175 / 244
175話 幕間 追いかける者たち 4
しおりを挟む子供達の対応をリルトさんがポラリスと呼んでいたダークエルフの娘に任せて、私達3人は急遽借りたギルドの会議室に場所を移した。
リーチェの涙も引っ込み、いたたまれない顔だがなんとか落ち着きは取り戻したようだ。
リルトさんはおもむろにアイテムボックスから私も持っている消音の魔道具を取り出し起動させる。
「分かってるかも知れませんが自己紹介を、冒険者兼錬金術師をしております、ハーフエルフのリーフゼルファルートと申します。
リルトと呼んで頂ければ」
「私はアリルメリカ王国、カザマ公爵家のファルーサ=フォン=カザマ子爵です。
ここは公式の場ではないですし、そのように畏まられなくて結構です。」
「分かりました」
「……」
ぽーっとリルトさんを見ている隣のリーチェを肘で突く。
「あっ、あの、私はベアトリーチェ=フォン=グラン=アリルメリカと申します」
(ガチガチやないかい…)
リルトさんはリーチェの名乗りを聞いても驚いた顔一つ見せず、胸に手を当て頭を下げる。
「王族の方だったのですね、卑しい冒険者の身ですので礼儀に行き届かないところもあるかと思いますがご容赦下さい」
リーチェはパタパタと両手を振る。
「そんな!礼儀知らずなのは我が国ですので。
ルーサも言っていましたがここは公式の場ではないですから普通にして下さい」
「そうですか、そう言って頂けて良かったです」
(王族を前にしても落ち着いてるなぁ…逆に隣の王族は全然落ち着いてないけど…)
「それで、その…リルトさん、城の晩餐会にて我が国の大使が大変失礼な事を言って、本当に…本当に申し訳ありませんでした」
リーチェが頭を下げるのに合わせ私も下げる。
頭を上げるとリルトさんはほんのりとした笑顔で私達を見つめていた。
(イケメンの笑顔は目に毒だなぁ…)
リルトさんは怒ってはいないようなので謝罪は受け入れてもらえそうで良かった。
リルトさんは私達を見ながらキッパリと言う。
「私は、"あの時"の発言を許すつもりはありません」
「「えっ!?」」
(ヤバい…これは本気で怒ってるの?)
「何故ならあの"ハーフエルフの血は汚れている"と言う言葉は生きとし生ける全てのハーフエルフを貶める言葉です。
単純に私個人が貶されたのであればそれは許す事ができます、ですが"あれ"は種族全てを貶す言葉です、私が許す許さないを決められるような安い嘲りではありません」
…確かにそうだ。
私達は国にとって重要人物になるであろう相手に無礼を働いた事にばかり目が行き、その発言の意味を安易に捉えていた。
あのブタの言った事は、私の友達のあの娘も、あの行きつけのお店で産まれた可愛い赤ちゃんも、街を歩く知らない人達も、全てを貶める事だった…
「ですが、貴女方は私個人に謝罪しに来たのでしょう。
そういう意味では私は謝罪を受け入れます。
しかし忘れないで下さい、貴女方の国は一つの種族を貶める、そんな言葉を感情に任せて安易に吐くそんな人物を国の代表として送り出した事を。
国の方針の事は私には分かりません。
ですが、愚かな者を泳がせて駒として使うのであれば、それはどうか自国の中だけで行って下さい」
「も、申し訳、本当に申し訳ございません…」
リーチェが頭を下げるのに合わせ私も下げる。
言った事全てがあまりにももっとも過ぎて返す言葉も見当たらない。
「……」
室内に静寂が訪れた瞬間、リルトさんが「失礼」と一言言い突然席を立ち扉の方へ向かう。
一瞬帰られてしまうのかと思ったが、リルトさんが扉を開けるとそこには可愛い動物を抱いたポラリスさんがいた。
「リルト、報酬渡し終わったよ」
「キュキュ!」
「ありがとポラリス、こっちはまだかかるから悪いけど先に帰ってて」
「分かった、じゃあまた後でね」
リルトさんはポラリスさんから動物を受け取り抱くとまた席に着く。
「まだお話はあるでしょう? ちょっと一旦休憩にしましょうか?
あ、この子はラテル、私の使役している精霊獣です」
「キューン」
ラテルちゃんは前足でリルトさんにしがみつきながら顔だけを私達の方へ向け、少し不安そうに見ている。
(か、可愛い…)
1
お気に入りに追加
519
あなたにおすすめの小説
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~
剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。
『スキルの素』を3つ選べって言うけど、早いもの勝ちで余りモノしか残っていませんでした。※チートスキルを生み出してバカにした奴らを見返します
ヒゲ抜き地蔵
ファンタジー
【書籍化に伴う掲載終了について】詳しくは近況ボードをご参照下さい。
ある日、まったく知らない空間で目覚めた300人の集団は、「スキルの素を3つ選べ」と謎の声を聞いた。
制限時間は10分。まさかの早いもの勝ちだった。
「鑑定」、「合成」、「錬成」、「癒やし」
チートの匂いがするスキルの素は、あっという間に取られていった。
そんな中、どうしても『スキルの素』の違和感が気になるタクミは、あるアイデアに従って、時間ギリギリで余りモノの中からスキルの素を選んだ。
その後、異世界に転生したタクミは余りモノの『スキルの素』で、世界の法則を変えていく。
その大胆な発想に人々は驚嘆し、やがて彼は人間とエルフ、ドワーフと魔族の勢力図を変えていく。
この男がどんなスキルを使うのか。
ひとつだけ確かなことは、タクミが選択した『スキルの素』は世界を変えられる能力だったということだ。
※【同時掲載】カクヨム様、小説家になろう様
創造眼〜異世界転移で神の目を授かり無双する。勇者は神眼、魔王は魔眼だと?強くなる為に努力は必須のようだ〜
雅
ファンタジー
【HOTランキング入り!】【ファンタジーランキング入り!】
【次世代ファンタジーカップ参加】応援よろしくお願いします。
異世界転移し創造神様から【創造眼】の力を授かる主人公あさひ!
そして、あさひの精神世界には女神のような謎の美女ユヅキが現れる!
転移した先には絶世の美女ステラ!
ステラとの共同生活が始まり、ステラに惹かれながらも、強くなる為に努力するあさひ!
勇者は神眼、魔王は魔眼を持っているだと?
いずれあさひが無双するお話です。
二章後半からちょっとエッチな展開が増えます。
あさひはこれから少しずつ強くなっていきます!お楽しみください。
ざまぁはかなり後半になります。
小説家になろう様、カクヨム様にも投稿しています。
他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~
雑木林
ファンタジー
地面に頭をぶつけた拍子に、私は前世の記憶を取り戻した。
それは、他力本願をモットーに生きていた、アラサー女の記憶だ。
現状を確認してみると、今世の私が生きているのはファンタジーな世界で、自分の身体は六歳の幼女だと判明。
しかも、社会的地位が不安定な孤児だった。
更に悪いことは重なり、今世の私には『他者への攻撃不可』という、厄介な呪いがかけられている。
人を襲う魔物、凶悪な犯罪者、国家間の戦争──様々な暴力が渦巻く異世界で、か弱い私は生きていけるのか……!?
幸いにも、魔物使いの才能があったから、そこに活路を見出したけど……私って、生まれ変わっても他力本願がモットーみたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる