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188話 ラスカリア 18
しおりを挟む植え付けられた芝は錬金術師の作る植物の成長薬によりしっかりと根を張り、魔法によって切られた建材は均一、身体強化を使う大工達はクレーンばりに重い物を持ち上げ常人の何倍も働く。
異世界の建築はスピードが尋常ではない。
確かここの建築が決まってから2週間経ってないんじゃないかな?
「早いですね、もう完成しそうじゃないですか?」
オレは隣で一緒に作業を見る大工の親方に聞く。
「いんや、こっから窓ガラスの取り付けやら、内装やら、細かいのが始まるんでね。
ウチのヤツらはガサツなのばっかりだから、こっから時間かかるんでさぁ」
「そんなもんですか」
「…親方がそのガサツ筆頭のくせに…」
作業をしてた若手の一人が呟く。
「あ"ぁ? 何か言ったか?」
「な、何でもありませーん!」
木材を抱え逃げるように裏手へ消えていく。
「そういや指示通り開けといたが、あの穴はあれでいいんですかい?」
「ええ、ちょっと見ましょうか」
オレは親方と連れ立って建物へ入っていく。
明かりの差し込む広い玄関を通り、庭を一望出来るリビングルームに入る。
入り口入ってすぐの右壁に四角く壁板に穴が開けられているのを確認すると、オレはラテルを肩車に切り替えストレージからいくつかの素材を出しその場に置き、錬金盤を片手に持ち錬金術を発動する。
穴の中へミスリルのワイヤーが伸びて行き、天井に設置してもらった明かりの魔道具と接続し、穴の箇所にはスイッチボックスをササッと作る。
(…やっぱり錬金術のスピード上がってるな)
「おお、すげぇ! 錬金術は何度か見てるがリルトの旦那のは…分かんねぇけど何か一味違うな」
(この親方鋭いな)
「親方、この光ってるガラスの部分にちょっと魔力流してみて」
「こうか? おお?」
親方がスイッチボックスの中央にある光るボタンに触れると、天井にある円形の大きなライトが点く。
「なるほどな、こうする為に開けておくのか」
「そうそう、だからよろしくね」
「了解でさ。
たぶん後10日以内、ってとこで引渡し出来ると思いますぜ」
ーーーーーーーーーー
「ヘムスさんか補佐のスザンナさんに取り次いで欲しいんですが?」
「は、はひい…///」
今度は商業ギルド、忘れ物があったから来たんだけど、受付嬢がバグってしまった。
最近冒険と引きこもりの二択で雑な格好が多かったから今日はちゃんと着飾って"エルフ王子スタイル"にしたんだけど失敗だったか?
「リルトさん…ウチの受付嬢を誑かすのは止めて下さい」
どうしようかと思っていたらスザンナさんの方から現れてくれた。
「そんな事言われても…」
「はぁ…で、今日はどうされたんですか?
何か話忘れでもありましたか?」
「いや、そういえば例の商品の試供品が必要かなと思って持って来たんです。
ほら、何か昨日も"売り先を考えてる"って言ってたじゃないですか? そういう所に売り込むのにもあった方がいいでしょ?」
オレはストレージから小さいマジックバッグを出して渡す。
「あれはどちらかと言うとあちらからの押しが凄くて…」
バッグを受け取りながら何かスザンナさんがボソボソ言っている。
「え?」
「いえ、何でも無いです。
でも確かに試供品があるのは助かります、これはバッグごとお預かりしても?」
「ええ。あ、後これは差し入れのクッキーです。
職員の皆さんでどうぞ」
オレが出した紙袋からはバターのいい香りがして、周りの受付嬢が小さくキャアキャア言っている。
「…だからウチの受付嬢を誑かすのは止めて下さい」
ーーーーーーーーーー
「リルト? どうしてここに?」
次はポラリス。
"空間察知"で偶然見つけたので合流してみた。
「いや、たまたま見かけたから。
ポラリスは何してたの?」
「お店覗いたり、ホントにブラブラしてただけ」
「そっか、じゃあオレも付き合おうかな?」
「うん、一緒にブラブラしよう」
「キュキュ」
ポラリスと連れ立って街を歩く。
「…明日から"攻略認定"だね、道中スルーしても…最奥に着くのは3日目くらいかな?」
「そうだね。
無理して進む必要無いし、それぐらいのペースでいいと思う」
"位相転移"なら夜中までガンガン進み続ければ1日で着くんだけどね。
「…ふむ、たまにはオレが何か料理作ろうかな?
ポラリス何かリクエストある?」
お金もあるし手っ取り早いから、普段はお店の出来合い品をストレージに溜め込んでいて夜営とかの時にはそれを食べてるけど、たまには自分の好きな物を入れて好きな味付けのものが食べたくなる。
「あ、じゃあ前に作ってくれたあの辛いのがいい。
何だっけ?」
「"カレーライス"ね。じゃあ材料買いに行こうか」
「うん」
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