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141話 幕間 信仰の行方 2

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 激しい光に目眩めまいを感じて膝を突く。
 身体のバランスを取る為に床に手を突くとその床は白く輝く大理石のような石。

 礼拝殿の床は木製だ…ここはどこだ!?

 …オォーーン、クォーン…

 何か動物の鳴き声か? 目が眩しさから回復するのと同時に感じる日の明るさ…日の明るさ?
 立ち上がりつつ吸い寄せられるように明るい方向へ顔を向け、目に入る風景に思考が停止する。

(私は頭がどうかしたのか?)

 神殿のような石作りの太い柱の間から見える外の風景は。
 一面の空に浮かぶいくつもの大地、その上にいる動物はどれも見た事が無い、そして浮かぶ大地の隙間を縫うように飛ぶ巨大な魚…


「ホントの神界?…じゃないなこれは」

「!?」

 外の景色に吸い寄せられていた意識が急速に引き戻され、声の方向へ顔を向ける。
 そこにはリルト様がしっかりと立ち、私と同じように外の景色を眺めていた。

(神界? 今リルト様は"神界"と?)

「リル…」

 今の言葉の意味を聞こうとした瞬間、リルト様の正面にある空間に光が集まり始め、それはまるでベールのように左右から広がり空間を隠していく。


(…いらっしゃる)


 "同一視するな"と天使様に叱責された意味が分かる。
 今あのベールの向こうからは天使様と同じ神聖な気配が漂っている。
 しかしその気配の強さは比べるのが馬鹿らしくなるほど規模が違う。
 離れたここに立っていてさえ足が震え圧力にまた座り込みそうになっている自分がいる。


「ん? なんかちょっとだけ気配がする、来たのかな?
 じゃあ大司教、行きましようか」

(ち、ちょっと? この圧が?)


 スタスタと進むリルト様に遅れぬよう懸命に足を動かし後を追う。


 ベールの前に立ったリルト様が、
「しかし…ずいぶん大げさな演出だな」
と、笑いながらベールに触れると、まるでカーテンが開くように光が左右へ消えてゆき…


 そこには2柱の神が降臨されていた。


 先ほどまで何も無かった空間の中央には複雑な彫刻の施された大きな椅子が置かれ、そこにはリルト様と同じ藍色の髪を輝かせるディメンティーナ様が、その背後には側仕えの様に控えるマルティアル様の神像では無い生身のお姿があった。


「おお、おおお…」


 震えて上手く動かない身体を何とか床に伏せさせた私は、頭を擦り付けて祈りを捧げる。


「……」


「……」


 周囲は静寂に包まれている。
 あまりの静けさに私が顔を上げると、リルト様がゆっくりと両腕を広げてゆく。


「…リ」


「リルト~~!」


 すると、無表情で鎮座されていたディメンティーナ様がその手に導かれるように立ち上がりリルト様へ両手を広げなから駆け寄って行き、包容をかわ…


「いふぁ!?」


 …すかと思われた瞬間、リルト様がディメンティーナ様の両頬を摘み、左右へ引き延ばし始める。


「ティナ~~! "ごめんね🖤"ってなんだ! お前どんだけオレのキャラクリいじりやがった?!」

「いふぁい、いふぁいよリフホ!」


 マルティアル様は背後でオロオロと手を差し伸べようかどうしようか右往左往しておられる。


「吐け、キリキリ吐け! どれだ?この外見か?【D・S】か?【創造錬金術師】か?」

 頬を離したリルト様はディメンティーナ様の両肩を掴み揺さぶり、
 ディメンティーナ様は少し赤くなった頬を擦りながら俯いている。


「だって、…だって」
 ディメンティーナ様は子供の様に繰り返している。


 リルト様は一つため息をつき、揺さぶるのを止めそっとディメンティーナ様の頬を手で包み優しく撫で始める。

「リルト…ん!」

 ディメンティーナ様が顔を上げるとリルト様は唐突に唇を重ね、ゆっくりと離れる。

「ごめんなティナ、納得したフリなんかさせて。
 オレもだけど、やっぱり寂しいもんな?」

 「リ、リルト~!」

 ディメンティーナ様は泣きながらリルト様に抱きつき、抱き返したリルト様は優しく髪を撫でる。


 マルティアル様は音を立てず手の先だけでパチパチと拍手をして笑顔で見守っている。


ーーーーーーーーーー

 ディメンティーナ様はリルト様に包まれながら一生懸命何かを話していて、リルト様は優しく頷いている。


 お二人?が語らい合っているのを見ながら、一体今の状況は?と考えていると、突然横にマルティアル様が立っているのに気づく。
 私は驚きつつも弾かれるように床に伏せ頭を下げる。

「ロンドル大司教ですね、顔をお上げなさい」

 言葉をかけられ恐る恐る顔を上げる。

「ここに一緒に来たという事は、貴方はそれなりにリルト様に信頼を置かれている、と考えていいですか?」

「は、はい。
 隠しているスキルの事等もいくつかお聞きしていますし、信用を頂いていると愚考いたします」

 マルティアル様は無言で頷く。

「"神託者"がリルト様と懇意になってくれて一安心です。
 さて、貴方にはここで直接神託を授けます、心して聞きなさい」

「ははっ」

「貴方には地上でリルト様の補助を命じます。
 教会の力を使い、陰日向かげひなたとなりリルト様をお支えしなさい」

「はい、私は教会の力でリルト様をお支えし、補助する事をここに誓います」
 私は頭を下げる。

「教会中枢には別で神託を降ろしておきますので、貴方は何の気兼ねもせず行動しなさい。
 ただしどんな理由があろうとも、リルト様を束縛はしないように。
 あくまでも見守る姿勢でいるようにしなさい。
 あ、この事はリルト様には内密に、気にされると思いますので」

「了解致しました」


 マルティアル様は満足げに頷いておられたが、突然何かに気づいたように目を見開き、リルト様達の方へ振り返り慌てた声を上げる。

「ティナ様!時間がもうありません!」

「え?!そんな!」
 ディメンティーナ様は驚き、
「ん?なに?タイムオーバー?」
 リルト様はいつも通りだ。


 ディメンティーナ様はあたふたとしながら、
「えっと…何か言っておかなきゃいけない事は…」
と、何かを思い出そうとしているようだ。 


「あっ! リルト、ストレージを…」





 その瞬間ここへ来た時と同じ強烈な光に視界を奪われ、気がつくと私とリルト様は礼拝殿に佇んでいた。



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