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201話 ラスカリア 26

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…チュン、チ、チチチ、チュンチュン…

「じゃあ"アーくん"行くよ!」


 朝食後、色々と起きたがレシアナさんと大司教はお勤めがあるので一旦区切りとした。
 宿の部屋の窓辺で天気のいい空を眺めながらお茶をしていると、出勤準備が出来たらしいレシアナさんが元気よく出かけていく。


(しかし…副ギルド長まで出世したのに辞める決断は早かったな)


 それだけレシアナさんの冒険者への思いが強かったって事なんだろうな。


 レシアナさんが言っている"アーくん"と言うのはたぶん精霊の名前だろう。
 興奮して光になって飛び回る様子を見たポラリスが「光の矢みたい」と言ったのにインスピレーションを得たレシアナさんが精霊に"アーロウス"と名付けていたからそれの愛称だと思う。


(はぁ…時間作って早めに確認しないとなぁ)


 アーロウスが興奮してた理由は、キュベレーが、
「この世で唯一の精霊魔道具士であるわたしが、アーロウスに専用武器を作ってあげましょう」
と言い出したからだ。
 キュベレーは元々そのつもりだったようで、その魔道具武器を持たせる為に"精霊獣化"させたらしい。

 オレが待ったをかけて、安全かどうか確認してから渡す事にしたからキュベレーはふて腐れて自室に帰っちゃったけど、精霊が作る魔道具なんて前代未聞なモノ、確認もせずに渡せる訳無い。


…コンコンコン

「リルト、準備出来たよ」
 ポラリスが準備を整えて呼びに来た。今日から"未探索エリア"の攻略を進める、レシアナさんに負けないように気合い入れて行こう。



ーーーーーーーーーー

 9階の隠し扉から"9階裏ルート"へ入る。

 今回も入ってすぐの通路、出た周りの湿地帯には敵の姿が無い。
 "鍵"を持っている魔物しか通行出来ないから、こちら側には基本的に巡回していないのかもしれないな。


「ポラリス。打ち合わせ通り最初は"位相転移"で行こう」
「うん」


 "位相転移"は隠密スキルとして強すぎる。
 頼ってばかりいれば必ずオレ達は"不意討ち"や"突発的な事態"に対する処理能力が成長しないだろう。
 その辺りはポラリスとも意見の一致をみせている。
 とはいえまだ二人ともそこまで強い訳じゃない、今のように全てが初見の段階では無理は禁物だ。


 湿地に沈みかけた朽ちてみすぼらしい足場を渡り拠点へ近づいていく。

 拠点は湿地に生えている捻れた細い木で作った不揃いな柵に囲まれているが、正面にある門の扉は開いていて、その中の魔物の姿が見える。


「うわ…嫌な新顔がいる」
「うわー…」


 外からはチラホラとアンデッドコボルドが歩き回っているのが見えるが、それらと一緒に、自らの崩れた肉を引きずったり、半分骨がみえている犬があちこちうろついている。

「"鑑定"」

ーーーーーーーーーーーーーーーー
コープスドッグ

レベル:26
種族:死族(魔獣)
スキル:嗅覚強化・病毒牙
ーーーーーーーーーーーーーーーー

「…って感じ。 牙がヤバいし、数いそうだし仲間呼んだりしそうだし厄介だね」

「コボルドと連携されると攻撃姿勢が低いのも厄介」
「なるほど確かに」


 この間の通常ルートの最下層戦でレベルが上がったがオレはまだレベル30。コープスドッグの26レベルは充分脅威判定範囲内だ。


「……」
 ふとポラリスに視線を送ると、周囲を見渡しながら何か思案げな雰囲気だ。

「ポラリス、どうかした?」


「…この門周辺ってかなり敵が密集してるし、ランドルフ王様の話に出てきた斥候の人って、どうやって一人でここ抜けたんだろう?って…」


 言われてみればそうだ。
 ゼニス伯爵が言うにはそれなりに技量のある斥候だったようだけど、"位相転移"でも無い普通の隠密スキルでこの門は抜けれるとは思えない。


 オレは"空間察知"を使いつつ、このエリアの空間把握に集中する。
 と、拠点のエリア外で視界に入っているのに敵が見えない場所に"空間察知"上では敵のマークがある箇所を見つける。 これは…


「ポラリス、こっちに別ルートがあるっぽい。
 たぶん地下道か何かだと思う」
 オレはポラリスを促しながら察知にかかった見えない敵のいる方向へ進む。


 察知を追いかけながら拠点の柵沿いにぐるっと迂回して進むと、エリア外周沿いの崖下に洞穴を見つけた。
 穴の入り口周辺には少数のアンデッドがいるだけで門よりは警戒度が低い。



「あれかな?」
「…行こうリルト」




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