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159話 ラスカリア 2
しおりを挟む時折振り返られる事もあるが、沢山の馬車が行き交っているのでオレのゴーレム馬車も気づかれず街の中を進み目的地に着いた。
石作りの5階建てで役所のような大きな建物、ここはギルド、ただし"冒険者"ではなく"商業"の方だ。
「いらっしゃいませ、商業ギルドへようこそ」
…ザワザワ
入り口付近の待合所にいる人々が入って来たオレ達を見て静かにざわめいている。
「…やっぱりやり過ぎなんじゃない?」
「こういう時は舐められないのが肝心だぞ?」
横に並ぶファル爺は貴族服、大司教は高位神官の少し派手な服。
"権威"という威圧でハーフエルフやダークエルフも霞んでいるらしくこちらに視線はあまり来ない。
と、ギルドの制服を着た初老の男性が素早く進み出て来る。
「商業ギルドへようこそ、本日はどういったご用件でしょうか?」
(おー、待ってる人がいても順番無視、さすが貴族)
ちょっと申し訳ないがここは全員平等の日本じゃない、階級の差が当然のように対応の差に現れる。
実際ファル爺は"元侯爵家当主"、現在爵位が無くてもその地位は一般人と同列の扱いを許されない。
ロンドル大司教もそうだ。
"大司教"という地位は序列1位である"教皇"の1つ下のNo.2だ、たしか世界中でも20人とかしかいないんじゃなかったかな?
地理的な問題でオルガスティアに赴任したらしいが、国によっては"宰相"くらいの扱いを受け、国の運営に助言を求められるのも珍しくないとか。
「今日こちらに着いてな、この人数で不自由のない物件と使用人を見繕ってもらおうと思って来たのだがどうだね?」
「左様で御座いますか。
すぐに担当者を向かわせますので、まずは応接室へご案内いたします」
そう、このメンバーになった時点で拠点をどうするか皆で考えた時。
オレとポラリスは気ままな冒険者。
レシアナさんはギルド通い。
大司教は教会通い。
ファル爺は店?
と、めちゃくちゃな生活リズムや行動パターンなので、これはもう一軒大きな家を買うなり借りるなりしてサポートに使用人も雇っちゃえ、となったのだ。
オレもオークションで手に入れたあぶく銭をストレージで眠らせてても意味無いし、ファル爺も大司教もお金持ちだ、ポラリスとレシアナさんは標準的な家賃と食費を払うという事で決まり、着いた即日物件を見繕いに来たのだ。
応接室で出された紅茶を飲んでいると扉がノックされ、背の低い小太りの中年男性と書類かばんを持った若い女性が入室してきた。
二人はソファーに座るファル爺と大司教の方へ近づくと胸に手をあて礼をする。
「案内した者から聞いてもしやと思いましたがやはり、ラートリア森林同盟国 元宰相のワーディルファルディール様、ロンドル大司教様、そちらのお二人はリルト様とポラリス様ですね?」
「ワーディルで良いぞ、会った事があったかな?」
「いえ、王城の催しでお見かけしただけで、ご挨拶差し上げるのは初めてでございます」
「そうか、まぁ立ち話もなんだ、座ってくれ」
「失礼します」
二人が座り男性が口を開く。
「改めまして、ラスカリア商業ギルド長のヘムスと申します」
「ギルド長補佐のスザンナと申します」
「うむ、よろしく頼む。
こちらの事は知っているようだから早速本題に入りたいのだが」
「はい。
こちらの方々5名様が住む物件ですね、どういった条件でお探ししましょうか?」
「ここに住む主目的はこちら二人のダンジョン攻略だからな、ギルドに近いのが良かろう。
ロンドル大司教は神殿へ、こちらのレシアナ嬢は冒険者ギルド通い、わしはそのうち良い物件があれば魔道具店を開くつもりもあるからな、あまり郊外ではない方が良かろう」
メモを取るスザンナさんの横でギルド長が聞く。
「ご予算はお聞きしなくてもよろしいですか?」
(すごいセリフだが貴族相手なら言うものなのかな?)
「それは良いが特に格式には拘らんからな、それなりの設備と部屋数があればそれで構わんぞ」
(設備か…)
いくつかの物件が提示され、場所や敷地面積、建物の築年数など色々と皆が話し合っている中で、オレは別の事を考えていた。
「…設備も含めて魔道具を組み込んで一から作るのも面白そうだな…」
「なっ!?」
ファル爺がこちらを振り向く。
「リルト!何故もっと早くそれを言わんのだ!
ギルド長、変更だ。
立地は先ほどの条件で買い取りの物件だ。
土地のみの状態でも構わん、上物は最初から無い方がいいくらいだ。
なるべく広い方がいじり甲斐があるな、先ほどの…これ、この物件は…賃貸か、買い取る事は出来んのか?」
ファル爺が捲し立てる中、大司教、レシアナさん、ポラリスの視線がオレに突き刺さる…
「ご、こめん…」
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