186 / 244
186話 幕間 羽化 2
しおりを挟む「メサリエル様、片付けを終えました」
「ご苦労様です」
メサリエル様は一瞬こちらを見たが、またすぐにリルト様を見つめる。
「リルト様は…あの症状は一体?」
「"創造錬金"です。
リルト様は人間の限界を超えた精神力でその技を使われ、結果魔力が暴走を起こし焼き切れた神経と脳の損傷、頭部内の血管の破裂が起きました。
神力を宿す身体であるリルト様でなければ、今頃"心臓が動いているだけの人形"のようになっていたでしょう」
私は寒気を覚えた。
「そ、"創造錬金術"とはそのような危険な力なのですか?」
「"創造錬金術"の"創造"とは0を1に変える神の御業に匹敵する力です。
もちろん今回のものはリルト様だからこそ出来た事で、通常はそのような事は出来ません」
「リルトは、そこまでの力で一体何を作られたのですか?」
「それはリルト様のおっしゃる"ネタバレ"と言うものです、完成すればご披露されるでしょう」
「そうですか…」
一瞬の静寂の後、メサリエル様が私を見る。
「ロンドル大司教、これから…いえ、今までもその片鱗はあったかも知れませんが、リルト様の言動には理解の出来ない不自然な現象が伴う事が増えると思います」
「言われてみると確かに…何かが見えているかのように未来の事を話して言い当てられたり、何か威圧感のようなものを感じるのか、敵対していた相手が見つめられて黙してしまったりする事は何度かお見かけしたことが」
「それはリルト様が無意識のうちに神力を行使しているからなのです。
今回の事故からの回復でリルト様の精神は一段階人の限界を超えた力を発するようになるでしょう、それはすなわちさらに神力を扱えるようになる、という事でもあります。
その時に周りのものがあまり騒ぎ立てないようにフォローするように気を配って下さい」
「了解しました。
この事はワーディル殿には?」
「話して共有して下さい。
フォローはあなた方の見える範囲で構いませんので」
「リルト様は人の身のまま神に近づいている…という事ですか?」
「そこまで大きな変化ではありません。
羽化しようとするサナギの隙間から蝶の模様が見える、その程度の小さな変化です」
そう言うとメサリエル様はまたリルト様の方を向き、静かに見つめ始めた。
メサリエル様の威圧が無いから勇気が湧いたのだろうか? 私は何度も言いたかった事を口に出してみた。
「…リルト様に、冒険者を辞めて頂く事は出来ないのでしょうか?
私は常々思っておりました。
リルト様のお力があれば冒険者などという危険な事をせずとも、もっと安全に日々を過ごせるのではないかと…」
メサリエル様は憂いを帯びた目でリルト様を見ながら話す。
「ロンドル大司教、貴方は"ガイド"というスキルを知っていますか?」
「ガイド…いえ、初めて聞きました。
どのようなスキルなのですか?」
「そのスキルを持つ者には天使が一人専任で付いて、その者の危険を知らせたり、分からない事を神託のように教えるのです」
「素晴らしいスキルですね」
天の叡知を授けられ、天使様に常に見守って頂ける人生、こんなに安心な事は無いだろう。
「ええ、ですが普通に習得する事は不可能で、転生した勇者や聖女が神より直接授けられる特別なスキルなのです」
「…なるほど。
聖女様の伝承の一つに"精霊術士にも見えない特殊な精霊と会話出来る"と記述があった気がします」
「それはおそらくガイドスキルで天使と会話していたのでしょう」
「なるほど…そういう事だったのですね。
それで、そのスキルが何か?」
「リルト様はそのスキルを取得出来るにも関わらず、取る事を拒否されました」
「そうなのですか…取って損の無い有益なスキルだと思いますが、何故なのでしょう?」
「私も不思議に思いましたが、後日ディメンティーナ様がおっしゃいました、
"分からない事、苦労する事を悩み乗り越える事の中にも楽しみがあるのだ"
と。
リルト様はこの世界を楽しむ為に転生されました。
それは貴族に産まれ安全の中で生きる事でも、平民に産まれ穏やかで波の無い中で生きる事でも無いのです。
冒険者として時に危険に自らを晒し時に迷う、そしてそれを乗り越えてゆく…そんな事を楽しむ"生"をリルト様はお望みなのです」
「……」
「リルト様は昇神されれば、世界の為、人の為に永きに渡り自らを捧げる大変な日々を送られる事になります。
それまでの間、この人生の間だけでも、例え危険であってもリルト様のしたいように、自由に日々を送らせて差し上げたい。
私はそう思うのです」
「…そうですね。
メサリエル様のおっしゃる通りだと思います。
我々はリルト様が自由に生きられるよう影ながらお助けする、それで良いのですね」
「はい。
…まぁ、少し歯痒くは感じますが」
何故か、メサリエル様を少しだけ近くに感じた。
1
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説
前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・
y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える!
てってれてーてってれてーてててててー!
やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪
一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ
この小説の主人公は神崎 悠斗くん
前世では色々可哀想な人生を歩んでね…
まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪
前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる
久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく
色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー
友情、熱血、愛はあるかわかりません!
ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
えっ!?俺が神様になるの? チートで異世界修行物語。
偵察部隊 元リーコン
ファンタジー
主人公の名前は沢村尊流(さわむら たける)45歳。仕事に向かう途中にテロリストに感化された暴漢に遭遇、無差別殺人は防げたが、命を落としてしまう。
死んだ筈なのに先程とは違う場所に尊流は立って居た、知らない場所なのに何故か懐かしい感じがするその場所は、ある神様の神域だった。
そこで現れた神様によって驚愕の事実が告げられた。
沢村尊流は何度も転生して魂の位が上がり、もう少しで神と成れるというものだった。
そして神に成るべく、再度修行の為に転生することになるのであった。
とんでもチートを貰い転生した尊流ははたして神になれるのか、仲間と共に世界を旅するストーリーが始まる。
物語の進行は他の作品に比べかなり遅めかと思いますが、読んだ方が情景を思い浮かべられるように心掛けておりますので、一緒に異世界を旅して主人公の成長を見守り楽しんで頂けたらと思います。
処女作ですので、読みづらい事も有るかと思いますが、頑張って書いて行きますので宜しくお願い致します。
更新は不定期になると思います。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!
とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~
剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる