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199話 幕間 近くて遠い星 3

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 子供の頃、いや今も変わらないけど私は本が大好きだった。


 本の中で世界を旅し、勇者の戦いにハラハラし、聖女の恋愛にドキドキしたりしていた。
 当然よく題材にされる冒険者に憧れた。
 着の身着のまま世界を旅して、時に素晴らしい風景に目を奪われ、時に危険に出会い仲間と力を合わせ乗り越え、時にスゴい宝を見つけて喜び合う…



 でも神は私に冒険者の道を示してくれなかった。



 "授職の儀"で授かった職業は【文官】。
 商人でも役人でもあらゆる文系職に適する職業スキルでそこそこ希少だから周りの大人は羨ましがっていたけど、私は絶望から一晩泣き明かした。


 諦めきれずに冒険者ギルドに相談してまで必要なスキルを自力習得しようとしたけど、どんなに訓練しても必須ともいえる"身体強化"すら覚えられず、子供ながらに、
"あぁ、私には冒険者の道は無いんだ"
と悟った。


 そこからは我ながら淡々と時が流れる。

 せめて近くで同じ空気を味わい、彼ら彼女らの助けになれればと冒険者ギルドに就職した。
 キラキラとした新人冒険者の少年達を見ているうちにちょっと趣味嗜好が歪んだ気もするけど特に何かするわけでも無くて、そんな彼らの成長を見ているのがただ楽しかった。


 そしてリルトくんに出会った。


 可愛くて、綺麗で、カッコよくて。
 危なっかしくて、頼もしくて、尊敬出来て。
 物語の登場人物みたいにストレージに入ったり、ゴーレム馬に乗ったり、一緒に悪人を追いかけて魔物を倒すのに同行したり…


 気がつくと、いつの間にか心の奥底に無理やり眠らせていた少女の私が目を覚ましていて、事ある事に呟く。

"何で私には、冒険者の適正が無いんだろう"



ーーーーーーーーーー

 リルトきゅんはワーディル老と大司教と東大陸のこれからについて議論している。
 ポラリスは瑠璃ちゃんにイチゴをあげて手に乗ってもらって嬉しそう。


 ふと気づくとキュベレーさんが私を見ている。


「何かしら?キュベレーさん?」


「……」
「……」


 なんだろう、何も言わずただただジッと見られて落ち着かないんだけど…


「レシアナさん…でしたわね?」
 やっとキュベレーさんが口を開いてくれた。
「はい」


「あなた職業スキルは?」
「"文官"です」

 …何でこう絶妙に嫌なタイミングで嫌な質問を…


 キュベレーさんは少し不満そうな表情だ。


「…何か冒険者に向いたスキルは?」
「…持ってませんけど、それが何か?」

 …また不満そうな表情だけど、それはこっちだ。
 なんかイライラしてきた。


「まぁ、しょうがないですわね」
 キュベレーさんがため息混じりに呟く。




「何ですか!さっきから!何か言いたい事があるならハッキリ言って下さい!」




 つい大きい声を出してしまった…
 キュベレーさんは目を見開いて固まっているし、皆もこちらを見ている。


「レシアナさん?どうかした?」

 リルトきゅんがこちらに向き直りキュベレーさんの頭にポンと手を置くと、突然キュベレーさんはガバッとリルトきゅんの腰に抱きつき、…その身体は小さく震えている?


「あ、あの私…」
 突然のキュベレーさんの変化に上手く話せない。


 リルトきゅんはキュベレーさんの頭を優しく撫でながら言う。

「たぶんコイツが何か失礼な事言ったんでしょ?
 ごめんね。

 レシアナさんコイツはね、ボクから人間としての感情を、微精霊達から世界のあらゆる知識を得て大人みたいに振る舞ってるけど、本当はまだ産まれたばかりの赤ん坊なんだ。

 だから人の心、深い思い、そんな機微きびは知識を得てるだけでよく分かってないんだよ。

 ほらキュベレー、レシアナさんに何か言う事は?」


 キュベレーさんは少し涙のにじんだ目でリルトきゅんを見上げた後こちらを向く。

「レシアナさん…わたしの言葉か態度か、何かあなたの気に障る事をしてしまったみたいで…ごめんなさい」


 何だか突然しおらしくなったキュベレーさんに毒気を抜かれてしまった。
「ううん、いいの。私も突然大声出してごめんね?
 でも何であんな質問を?」


「…あなたの周りに昔からいて、ずっとあなたを見ていた精霊達が、あなたが冒険者になる助けになりたい。あなたに使役して欲しい。って言うのでどれだけ適正があるのか確かめたくて…」


「え?」



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