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136話 幕間 想いの行方 2

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「では、そのリルトという少年は我が国に迎えないと?」


 閉店した薄暗い店の中、カウンターの中に座る男と前に立つ男は静かに話し合う。


「迎えないのではない。
 それ以前にまずは来てもらい、我が国を知ってもらわなければならない、そして彼が気に入ってくれればそうなるだけの事だ。
 その時には国を挙げて全力で庇護する」

「…失礼ですが、ワーディル老にしては随分と消極的に感じますが?」


(…まさか"天使様から束縛するなと言われている"とは言えんしな)


 我が盟友の忘れ形見でもある現在の王は、私がそう育てた事も相まって思慮深い男だ、軽はずみな行動を起こす事は無いと思うが、中枢の重鎮達は怪しい。

 リルトは命を狙われれば神が嘆き、天使様が敬称を付けて呼ぶような存在だ、馬鹿な事をして神の怒りを買えば東大陸最大の国だろうとひとたまりもない。

 それ以前に怒りを買う神が一柱とは限らない、もしリルトへの無体で、我らが大いなる父"精霊神 ゼルメスリュート"様の怒りを買うような事になれば、この老骨の命を天に捧げても祖霊に申し訳が立たん。


 だからこそ、神殿内で起きた事は絶対に明かせん。
 目の前の男は諜報部隊を率いる長だ、私が何かしら隠している事には気づいているだろうが神殿にいたのはあの面々だ、誰一人として外に漏らす心配は無いのでこの男が真実に辿り着く確率は0だ。


「相手は神の注目する存在だ、消極的にもなろう。
 まぁ、おぬしが、
"強引な策を取って精霊神様の怒りを買いました"
と報告したいのであれば別に止めはせんが?」

「……」
 男は黙り込んでしまった。


「下手に中枢の者達の興味を引くような報告はせず、別命あるまではあの獣人のような愚か者が現れないかだけ注意して遠くから観察するに止めよ。
 それがおぬしのためでもある」

「分かりました、ワーディル老の御配慮に感謝いたします」



ーーーーーーーーーー

 住居スペースに戻らず一人になった店内でいまだに思考に囚われている。


 大神殿、冒険者ギルド、マーカス商会…深いとも言えないが浅からぬ縁は紡ぎ始めている。
 リルトの存在はこれから世界に注目されていくに違いない、それはこのオルガスティアも注目されていくという事だ。

 国に進言して今のうちにオルガスティアとの友誼を深めておく必要があるな。


 "自然派"は運に恵まれた。
 国を捨てた失意の勇者という稀有な存在と心を通わせた友誼を結び、第二の祖国と我が国に根を降ろしてくれた事でその創造錬金術の恩恵に預かれた。
 その力は3000年以上経った今も"統率派"の力が一歩及ばない域にある。
 ユウタの存在が無ければひょっとしたら今頃"自然派"は"統率派"に飲み込まれていたかもしれない。


 …そう考えればリルトの存在は我が国に是非とも引き込みたいのも頷ける。

 当然強引な事は出来ないが、ハーフエルフであるリルトを"統率派"が受け入れない事が分かっているだけ状況は優しい。
 ユウタの時と同じように、私が率先して友誼を深めてリルトに好印象を残せばそれでいいのだ。


 元々仕事のように言う必要も無い。
 4000年は生きた今も私の心を燃やす"魔道具"という魅力溢れる物に新たな息吹を吹き込むであろうリルトと仲良くするのは私個人として願ってもない事だ。

 それに…思い出せば未だに疼く心の傷も、"あの子"に似たリルトといると癒されていく感覚があるのも否定出来ない。




 とにかく今はただ、またリルトが来た時に一緒に何か試作出来るよう、万全に素材を仕入れておこう。



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