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173話 幕間 追いかける者たち 2

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…カコッ、カコッ

 小気味良いリズムを刻む馬の足音、小さくギシギシと鳴る車輪の音、馬車の外は快晴、そして隣に座り外を眺める我があるじは…


「~♪」
 鼻歌を歌っている。


(…コヤツは……)


 私はファルーサ=フォン=カザマ。
 アリルメリカ王国、王家の縁戚であるカザマ公爵家の長女で、親しい人にはルーサと呼ばれてる。

 そして隣に座っているヤバいヤツがベアトリーチェ=フォン=グラン=アリルメリカ。
 なんとこの中央大陸でも有数の大国の姫だったりする。


 今私たちはオルガスティア王都から乗り合い馬車に乗り、ラスカリアという街を目指してる。
 まぁ"乗り合い"とは言っても貸し切ったから私たちしか乗ってないけど。


 ウチの大使がやらかした落とし前をどうつけるか悩んでるうちに、謝罪相手であるハーフエルフのリルトという少年がラスカリアへ移動してしまい、すぐ追いかけるべきか、新任の大使を待ってその者と連れ立っていくべきか、と悩んでいるうちに衝撃的な情報がもたらされた。

 どういう経緯なのか少年と懇意こんいにしている"あの"ワーディル老が、なんとハイエルフになったというのだ。


 エルフとも親密にしている我が国だからこそ、のご仁の力は正確に恐れてる。
 元宰相という立場でありながらも、4000年という長きの間に自国内、周辺国の中で紡がれた政治的な繋がりの巨大さは一中堅国の王を上回るだろう。
 そんな人物がハイエルフに進化した。
 恐らくまた政治の表舞台に上がることだろう。

 そんな人間の懇意にする少年を罵倒したのだ、飛空艇の事が無くても国として非常にまずい状況だ。


 隣をもう一度見る。


 ベアトリーチェは本当に悩んでた。
 どうしたらいいのか、どうしたら許してもらえるのか、どのような謝罪をするべきか。
 一生懸命考えてた、私も何度となく相談を受け一緒に悩んできた。

 そんな中もたらされた先ほどの報告。



 …リーチェは壊れてしまった。



 恐らく、元々大きくもないキャパシティをオーバーしたのだろう、突然「どうでもいいや」といった風情になり、後任の大使を待つのを止め着の身着のまま飛び出して来てしまった…


 コヤツには昔からこういうところがある。
 考えさせればさせるほど何故?といった方向にすっ飛んでいくことがあり、幼なじみ兼従者の私はそれに何度とばっちりを受けたことか…


 お忍び用の街娘の格好をしたリーチェはネジが飛んで、悩みなど何も無いような顔をしてる。

「ねぇリーチェ」

「ん~?」
 リーチェは外を見たまま空返事だ。

「飛び出して来ちゃったけど、あんた結局どうするつもりなの?」

「何が~?」

(……)

「…学院長の胸像の首へし折った犯人が実は貴方だって手紙を今から書くわよ」

「ごめん!やめてやめて!」
 こちらを向き突然慌て出すリーチェ。


 私はため息を一つつく。
「私だって分かるわよ、状況がどうしようもなく最悪な事は。
 でも現実逃避したって何も解決しないわよ?」

「逃避なんてしてないわよ。
 ただ色々考えたって何も進まない、これ以上状況が悪化する前にとにかく当たってくだけるしかないと思っただけよ」

「じゃあどうするのよ?」

「…とりあえずは面識を得ないと。
 とにかく自己紹介して、話し合いの場を持たせてもらえないか打診するのよ」

「その場で拒絶されたらどうすんのよ?」

「そしたらもう土下座よ土下座。
 いたたまれなくなってどこか場所を変えよう、ってなればめっけもんでしょ?」

「…あんたそれ印象最悪からスタートするじゃない」

「とにかく話聞いてもらえる状況に持ってくためよ!
 後はもう何でもするわよ、切れる手札はどんどん切るわ!」
 リーチェは拳を握ってる。


 …さすがぶっ飛んでるヤツの言う事は一味違う、でも…

「…めちゃくちゃだけど、結局そうするしかないのかもね。」




「そうよ!"身体を差し出せ"って言うならバーンと出すわよ!バァアァーンと!」

「だから私が陛下に殺されるからやめなさいって」



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