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157話 幕間 小さな自覚

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「ランクを上げたい?」

「うん、だからどうしたらいいか教えて」


 冒険者ギルドのギルド長室、保護者代わりのセリアナにランクを上げる為に必要な事を聞きに来た。

 私の今のランクはF上位、これからはリルトと一緒に依頼を受けて冒険していくんだから、足を引っ張らないためにも私もリルトと同じE下位まで上がっておきたい。


「レシアナ」
 セリアナが横の机で仕事をしていたレシアナに声をかけるとレシアナは端末を操作し始めた。

「はい。
 …なるほどね、ポラリスはギルドのサポートの仕事が多いからけっこう片寄った依頼達成率になってるわね。
 少し街中の仕事もこなしてもらおうかしら」

「街中…分かった」

「じゃあ受注端末にリストを送っておいたからそれをこなしてね」


 街中の仕事は苦手だ。
 ダークエルフを見慣れない人から変な目で見られる事も多いから、確かに今まで敬遠してきてた。
 でもこれからはリルトと一緒に冒険していくんだし、そんな事ばっかり言ってられない。


 1階に降りて受注端末のところへ行くと、少しだけ注目されている視線を感じる。
 ただ前と違ってあまり嫌な視線は感じない、噂のリルトと同じパーティーだから興味を持たれてる、そんなとこだろう。



ーーーーーーーーーー

「はいご苦労様、あら?あなたダークエルフ?」
 出てきた店の人が私を見て少し驚く。

「はい」

「じゃああの噂のハーフエルフの子と同じパーティーの子じゃないの?」 

「はい、そうです」

「あらあら、今日は一緒じゃないの?」
 店員さんはキョロキョロと周りを見る。

「今日は別行動で…」

「そうなの、残念だわ…
 仕事じゃなくても今度二人で食べに来てね」

「分かりました」


 届け物の依頼2件目、またリルトの事を聞かれた。
 一時期リルトの事は王都中で注目の的になったので、復帰してダークエルフとパーティーを組んだ事もけっこう噂になったらしい。

 お店の人も外を歩いていてもちょっと注目されて視線が気になるけど、やっぱり前より嫌な視線はすごく減った。
 ただ次のお店は…



ーーーーーーーーーー

「は、はい、確かに受け取りました」
 汗を拭きながらオドオドとした店主は荷物を受けとる。

「こちらにサインをお願いします」

「分かりました…はい、これで」
 サインを書いた受領書を差し出しながら店主はキョロキョロしている。

「あの…噂のハーフエルフの少年とパーティーを組んでるんだ…ですよね?」

「そうです、"はじめまして"、同じパーティーのダークエルフでポラリスと言います。
 今日は別行動で」

「は? あ、いやそうですか、ご苦労様でした。
 またよろしくお願いします」
 店主の男は深々と頭を下げて足早に店の奥へ消えて行った。


 あの店は前に届け物の依頼を受けて行った時、汚いものを見る嫌な目で見て届け物を受け取ると、野良犬を追い払うように扱われた記憶がある。


 リルトが言っていた。
「ボクと一緒に行動する事になった途端、手の平を返したように接してくるヤツもいると思う。
 そういう人間は"自分"ってものが無くて、周りの影響で好き嫌いをコロコロ変えるんだ。
 だからそんなヤツの事なんて気にするだけ時間の無駄だからね、
"あなたとは初めて会いましたけど何か?"
くらいの態度で知らん顔してた方がいいよ」

 ホントにリルトの言っていた通りだった。
 リルトと同じパーティーだと知ったからだろう、前の自分がした対応を思い出して一人でビクビクして怖がっていた。
 前に来た時の事を考えてちょっと憂鬱だったけど、あまりの変わりように拍子抜けだ。



ーーーーーーーーーー

「いっぱい取れたねー」

「おれ8束!」

「わたしなんて10束も取ったもん!」


 今日は王都外に来ている。
 "見習い"の子供たちが薬草採取するのを付き添いする依頼だ、今は採取も終わり帰路についている。

 まぁ、王都近辺の森は魔物が出る事はほぼ無いのでそこまで必要無いが、人さらいいのようなヤツが出ないとも限らないので付き添いは付く事になってるらしい。
 依頼料は低いけど貢献ポイントが高いのでリルトもルティスタでよく受けたと言ってた。


「ポラリスお姉ちゃん、リルトお兄ちゃんは今日何してるの?」

「今日は王城の晩餐会に出るって準備してた」

「えー!すごーい!晩餐会だって」

「キラキラの衣装来た貴族様がダンスしたりすんだよ!」

「それは舞踏会だよ!晩餐会は美味しいものがたくさん出てくるんだよー」

「いーなー、わたしも行ってみたーい」

「怖い貴族様がいっぱいいるんだぞ?」

「…それはちょっとヤダなぁ」

 
 私も嫌だ。
 美味しい物にはすごく興味あるけど、貴族の話はパパとママから色々聞いて印象だけで嫌悪感がある。


「リルトお兄ちゃんもきっとキラキラの衣装着るんだよ、きっと王子様みたいなんだろーなー」

「ポラリスお姉ちゃんは一緒に行かないの?」

「私は行かない」

「でも貴族様はパーティーには夫婦とか恋人で一緒に行くんだよ、お姉ちゃんも行かないと!」
 女の子が鼻息荒く力説する。

「え?」

「?だってポラリスお姉ちゃんはリルトお兄ちゃんと夫婦になりたいんでしょ?」
 女の子はキョトンとしている。

「は?何それ?」

「だってセリアナギルド長が言ってたよ、
"リルトさんと夫婦になる為に頑張ってるんだ"
って」



 ギルドに戻り見習いの子供たちと別れ、私はギルド長室へ向かっている。
 セリアナは見習いの子供に変な事を言って何を考えているんだろう。

 私は別にリルトと夫婦になる為に頑張ってる訳じゃない。
 パーティーを組んでくれたリルトのためにも、迷惑をかけるだけじゃなくて私もリルトを助けられるように、二人で協力して色んな依頼を達成して、ダンジョンを攻略して、色んな場所へ旅をして、パパとママみたいに…


…ガチャ


「ちょっとポラリス、ノックぐらいしなさい。
 …どうしたのポラリス?」

「え?」

「顔赤いわよ?そんな急いで来たの?」

 頬を触ると熱を持っている。

 …なんだろこれ?




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