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162話 幕間 世界を知る妖精 1

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 キーンと音を立てるような静寂の中、燭台の薄灯りに照らされた礼拝殿を歩く。


 "えーあい"についてリルトに聞くと何とも歯切れが悪く、ユウタのようにはぐらかされるかと思いきや「ちょっと待ってて」と言われ、夕食の後にリルトがロンドル殿と何か話し、結果3人で教会へ来る事となった。

 おそらく重要な内容なので神の前で誓えと言う事なのだろうな。


 前を歩くリルトは普段着。
 横を歩くロンドル殿は式典などで着る完全な正装に身を包んでおり、助言を受けたわしも身を清め、重要な催しで着るエルフの正装であるローブ風の衣装を着ている。


 リルトが神像前の礼拝場に立つ。
「さて、ばれなきゃここで話すだけで終わるんだけど…」

ロンドル殿が潜めた声で話しかける
「ワーディル殿、気を強く保って下さい…」

(…なんだその助言は?)


 リルトが片膝を突き祈りの体勢を取る、ロンドル殿は両膝を突き頭を下げる。
 わしもリルトに習い片膝を突き両手を組み合わせた瞬間、眩い光に尻もちを突き片腕で目を隠す。


 腕で隠した目を開けると隙間から見える明るさが先ほどまでと違う、まるで昼間のようだ。
 そっと腕を降ろし…

 わしは死んだのか?

 いつの間にかいる明るい見たことのない神殿。
 外の幻想的な風景と神聖な空気はこれが夢などではない確かな実感を伝えてくる。

「ワーディル殿、大丈夫ですか?」
 差し出された手を取り立ち上がりながらもわしは外の風景から目が離せない。

「ロンドル殿、ここは…」

 聞こうとした瞬間、リルトの立つ前方から巨大で神聖な圧力が吹き上がり、よろめいた身体をロンドル殿に支えられる。
 これに比べればユウタやハイエルフの魔力圧もそよ風のようなものだ。

「ワーディル殿、神前でございます、気をしっかり保って立って下さい」

 うすうす気づき初めていた意識にロンドル殿の言葉の針が刺さり、飛び上がるように体勢を整えロンドル殿に合わせ片膝を突き胸に手をあて目線を軽く下げる。



 一瞬の輝きが室内を照らし、おさまったそこには何千年と祈りを捧げて来た女神二人の生身の姿があった。
 …明らかに人ではない。
 "人は神の似姿"といわれるが、この存在圧の前に似ているかどうかなど何の意味があろう。

「リ~ルト~🖤」

 デイメンティーナ神が満面の笑顔で走り寄りリルトに抱き着き、マルティアル神がウンウンとうなずいている。

「リルト様、こちらにどうぞ。
 今回は三神でこの空間に力を込めていますから、前回よりは時間が取れますのでごゆっくりどうぞ」


 マルティアル神が手をかざすとそこにソファーが現れ、リルトとディメンティーナ神は座る。


「マルティアルさん、分かってるみたいだから言う必要ないみたいたけど、ジジイ呼んで彼らに説明してあげてくれる?」

 マルティアル神が頷く。
「承知しております、リルト様はティナ様の事だけ考えて頂ければ、後は私が処理しておきますので」

「ありがとう」
「ありがとうマルテ」

 ソファーに座った二人は楽しそうに語らい始め、こちらはマルティアル神に見つめられ足が震えている。
 と、マルティアル神の横に光が集まり、収まったそこには…


「あ、あ…あぁあ」


 わしは言葉が紡げなくなり、崩れるように床にひれ伏し頭を下げる。
 床には流れ続ける涙が落ち、床に突いた手を濡らす。

「おお、わしの可愛い子よ、妖精に涙は似合わんぞ、さあ顔を上げ涙を拭きなさい」

 汚れた顔はお見せ出来ないと、懸命に涙を止め顔を拭き見上げる。


 そこには胸の中央まで伸びた美しい髭を撫でながらこちらを優しい目で見下ろす我らが父、精霊神ゼルメスリュート様の姿があった。

 エルフが頂いたのと同じ長い耳、ハイエルフ達が頂いた銀に近い長く伸ばした金髪、わしが着ているのと同じようなローブ姿。
 わしらの全てはこの方から頂いて、この方が見守って下さっているからこそ今のエルフがある。

 天に召されても罪深いわしはお目通り願えないと思っていた方に、生きたままこうしてお会い出来ている、何と言う幸運だろうか?


 ゼルメスリュート神は背後を振り向き、
「リルト様とティナ様は楽しそうじゃのう。
 良かった良かった」
と、ウンウンと頷く。

「ゼルメス老、私達は二人の時間を作る為にもこちらの二人に説明をいたしましょう」
と、マルティアル神が手をかざすと先ほどのように今度は2人掛けのソファーが向かい合わせで2つ現れ、片方に2柱が座られる。


「さぁ、こちらにお座りなさい」



 そしてわしは真理を授けられる。
 世界を巡る魔力の事、それを保つ役目を持つ精霊の事、その精霊を取り込んだAI(ちゃんとした音程を教えて頂いた)の力…



「だから勇者ユウタは私にAIの事を語らな…いえ、語れなかったのですね?」

「うむ、知られれば悪用される可能性はあるからの、用心の為に人には教えん決まりなんじゃ。
 なのでおヌシ達にはわしらが"加護か縛り"を与えよう」

「"加護か縛り"…ですか?」

「うむ、ワーディルファルディール。
 魔道具の世界、リルト様の作り出すAIの作る新たな魔道具の先、もっと見たいか?」

「もちろんです、国の要職を退いた私の生きる原動力ですから、これからもリルト様についていきます」

 我等が父は少し悲しそうな顔で、
「残念じゃが…今のままではそれは叶わんのじゃ」

「それは?どういう事でしょうか?」

「時間切れじゃ、おヌシの"発症"は近い」


 一瞬息を飲んだが、自分は意外と落ち着いているようだ。
「…"エルフ症候群"ですか」




    
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