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165話 ラスカリア 5
しおりを挟む日本のコンビニなんかもそうだけど、規格統一された建物って変わらない安心感はあるけど、何て言うか味気ないよなぁ。
どこで入っても変わらない冒険者ギルドの入り口付近でそんな事をボーッと考えている。
「おい、あれ…」
「昨日、ダークエルフの娘を見たってデマじゃなかったのか」
「じゃあアレが例の"神罰騒ぎ"の…」
うーん…半年以上も経ってるのに、まだそのネタ引っ張ってるのか。
…いや、よく考えればそりゃそうか。
TVやネットがあるわけでもないこの世界だ、新鮮な事件や面白いネタの情報なんてそうそう入ってこないんだからしょうがないのか。
まぁいちいち話しかけてくる訳でもないから別にいいけど…
「おい、兄ちゃん!」
…と、思ったら早速話しかけられた、チビッ子に。
茶色い短髪の元気そうな男の子、マーカス商会のジャネットちゃんより小さいし、7~8歳くらいかな?
オレはしゃがんで目線を合わす。
「ん?何か用かな?」
「兄ちゃんは神様に大事にされてるんだろ?母ちゃんが言ってたぞ」
「ん~、どうかな?ボクだけじゃなくて、神様は皆の事を大事に思ってるんじゃないかな?」
「…母ちゃんもそう言ってた。
でも、じゃあ何で父ちゃんは魔物にやられちゃったんだ?」
(おっと、いきなりヘビーだな…)
ダンジョンがあれば稼ぎやすくなる、だから冒険者も集まり、そして残酷だけど集まる者の中には力量の足りていないもの、運の悪い者もやっぱり出てくる…
ここはオルガスティアで一番栄えているが、オルガスティアで一番スラムも大きい。
国も支援しているが稼ぎ手を失う家族、親を失う子供が多いのでフォローも後手後手になってしまう。
目の前の子もあまり質の良くない服装だし、そんな一人なのだろう。
だが彼の目は貧困に濁っておらず、悲しみを乗り越えたまっすぐな目でオレを見ている。
周りの冒険者も少し静かになる。
「そっか、確かに大事に思ってるなら守って欲しかったよね?」
「うん…だからおれ、神様と仲良しな兄ちゃんに聞きたかったんだ、神様は何で父ちゃんを助けてくれなかったのか」
「じゃあ…いつになるか分かんないけど、兄ちゃんが神様に会えたら聞いておくから、それまで待っててくれる?」
「いいぞ!」
「いい子だね。
じゃあ待っててくれるご褒美をあげよう」
オレはストレージから大きな紙袋を2つ出し男の子の前に開く。
「こっちは飴、こっちはオークの干し肉、どっちがいい?」
男の子はアワアワと両方見ている。
「ふふ、じゃあ1こずつね、はいどうぞ」
オレは男の子の手を取って薄い蝋引きの紙に包まれた果汁入りの飴と、短冊状のちょっとソフトタイプの干し肉を乗せる。
どっちもオレの手作り…というか"創造錬金"により作ったものだ。
飴は砂糖と果物と水、干し肉は入れっぱなしだった"魔物引き連れ事件"の時のオークと塩やハーブなど。味見して微調整はしたが、どちらも1~2分で山のように出来上がった。
男の子は飴を握りしめ干し肉に速攻かじりつく。
「!?おいしい!兄ちゃん、この干し肉柔らかいし塩辛くないしおいしいよ!」
男の子は満面の笑顔だ。
「そっか、良かったね」
オレは肉にかじりつく男の子の頭を撫でる、と…男の子の周りに同じくらいの年の子供が男女4人集まってくる。
この子達も同じような服装だし、たぶん似た境遇の家なんだろうな。
「いーなー」
「おいしそう…」
「トニーばっかりずるい!」
(おぉ、ヤバい…あんま騒がせるとオレが怒られそうだ)
「はいはい、皆あんまり大きな声出さないで。
キミ達はトニーの友達?」
「そうだよ」
「一緒に"見習い仕事"してるんだ」
「薬草とかも取りに行くよ」
「そっか、トニーはえらかったからボクがご褒美あげたんだよ?皆はどう?何か良いことした?」
オレは子供達を見回す。
「うーん…」
「何だろう?」
「お母さんのお手伝いで水汲みしたよ?」
「おれも!おれもした!」
「わたしも!」
「じゃあ皆もえらいからご褒美だね、はい、1つづつどうぞ。
これからもちゃんとお手伝いするんだよ?」
わちゃわちゃなりそうなのでオレが一人一人に手渡しする。
「食べるなら外でね」
「うん!お兄ちゃんありがとー!」
「またねお兄ちゃん!」
トニーと仲間達はわらわらとギルドを出て行く。
「…スゴいパワーだった」
ちょっと引いて見ていたポラリスが戻ってきた。
「…みんな逞しいよね」
「けっ!スラムのガキに施しして人気稼ぎかよ」
声の方を見るとトニーと同じような茶色い短髪の、こちらはオレと同じか少し上くらいの年の青年が顔を背けていた。
職業は…前衛系だろうか?しっかりした革鎧を着て腰には剣を佩いている。
周りには仲間とおぼしき男女がいて止めていたようだが、言葉は遮れないしな。
(トニーはあんな境遇でもまっすぐ育ってるのに、こいつは捻れて育ってるなぁ…)
オレは少し離れたところにいる青年へ向けて、
「キミもいい子にしてたらご褒美あげるよ?
他人のする事に一々ケチ付けなきゃ気が済まないお子ちゃまみたいだから、飴ちゃんがいいかな?」
オレはわざとトニー達と同じように話しかける。
「「ぷっ…」」
「クスクス…」
周りから小さく笑いが起こる。
「なっ!何だとテメェ!」
カッとなった青年がこちらへ来ようとするが仲間から両腕を押さえられていて動けずにいる。
(ま、イラッとして煽るオレもお子ちゃまって事だ)
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