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196話 幕間 意思の向く先
しおりを挟む「……」
日の差し込む雰囲気のいい執務室。
空中に大きく映しだされている映像を見ながら3"神"は固まっていた。
「え…?"生命創造"?」
ティナの呟きに反応してマルティアルが小さなウィンドウを開き何かを探し始める。
「生命…いや精霊創造?…規約…いやリルトさんはまだ神では…この場合は?」
「精霊(機)…? "機"とはなんじゃ?」
ゼルメスリュートはヒゲを撫でながら首を傾げる。
3神はティナの執務室で打ち合わせを行っていた。
承認の降りた"精霊神交代"について、それに伴う諸々について。
すると世界の監視システムから異常な魔力と莫大な精霊力の動きを感知した警告が流れ、ウィンドウに注目するとそこにはリルトとキュベレーの姿が…
「人間の力で…精霊を創った? そんな事可能なの?」
「しかし実際ワシも"機"なんて属性の精霊は知りませんぞ?」
「こんな事してたからあんな負傷したのね…」
「いえ、どうでしょう?いくら何でも人智を超えています。どちらかと言うと精霊側がリルト様に呼応した、という事なのではないでしょうか?」
「確かにその可能性はあるのう。
精霊も精霊界も複雑じゃ、司るワシも知っておるつもりじゃったが、"ラテル"やあの"キュベレー"を見ると自信が無くなる。
"特異点"なのか、ワシが無知なのか…」
ラテルについてはゼルメスリュートも加えて調査していた。
確かに土属性の低級精霊にティナの新たな権能である"大地"の力を付与してリルトの元へ向かわせたが、精霊の"格"にそぐわない知能の高さや、リルトの時間属性スキルにシンクロしたりと、ティナ達の預かり知らぬ力を有している事に以前から疑問を持っていた。
が、結局3神で調べても理由は分からなかった。
「"機"…まぁ産まれた経緯からしてたぶん"機械"の"機"なんでしょうね」
ティナがウィンドウを見ながら呟く。
「おお、カラクリの精霊というか事か!…カラクリの精霊?
精霊とは自然を司るものでは無かったのか?
…やはり自信を無くしてきましたぞ…」
ゼルメスリュートが項垂れる。
「ティナ様、あの精霊と接触した微精霊が次々と動きを変えていて、世界中の精霊の動きに変化が現れ始めてます」
マルティアルが小さなウィンドウを操作しながら報告する。
「!? 何が起きてますか?マズいですか?」
「いえ、…マズいどころか微精霊の動きにムダが無くなり、軽から中度の龍脈の滞りを次々と修正しています」
「…"龍脈・霊脈管理部"の仕事が無くなりそうですね」
ティナの顔はひきつっている。
一時的に騒然としていた室内の空気は、凡そ問題は無いだろうということが分かり弛緩し始める。
マルティアルは手元のウィンドウに落としていた視線をティナに向ける。
「ティナ様。とりあえず神界規約に抵触する箇所は無いと思います」
…ビキッ!
「規約には無くても問題はあるよ」
空間から聞こえる何かにヒビが入ったような音と共に室内に響く声。
飛び上がりそうな勢いで跪くティナ、その横でゼルメスリュートも頭を下げる。
ボロボロと崩れ落ちる空間の向こうから室内を覗き込む巨大な瞳は3人を捉える。
「父上…わざわざ来られたという事は…」
「言っておかなきゃいけない事が出来たからね。
セイルマリルの監視はこれから更に密にするように、特に精霊達の動きには充分気をつけて」
「…? それは一体?」
「あのおっさん…じゃなかったエルフ少年のおかげで精霊達は一段階高い自我に目覚め始めた。
精霊とは星の意思の欠片だ、つまりセイルマリル自体が自我に目覚めようとしている、とも言える」
「セイルマリルが…?」
「強い自我を持つ星なんてまだどこの次元でも成功していない事例だからぜひこのまま成長して欲しい。
すごく貴重なサンプルだから大切に扱うようにね」
「つまり…今まで通り監視、保全に務め、それを密にすれば良いのですね?」
「うん。追加の人員も許可するからどんどん動かしていいよ」
「分かりました」
「後、あのエルフ少年の安全にも気をつけて。
彼に何かあれば精霊達が過剰反応する恐れもある。」
「リルト様は冒険者なんですが?」
「その程度は危険じゃないよ。気を付けるのは"アッチ"」
「分かりました。
これまで以上にリルト様をサポートします」
「よろしくね」
声が聞こえなくなると共に室内に溢れていた圧は消え、崩れた空間も元に戻る。
ティナはカクカクと震える脚で立ち上がりソファーにしなだれかかる。
「ひ、久しぶりにお会いしたけど…やっぱり怖い…」
ゼルメスリュートは額の汗を拭っている。
「年寄りにはキツい圧でしたわい」
一人平然としていたマルティアルは二人を見回す。
「お二人とも、お疲れ様でした。
しかし朗報ですね、これで堂々とリルト様を今まで以上にサポート出来ますよ」
「そ、そうですね。
そろそろ"アレ"も出来そうだし…ふ、ふふふ」
先ほどまで震えていたティナは一転笑顔に。
「女は怖いのう…」
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