんですか?
 別の宿を一店舗押さえておきましたが2日後からですよ?」

「あ~、宿の事は考えてなかった。 ここは?」

 落ち着いていていい感じの宿だ。

「そこまでランクの高い宿じゃないですから、食事も庶民的、専任の部屋係も当然いませんけど、大丈夫ですか?」
 リーチェはソッとキリアムを見る。

(あ~…なんか問題起こすタイプなのかぁ…何でこんなのが随行員に混じってるんだ?)



ーーーーーーーーーー

 結局予約していた高ランクの宿に空きがあったので、打ち合わせもあるのでリーチェ達も含めてそちらへ移動した、今は夕食後の私の部屋。


「で、何でキリアム殿なんて連れて来たんですか?
 学園でも庶民にキツく当るガチガチの貴族主義者で、私大っキライなんですけど?」
 リーチェはおかんむりだ。

「どうせお金か権威で無理矢理入り込んだんですよ。
 学園でもよくそうやってリーチェの近くを陣取ってましたから…」
 ファルーサ子爵にはお馴染みの光景のようだ。


「そう言われてもね。
 王が随行者の選定まで一々口出し出来ないでしょ?」
「まぁ、そうかも知れませんけど…リルト様の前には出さない方がいいですよ。 絶対対抗心を出してトラブルを引き起こしますよ?」




「…もう彼との間にこれ以上トラブルはごめんだよ」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・

y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える! てってれてーてってれてーてててててー! やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪ 一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ この小説の主人公は神崎 悠斗くん 前世では色々可哀想な人生を歩んでね… まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪ 前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる 久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく 色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー 友情、熱血、愛はあるかわかりません! ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

えっ!?俺が神様になるの? チートで異世界修行物語。

偵察部隊  元リーコン
ファンタジー
主人公の名前は沢村尊流(さわむら たける)45歳。仕事に向かう途中にテロリストに感化された暴漢に遭遇、無差別殺人は防げたが、命を落としてしまう。 死んだ筈なのに先程とは違う場所に尊流は立って居た、知らない場所なのに何故か懐かしい感じがするその場所は、ある神様の神域だった。 そこで現れた神様によって驚愕の事実が告げられた。 沢村尊流は何度も転生して魂の位が上がり、もう少しで神と成れるというものだった。 そして神に成るべく、再度修行の為に転生することになるのであった。 とんでもチートを貰い転生した尊流ははたして神になれるのか、仲間と共に世界を旅するストーリーが始まる。 物語の進行は他の作品に比べかなり遅めかと思いますが、読んだ方が情景を思い浮かべられるように心掛けておりますので、一緒に異世界を旅して主人公の成長を見守り楽しんで頂けたらと思います。 処女作ですので、読みづらい事も有るかと思いますが、頑張って書いて行きますので宜しくお願い致します。 更新は不定期になると思います。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

処理中です...