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151話 伏魔殿へ 5

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 異世界保険体育の授業中。

 こちらの世界の医学のレベルは把握している。
 なんたって回復魔法のある世界だ、認識は地球と比べれば大雑把と言わざるをえない。

 ただ回復魔法使いはそれなりの少数職業だ。
 教会もぼったくりなどでなく彼らを使い潰さない程度の料金は徴収している。
 そうしなければ誰もが瞬時に治る回復魔法に飛び付いてしまい、収拾がつかないだろう。

 なので簡単なケガ、風邪や腹痛など軽い病気などでは、回復魔法使いに治療を受けるよりも安価な薬師の作る薬が利用される。

 なのである程度の症状、反応からどんな病気で、薬師の薬で治るのか回復魔法使いに頼まなければ治らないのか、くらいの知識はあるが、その辺りまでにとどまっている人間がほとんどだ。


 まぁ、オレも別に医者だった訳でもないから、義務教育+雑学程度の知識だが、こちらの人からすれば…

「はぁ~、そういう仕組みなのか。
 まぁ男も女も聞いちゃいけないモノのように思ってるところがある、っていうのもあるけど、臓器の細かい形や目に見えない物を見たり、"異世界"はすげぇなぁ」

 アレクトス伯爵は最初、国王夫妻をからかったりしていたが最後まで聞くと感心しきりだった。

「でも、こうやって細かく知ってみると、貴族で子供が出来ない時に男性側のせいなのに濡れ衣で離縁される女性がそれなりにいる事が分かるわね」
 リナ王妃は悲しげな顔だ。

「社会全体で知識が底上げされないと、その辺りは改善されないでしょうね…」


 少し場が暗くなったが、ランドルフ王が膝をパンッと叩き空気を変える。

「まぁ、何とかしてやりたいがすぐどうにかなるもんでもないだろ。
 それよりまずは俺達の事だ、今の講義でマリウスの知識が上がったんだ、早速"鑑定"試してみてくれよ?」


「そうですね。
 まぁ何も無いとは思いますが、無い事が分かるのも重要でしょうリルト殿?」
 マリウス宰相が訪ねる。

「そうです、何も無ければ後は確率を上げるだけですから、重要な事です」


 それを聞いたマリウス宰相は頷き、国王夫妻の方へ向き直り今聞いた知識を噛み締めるように一度目を瞑りカッと目を開く。
「【鑑定】!」

「「……」」

 一拍の静寂の後、
「リナに異常はありませんでした」

 リナ王妃はホッと息を一つ吐く。


 マリウス宰相は一つ頷き無言のまま少し身体の向きを変えランドルフ王に向き合う。

「【鑑定】!」

「「……」」

 一度目を閉じ、一呼吸ついたマリウス宰相が口を開く。
「異常が…見つかりました。
 ランドルフの精巣に異常があり、正しく精子が作られていない、と出ました」

(おっと、丁度さっき話してた夫に問題ありのパターンだったか…)

 リナ王妃は目を見開き、口を手で押さえている。


 ランドルフ王は一瞬ショックを受けた顔をしていたが、頭をボリボリと掻くと上を向く。
「あーなんだよ、俺が原因だったのかよ。
 ははっ、この結果をリナを貶してたヤツらに聞かせてやりたいぜ」



「「……」」

 重い沈黙が流れる。



(ん?何この空気?)

「どうしたんですか?皆さん?
 やっと原因も分かって、後は解決していくだけなのに?」


「「え?」」


「こんな身体の一部の特殊な異常でも治るの?」


「さっき説明したでしょ? "不妊"と一言で言っても原因は様々だと。
 勇者の薬を飲んで妊娠出来た夫婦の、元々陥っていた不妊の原因が一つという事はあり得ません。
 ということは、勇者の薬には様々な原因を取り除く力があった、という事になります」

 皆のオレを見る目が真剣だ。

「ただボクの"創造錬金"は勇者ほどのレベルではありませんから、こうやってマリウス宰相に原因を探ってもらったんです。
 後は…」

 オレはストレージを開きテーブルの上に取り出した白い布を広げ、次々と新鮮な薬草、乾燥した根っ子、薬液、丸薬、と様々な薬の材料を取り出していく。

「見つけた原因を限定的に治す薬をつくればいいだけです」


 皆の顔が徐々に笑顔になっていく。


「マリウス宰相、今さら疑われているとは思っていませんが、確認の為にもこの材料を一度鑑定して下さい」

「分かりました!」

 素手で触るとかぶれたりする素材もある為オレが渡した手袋を素早く着けると、一つ一つ確認していくマリウス宰相。


「はい…確認しました。
 どれも"各種ポーションの材料になる"と出ています」


 …実はわざわざストレージから材料を取り出してマリウス宰相に鑑定させたのは見ている皆を騙すため。
 オレの創造錬金はストレージと繋がっている為、実際のところは材料を取り出さなくても必要な材料はストレージ内から自動で消費される。

 ただこれまで色々試作している中で、"キャベツ"が使われたり、"生クリーム"が使われたり、"オークの目玉"が使われたり…と"薬にそんなもの入れるの?"というものが入る事があり、効能を疑われるのも困るのでこうやって"効きそうな素材で作られてます"というアピールの為に見せているのだ。


 オレは先ほど講義に使った図解を見て、脳内でもその機能や働きをイメージし、それが正しく動くように治っていくイメージを固め、魔力を込めた手を材料の上にかざす。

 いくつかの材料が光になりオレの手の光に吸収され、オレの身体の中にある錬金盤を通ってストレージ内からも材料が光になって集まるのを感じる。

…コロン

 光が収まりかざしていた手の下に黒い丸薬が一つ落ちる。

 オレはその丸薬をさっと鑑定し、ハンカチのような小さい布に置き、マリウス宰相に手渡す。
 マリウス宰相が丸薬を見ている間にストレージから水差しとコップを出し、水を注いだコップをランドルフ王の前に置く。


「ランドルフ」
 マリウス宰相が一言名前を呼び、丸薬を差し出しながら一つ頷く。

「…ああ」
 ランドルフ王は躊躇いもせず丸薬をつまみ上げると一飲みにし、コップの水を飲む。

「「……」」

 皆が固唾を飲んで見守っていると、ランドルフ王の身体が淡く光り、光は身体の中へ飲み込まれるように消えてゆく。


「…鑑定のランドルフの"状態"が"健康"に変わりました!」



「「おぉ!」」
「やったわ!」




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