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148話 幕間 伏魔殿の住人 3
しおりを挟む…もう涙が出そうだ。
テーブルの下でランドルフが手を握って落ち着かせようとしてくれているが、私の鼓動はなかなか収まらない。
貴族達の挨拶も先ほど終わり周りには誰もいなくて良かった。
「…大丈夫だリナ、マリウスに笑顔で対応してくれてたし、怒っていなくなったりしないさ」
静まり返った会場内に響いたアリルメリカ大使のリルトさんへのひどい暴言。
"自然派"のエルフにとって家族を汚す禁句にワーディル老がキレる寸前になんとかマリウスが割って入った。
大司教とワーディル老から、当然我が国からも国元へ抗議を送ると言うと逆ギレして帰っていったけど、あんなブタ最初から呼ばなければ良かった…
「そうよね?大丈夫よね?」
自分に言い聞かせるようにランドルフに話しているとマリウスが戻って来た。
「今戻りました。
ノルグ大使は大人しく引き上げたようですが、念のため監視をつけておきました。
それと魔道通信でアリルメリカにも抗議文を送りました」
「リルトさんは何て?」
「別にこの国の不手際とは思っていないので気にしないで下さい、と」
「マジで温厚な性格で良かった…ヒヤヒヤしたぜ」
ランドルフもやっぱり心配だったようだ。
「さすがに私もこれ以上の揉め事は御免です。
場の空気も落ち着いたようですし、少し予定より早いですが始めてしまいましょう」
マリウスがそう言い、近くの従者に指示を出す。
しばらくすると従者達が会場前方のテーブルを片付けセッティングを始める。
新たに整えられたテーブルの上には白いクロスがかけられ、その中を窺い知ることは出来ない。
セッティングが終わりランドルフが前に立ち、貴族達も集まる。
「さて、そろそろ今夜の晩餐会のメインイベントであるパリエルス商会によるオークションを開催したいと思うが、皆の中には"何故?"と思っている者もいるだろうから話しておこうと思う」
貴族達が耳を傾ける。
「皆の中にも商会を運営していて、中には御用商会になっている者もいると思う。
そんな中パリエルス商会だけが国の主催でオークションを開いてもらえるのは依怙贔屓ではないかと思っている者もいるだろう」
若干名の貴族が小さく頷いている。
「しかしそうではない。
今回パリエルス商会が謁見許可を取り付けてまで宝飾品を紹介しに来た、今までに無かった事だ。
そして興味の湧いた私が見せられた品は一級、いや特級品と呼ぶべきものだった。
恐らくここにいる皆全てが初めて見るレベルのデザイン、技法が使われていると思う」
貴族達はざわめいているが訝しげな者が多い。
「それがどれだけのものかと言えば、職人が"謁見するなら"とパリエルス商会に渡した献上品を見た我々がその場で即座にその献上品を国宝認定にし、職人に勲章を授与する、と決めるほどだ」
貴族達は声を上げざわめいている。
「しかし残念ながら当の職人は風来坊気質でな、既にこの国にはいないのだ。
なのでせめてもの褒賞として、我が国の貴族達に国として紹介すると共に販売に一役買おう、という事になった訳だ」
貴族達も今回のオークションの趣旨を知り、やっと納得した雰囲気になった。
もちろん"風来坊云々"はこちらで考えた策だ。
こうしておけば、"旅先から品だけ送って寄越した"といえば新作を販売出来るし、"今どこにいるのか分からない"とすれば呼びつけられたりせずに済むとマリウスが考えた案だ。
ランドルフが私の所へ戻ってきて、代わりにマリウスが前に立つ。
「皆様にも今回の趣旨を分かってもらったところで早速オークションを始めようと思います。
まずは存分に作品を見て頂きます。
作品には番号が振ってありますので、目に止まった物があればお付けした従者に申し出て下さい。
ちなみに番号の振っていないものは先ほどの話に出た献上品と売約済みの物ですので悪しからず」
ちなみに"売約済み"は、アレクと私がキープした"火"、"風"を題材にしたセットだ。
マリウスが説明を終え振り返ると、次々とクロスが外され、照明の元アクセサリーが煌めき始める。
「「おおぉ!」」
「それでは存分にご覧下さい」
マリウスに促され貴族達がアクセサリーに群がっていく。
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