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142話 幕間 信仰の行方 3
しおりを挟む礼拝殿の窓を見上げると外は暗く、まだそれほど時間は経っていないように見える。
天使様が降りて来られた時は大騒ぎになったが、この静かな礼拝殿を見る限り、今回の光は外に漏れていなかったらしい。
「ただいまラテル、瑠璃」
「キュキュギュ!」
「ピッ!」
「置いてってごめんね、なんかあそこに精霊獣連れていくとヤバいんだって」
リルト様は傍らのラテルを抱き上げ、何処からともなく現れた蝶を頭に乗せながら私に向き直る。
「あ~疲れた、やっぱり何か起きましたね。
ちょっと座りましょうか?」
「そうですね」
リルト様に促され、また同じ場所に二人で座る。
唐突にアイテムストレージを開いたリルト様は三人分のカップを取り出し、ポットから湯気の立つ紅茶を注ぐと私に差し出す。
「ありがとうございます」
「キューン」
リルト様とラテルと私で紅茶を楽しみ、いつの間にか蝶から変化した瑠璃という精霊獣は私から隠れながらリルト様の肩の上でイチゴを食べている。
しばしの休憩の後、リルト様は両腕を組み、
「う~ん、説明が必要なのは分かってるんですけど、一体何から話せばいいやら…」
と、困っていらっしゃる。
なので私から呼び水を送ろう。
「あの場所は一体?」
「ああ、ボクの空間魔法とストレージのレベルが上がったので、ティナが作る事が出来た"神界とこの世界の中間に擬似的に作られた神界"みたいですね、本物じゃありません」
「本物もあのような景色なのですか?」
「見た目は完全にそのままですよ」
「…あれが神の住まう地の景色なのですね」
感慨深く景色を思い浮かべる。
「まぁ神々が生活したりしている場所はもう少し色々建物とかがあって違いますけどね」
「リルト様も住んでいられたんですね」
「1ヶ月くらいですかね。
ティナの家に居候してました」
リルト様は笑って言う。
「…ディメンティーナ様とは…」
「恋人…まぁ夫婦みたいなものです。
人には人の営みがあるのでティナには地上で家族を作るように言われてますけど」
「キュキュン」
「もちろんラテルと瑠璃はもう家族だよ」
「ピピッ♪」
「ずいぶん寛容な奥方様ですな」
「ははは、そんな奥ゆかしい性格じゃないですよ。
地上に来てこれまでけっこうやられてますよ?」
リルト様が色々な力を持っていらっしゃるのは、ディメンティーナ様の愛ゆえの暴走が関係しているらしい。
そして私は今までずっと秘めていた問いを意を決して投げかける。
「リルト様…リルト様は一体何者なのですか?」
リルト様は何でもないかのように即座に答える。
「…"神の候補生"というところですかね?
今はただの人間ですから、楽しく生きるのが目標ですけど、死んだ後の事を考えてなるべく世界を見て回っておきたいとは思ってます」
衝撃で身体が震える。
「しょ、…昇神される事が決まっていらっしゃるのですか?」
「神界で色々ありまして、神命を果たした勇者5~6人分くらいの功績があると言われてます」
(…やはり只人として図れる方ではない)
いずれ神となりこの世界を支えてくださる方のお手伝いを出来る。
なんと有意義で誉れ高き人生だろうか!
「あっ!」
私が感動で黙り込んでいると、リルト様が小さく声を上げる。
「そういえば戻り際にティナが何か言いかけてましたよね?」
「たしか"ストレージを"…と仰っていました」
リルト様はストレージを開き、何か中空を見つめている。
「特になにも無いな…」
「そうですね…まぁ無難に考えて"ストレージのレベルを上げて欲しい"というところでしょうか?」
「やっぱりそうなりますよね。
使ってれば上がるには上がるんですけど、効率良く上げるにはどうすればいいやら…」
「たしか過去の聖女でストレージを持っていた方がいたはずです。
何か情報か資料が無いか問い合わせておきます」
「ありがとうございます」
「それで、リルト様は当面の行動はどうされるおつもりで?」
「そうですね~…」
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