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146話 幕間 伏魔殿の住人 2

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 招待客が全員会場入りし、最後に登場したランドルフの軽い挨拶で晩餐会は始まった。

 今回は立食形式なので、各々好きなものを配置されている城の従者に取り分けさせてスタンドテーブルで立ち話をしながら摘まんだり、ある程度の人数が固まって雑談する用に用意されたテーブル席に食事と飲み物を持って来させて座りながら、と楽しみ方は様々だ。


 楽団の奏でる優雅で緩やかな音楽の中、リナ王妃は挨拶に現れる貴族達に対応しながらも、チラチラとリルト達を目で追っていた。


 今夜の話題の中心は彼らだ。

 なんといってもあの"神罰騒ぎ"の渦中の人物だ、半年経った今でも謎多きこの事件の真相を知りたいものは数多くいる。
 真実を知っているあの日大神殿にいた重鎮達が誰も話さないのでなかなか下火にならない、ということもあるだろう。


 それに神罰が落ちないと分かると、今度は外から我が国を訪れる人の数が増加した。
 物見遊山、敬虔な信者、神の奇跡があった神殿で神職に就きたいという者。

 理由は様々だが国を預かる側からすれば喜ばしい事で、一部王都への交易路を領地に持つ貴族は往来する人が増え税収が上がりこっそりとリルトさんに感謝しているだろう。

 大司教とワーディル老が脇を固めているとはいえ、私も注意して見ておこ…あ、アレクがリルトさんの元へ…が、頑張れアレク!



ーーーーーーーーーー

「ご歓談中失礼します。
 はじめまして、わたくしゼニス領を預かるアレクトス=フォン=ゼニス伯爵と申します。
 このような席でなんですが、是非"例の件"について謝罪させて頂ければと思いお声がけした次第です」


 未だに慣れない回りくどい言い回しでエルフの少年に話しかける。
 両隣の大司教とワーディル老の視線が突き刺さるが無視だ無視。


 しっかし、さっきから見てはいたが改めて近くで見るとこりゃかなりの美少年だな。
 マリウスも若い頃はすごい人気だったが、この少年はそれ以上だろう。
 こりゃマリーベルがとち狂ったのも仕方がないな。
 

「あ、ご丁寧に挨拶頂きありがとうございます。
 はじめまして、わたくし冒険者をしておりますハーフエルフのリーフゼルファルートと申します。
 よければリルトとお呼び下さい」
 エルフ少年は丁寧に返答して頭を下げる。


「リルト様、ゼニス伯爵とは初対面のようですが何かありましたか?"例の件"の謝罪とは?」
 大司教が少年に問いかける。

「あの…あいや、ちょっとここで話すような内容じゃないので、また後で話しますね」

「そうですか。
 ではこの場では何も聞かない事にしましょう」
 と、大司教が一歩下がる。


(…なんかもうロンドル大司教が側仕えみたいになってるんだが、もう怖えよこの少年…)


 と、少年が少し体勢を傾け俺の背後を覗き込む。
「それで…その後ろのお嬢さんは?お連れ様ですよね?」

(…ま、そうなるよな)

 俺は振り返り話しかける。
「はい。
 おいマリーベル、お前も改めてご挨拶しなさい」

「はい、お父様」

「えっ?!」
 少年は目を見開いている。


 マリーベルは静かに俺の横に出てカーテシーをする。
「改めてご挨拶いたします。
 わたくし、ゼニス領主アレクトス=フォン=ゼニスの娘、マリーベル=フォン=ゼニスと申します」

「あ、あのゼニアスのカフェでお話ししたお嬢様です…よね?」


 マリーベルは趣味の悪い元妻の影響を受けた従者達にごてごて化粧させられてたからな、確か少年もマリーベルと同じ15歳だったはずだが、きっとあの時とは別人のように見えてるだろうな。


「はい、あの時は本当に申し訳ございませんでした」

 マリーベルが頭を下げるのに合わせて俺も頭を下げる。
「私の親としての監督不行き届きが原因です。
 申し訳ない」

「いえ…あ、いや謝罪は受け取ります。
 私も揉め事にしたく無かったので有耶無耶にして去りましたから、これでどちらも無かった事に、と言う事でどうでしょうか?」


「あ、ありがとうございますリルト様」
 マリーベルは少年の笑顔に当てられて頬を赤らめながら頭を下げている。

「そう言ってもらえて良かった」



 その後、軽く雑談してその場を後にする。
 終始無言でワーディル老に見つめられて、背中に嫌な汗をかいたがこれで一段落だ。


 マリーベルが頭を下げる。
「お父様…ご迷惑おかけして申し訳ありません」

 俺は近くの従者からジュースを受け取りマリーベルに渡す。
 俺の分はワイン。
「ま、特に何事も無く済んだんだから気にすんな。
 ただ覚えておけよ、あのリルトという少年は"誰かの宝"だ、そう簡単には手に入るものじゃない」

「"誰かの宝"…ですか?」
 マリーベルは首を傾げている。

「まぁ、元斥候職の俺のカンだな。
 ダンジョンにもあるんだ、無造作に置いてあるようで、下手に手を出せば大惨事になるようなお宝がな。
 あの少年からは同じ匂いがするぜ」

「…"神様の宝"…なのでしょうか? リルト様はご加護を頂いているという噂ですから」


 …"神様の宝"

 聞いた瞬間、寒気が走った。
 本当にそうなのかも知れない、だとすれば絶対に手を出しちゃいけないとびきりの危険物だ。
 ウチの馬鹿貴族どもがやらかさない事を、やらかしても個人の被害で済む事を願うしかないな。


 と、思っているとリルト少年のところにまた客が。
 あれは…

 面白いような不安なような、不思議な気分で事のなり行きを見守る。




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