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195話 ラスカリア 25
しおりを挟むキュベレーはオレが床に叩きつけた紙をソッと拾い上げ見る。
「ちゃんと名前がキュベレーになってます」
キュベレーは満面の笑顔だ。
「いや、そこじゃないでしょ。
ほら、どこに"魔道具"って書いてあるの?
"精霊(機)"っていうのも意味が分かんないけど、キミは精霊。魔道具じゃないの!」
「"鑑定"が間違ってます。わたしは魔道具です」
キュベレーは口をへの字にして顔を背ける。
「だいたい何、スキルの"創造錬金"と"アイテムストレージ"は?」
「おとうさまのお手伝いをするのに必要ですから」
「必要だと手に入るものなの?」
「おとうさまへの愛のなせる技です」
「……」
…オレは精霊という存在を甘くみていたかも知れない。
相手はこの世界の根幹を支える、比べるのも馬鹿らしい巨大な力の末端だ。
セイルマリルそのものと繋がっていて、その中に自分達だけの領域を持ち、ほぼ全ての生き物の生死は彼らの働きにかかっている。
この"スキル"だってそうだ。
神々も管理して操ってはいるが、大元があるのはセイルマリルだ。
精霊はそれに一体どれだけ関与しているんだ?
どれだけの力を持っていて、どんな事が出来るのか、神々は本当に把握出来ているのか?
オレは脱力して寝そべる。
「はぁ…まぁいいや。キミは産まれてオレが願ったように精霊達を守ってくれている、それで満足だよ」
「ヒマです」
「は?」
オレは寝そべったままキュベレーを見る。
「おとうさまから頂いた素晴らしいお仕事は今この時もしています。
でもこれはわたしが持つ基本的な力ですから、別に意識する必要も無く出来るんです、わたしにとっては呼吸みたいなものです」
「だからヒマだと?」
「はい、だからわたしにおとうさまのお手伝いをさせて下さい」
「まぁ"創造錬金"が使えるんだし、確かに色々作るのは手伝えるよね」
「他にも出来ます」
「何か怖いけど…何が出来るの?」
キュベレーはキッパリと言う。
「"エセ転移魔法"とか」
「…おとうさまに詳しく説明してくれるかな?」
キュベレーは嬉しそうに話しだす。
「わたしは"ストレージ"が使えます」
「うん」
「わたしは精霊なので精霊界に行けます」
「…うん」
(やっぱり自分が精霊だって認めてるんじゃねぇかよ…)
「わたしのストレージにおとうさまを入れて精霊界に行き、好きなところで世界に戻れば、あっという間にどこにでも行けます!」
キュベレーは両こぶしを握りしめている。
(…怖すぎる…)
オレは俯いて想像する。
精霊界は物質世界じゃない。おそらくそこでなにかトラブルがあってストレージから出れば存在が一瞬で消滅するだろう。
何故かオレの頭の中ではガタガタ揺れるポンコツ乗用車で宇宙空間を走るイメージが流れる。
「それは~…安全性について色々検証が必要…?」
オレがキュベレーを説得しようと顔を上げると…いない?
と、その瞬間時間の流れがゆっくりになり、背後から白く継ぎ目のある手が伸びてくる。
「うわああぁ!」
オレは力を振り絞りその手から逃れながら空間壁を間に展開する。
「もう!逃げないで下さいおとうさま!」
空中に空いた小さな窓から出ている腕の奥から声が聞こえる。
「いや逃げるよ! 今無理やり捕まえてストレージに入れようとしたろ!
危機を感じて"死線の空隙"まで発動したわ!」
「危なくないですよ?」
「お前試した事無いだろ!」
「大丈夫です。何となく大丈夫な気がします」
「2回言うな!余計怖いわ!」
空中の窓が大きくなり、そこからキュベレーが出てきてしなりと座る。
「…分かりました。ちゃんと色々安全性を検証しておとうさまに報告します」
「…そうしてくれ」
ーーーーーーーーーー
盛大に疲れたので一旦ティータイムに。
「それで、どうする? 色々目立つと思うけど外で生活する? オレは構わないけど」
「いえ、わたしの居場所はここですから、特に必要が無ければここにいます」
キュベレーは静かに紅茶のカップを傾ける。
「…ヒマなんじゃないの?」
「それはお仕事の話です。それ以外の時間はこのおとうさまのストレージ内にいるのがわたしの癒しです」
「まぁ別にいいけど。
じゃあ倉庫のアクセス権あげるから"創造錬金"の練習でもしてなよ。
この部屋も殺風景だし色々作ってみたらいいんじゃない?」
「ありがとうございます"色々"試してみますね」
「…何かまた不安になってきた」
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