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156話 幕間 空の王者の失速 2
しおりを挟む派手な模様のカーテン、調度品も金で縁取りされたゴテゴテと品のない物ばかり。
この大使館の主である人間の品格が滲み出ているような無駄に色数の多いカバーの付けられたソファーに座るのはアリルメリカ王女ベアトリーチェ、その向かいにはひっきりなしに汗を拭くノルグ大使。
「……」
「あ、あの…お呼びと伺い参りましたが…」
「……」
室内には小さくカチャカチャとお茶の準備をするメイドの立てる音だけが響き、外からの暖かい日差しが嘘のように冷たい空気が漂っている。
準備が出来たメイドが二人の前にコーヒーを置き、王女が一口飲むとようやく口を開く。
「ノルグ卿、私が何故このオルガスティアに来たのか分かりますか?」
「は、はい。
"飛空艇問題"の解決を模索し、ディメンティーナ神の加護を受けている可能性のあるハーフエルフの少年と接触する為…でしょうか?」
「そうです。
その方は飛空艇の力の根元である"空間属性"を司るディメンティーナ様から、類を見ないほど強い加護を受けている可能性が高いとの報告が上がっています。
今まで何人もの空間属性適正を持つ錬金術師に見せても解決しなかった飛空艇の劣化、故障を解決出来るのでは?と国でも多大な期待を持っている為、王族である私自ら赴いた訳です」
「はい…」
「それで?」
「…はい?」
「それで、何故それが分かっていながら少年を無理矢理大使館に連れて来ようとしたりしたのか理由を言いなさい」
「違うのです殿下!私は無理矢理連れて来ようとしたりは…」
「諜報部隊から報告は上がっています。
"出頭命令"だと冒険者ギルドと神殿に手紙を送りつけようとしてはね除けられていますね?
小飼の者に神殿付近を見張らせていた事も分かっています。
あまつさえ傭兵ギルドに"Eランク冒険者の少年一人拉致する費用"を訪ねていた事も分かっています」
「ぐっ…」
「傭兵ギルドなどという蛮族の集まりが情報を漏らさない訳がないでしょう。
そして何故、晩餐会という公の場でハーフエルフという種族を貶める言葉を使い罵倒したのですか?」
「それはあのガキ…ゴホン、あの少年がこちらの指示に従わなかったのでつい…」
「つい…?」
王女の瞳は冷たく輝き、止まらない汗が冷水に変わったのでは?と思うような寒気を感じるノルグ。
「貴方の外交とは"つい"で、オルガスティア、中央教会、ラートリアから強い抗議を受けるようなもの、だと言う事ですか」
「そ、それは…その…」
「分かっていますよ?
ヒグチ本家からの指示があったのでしょう?少年を連れて来るようにと」
「!!な、何故それを?」
「良かったですね、そんな命令される日々からも解放されますよ」
「そ、それはどういう事ですか?」
「クビです。
本日をもって貴方の大使としての任を解きます。
大使どころか貴方が国の要職…いえ、一職員としても二度と起用される事はありません」
「そ、そんな…」
「大丈夫ですよ、貴方を使っていたヒグチ家も伯爵に降格、王族の縁戚からも除外処分となります。
当然任せていた飛空艇も没収となり、ヒグチ公爵家の栄華も終わりです。
本家の画策に振り回される日々からは解放されますから」
「あ、ああ…」
ノルグは俯き頭を抱える。
「謝罪に行かせるつもりでしたが、先ほど先方から"顔を見たくないので不要"と言われてしまいましたので貴方はもう用済みです。
諜報部隊を付けますので即刻帰国するように。
…国にどこか居場所があるといいですね?」
王女が無言でメイドを見ると、すぐさまメイドが扉を開き、廊下から数人の男性が現れ脱力したノルグを引きずって部屋から出ていく。
一瞬の静寂の後、おもむろにメイドがソファーに近づくと持っていた手拭いでノルグの座っていた付近を丁寧に拭き、ドカッと腰を降ろす。
メイドがアイテムボックスを開き、取り出したブランケットを纏いながら王女を見る。
「あー寒かった。
リーチェ、あんたいい加減その"お漏らし癖"ホントに直しなさいよ」
「魔力が漏れるのを"お漏らし"っていうのやめてくんないルーサ」
「漏らしてるんだからお漏らしでしょ? …あぁ、コーヒーがもうぬるい」
ルーサと呼ばれたメイドはノルグの飲まなかったコーヒーを一口飲み、眉をしかめるとアイテムボックスから色々と出し始める。
王女はその姿を眺めながらため息を一つつき、外を眺める。
「それにしても…ホントどうしよう。
やっぱり始祖様直伝の"土下座"かしら?」
メイドは小さなコンロにポットを置き、コーヒーを慎重にドリップ機にすくい入れながら、
「意味を知らない人にやってもあんまり効果ないんじゃない?
しかも確か公の場でやるとある意味脅迫にもなるって言ってなかった?"これだけしてるんだから許せ"みたいな」
「まぁねぇ…でもじゃあどうするのよ?
情報では普段着はおしゃれで高級なものを着てて、お金にも困ってなさそうって事だし…」
メイドはゆっくりと回しかけるようにポットからドリップ機にお湯を注ぎながら、
「そりゃあ…やっぱり王女様が身体で支払うしかないんじゃない?」
と、ニヤリとしながら王女を見る。
「別にそれで許してもらえるならそれでもいいけど」
「ちょっ、ちょっとタンマ。
私がそんな事言ってあんたが実行したと分かったら私陛下に殺されるわよ!止めてよね!」
「…冗談よ。
でも、本当にどうしたらいいのかしら…」
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