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215話 幕間 王 1
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立ち止まると小さな土煙とともに踏み込んだ足元の草が舞う。
(…勢いが殺し切れてない、ちょっと鈍ってるな…)
纏っていた魔力を開放し、軽く汗をかいた金髪をかきあげ身体をほぐしながら来た道を見る。
道の彼方に土煙が見え、どんどんと近づいてくるそれはふた…いや三人の私の随行者。
一人は茶色い短髪の精悍な獣人の若者。
ローブ姿の同じくらいの年代の男を背負って走っている。
もう一人は黄緑色の長髪を後ろで結んだ整った顔の若者。 隣の二人を気にせず走っている。
ーーーーーーーーーー
少しして私の前までたどり着くと、ローブ姿の若者は降ろされ、青い顔をして俯いている。 揺らされて気持ち悪くなったな。
「「はぁ、はぁ…」」
走っていた二人は肩で息をしている。
「…大丈夫?」
「はぁ、はぁ、陛下。 気遣って頂けるなら、我々にスピードを合わせて下さい」
「いや、現役だから付いて来れるかなって…」
「ハイヒューマンである陛下に我々が付いていける訳無いじゃないですか…」
「…なんかごめんね?」
振り返りたどり着いた場所を見る。
ここは我が国アリルメリカから遥か南西にある中規模国オルガスティアの迷宮都市ラスカリア。
本当は飛空艇と一緒にここまで来る予定だったんだが、久しぶりの外出なので身体を動かしたくて隣国の飛空艇発着場から走って来た。
(やっぱり王様業ばっかりしてたから身体強化が下手になってたなぁ…)
一人で構わなかったんだが、さすがにそれは宰相から待ったがかかり、近衛騎士団から二人、魔法士団から一人随行する事になった。
自己紹介はされたが流していたので顔と名前は一致しない。 何百人といる騎士団や魔法士団。自己紹介されるたび一人一人覚えていられるはずが無い。
茶髪の若者は確か平民上がりの実力派だ。訓練で見てスジがいいなと思って何となく記憶にある。
黄緑色の髪の若者は…分からない。どっかの貴族子息だったか?
魔法士の若者は全く分からない。まぁ随行者に選ばれるくらいだしそこそこやるんだろう。
「さて、じゃあそろそろ行こうか?」
ーーーーーーーーーー
雑然としたアリルメリカの下町のような雰囲気の街。
けっこう嫌いじゃない雰囲気だが一瞬心の中で、
"ヒューマンの集会でもあるのか?"
と思ったがここはアリルメリカじゃない。
飛空艇の航路でも無いしヒューマンばかりの人の波はこれが通常なのだ。
「活気があっていい街ですね」
「そうですね。確か迷宮が近くにあったはずなのでそのおかげでしょう」
茶髪の若者と魔法士の若者は私と同じ感想のようだ。
「フンッ、我がアリルメリカに比べれば田舎もいいところだ、特に見るべき価値も無いな」
黄緑髪の若者はやっぱり貴族出の者か…
まぁ貴族子息で今のような感想ならおそらく王都出身なんだろう。
この大陸で一番発展している街の出身者からすれば、そういう感想にもなるか…
ーーーーーーーーーー
「お父様?! わぷっ!」
一月ぶりくらいに見る愛娘を抱きしめる。変わりない様子に一安心だ。
「お久しぶりです陛下。
飛空艇の到着まであと2日はあったはずですが?」
「ファルーサ子爵も元気そうだね。 身体が鈍っていたから走って来たよ」
…トン!
軽く押されリーチェと離れる。
「もう離して! 子供じゃないんですから止めて下さい」
…ついこの間まで抱きしめてやると喜んでいたのに、時の流れは残酷だ…
「殿下、お久しぶりでございます。
このような田舎街に長期滞在しなければならないとは、公務とはいえ大変でございますね?」
「…キリアム殿、お久しぶりです。
あまり他国の事を悪く言うのは…」
黄緑髪の若者が随分気安い感じでリーチェに話しかけているが、リーチェは再会にあまり嬉しそうではないな。
と、ファルーサ子爵が私の疑問に気づいてソッと耳打ちする。
「アルダス侯爵家の嫡子キリアム殿です。
一応元同級生ですがあんな感じなのでリーチェはあまり好きじゃないんですけど、どうもめげない質なようで…」
アルダス侯爵家といえばガチガチの権威主義だ。
庶民派なリーチェとは気が合わないだろうな、まぁ私もだが…
「で、どうするんですか?
別の宿を一店舗押さえておきましたが2日後からですよ?」
「あ~、宿の事は考えてなかった。 ここは?」
落ち着いていていい感じの宿だ。
「そこまでランクの高い宿じゃないですから、食事も庶民的、専任の部屋係も当然いませんけど、大丈夫ですか?」
リーチェはソッとキリアムを見る。
(あ~…なんか問題起こすタイプなのかぁ…何でこんなのが随行員に混じってるんだ?)
ーーーーーーーーーー
結局予約していた高ランクの宿に空きがあったので、打ち合わせもあるのでリーチェ達も含めてそちらへ移動した、今は夕食後の私の部屋。
「で、何でキリアム殿なんて連れて来たんですか?
学園でも庶民にキツく当るガチガチの貴族主義者で、私大っキライなんですけど?」
リーチェはおかんむりだ。
「どうせお金か権威で無理矢理入り込んだんですよ。
学園でもよくそうやってリーチェの近くを陣取ってましたから…」
ファルーサ子爵にはお馴染みの光景のようだ。
「そう言われてもね。
王が随行者の選定まで一々口出し出来ないでしょ?」
「まぁ、そうかも知れませんけど…リルト様の前には出さない方がいいですよ。 絶対対抗心を出してトラブルを引き起こしますよ?」
「…もう彼との間にこれ以上トラブルはごめんだよ」
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