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129話 新たな道標 20
しおりを挟む風精霊を追うアホエルフの後ろについて森を進んでいると、オレの空間察知に引っかかっていた黄色いマークに近づくにつれ、野生の獣特有の何ともいえない匂いと血の匂いが漂ってきた。
「うっ…この匂いは」
レシアナさんも冒険者ギルドにいるので魔物の匂いは知っているがハンカチを口に当てて気分が悪そうだ。
「魔物と、何かの死体がありそうですね」
オレも最初はキツかったが今はさすがに慣れた。
「いたわね、…相変わらず臭いヤツらね」
アホエルフは木の影から少し顔を出して嫌そうに森の先を見ている。
オレとレシアナさんは隠れずに森の奥を覗き込む。
そこには血を流し倒れて動かないゴブリン2匹と、それを取り囲む巨漢の異形が4匹。
(…【鑑定】)
ーーーーーーーーーーーーーーーー
オーク
レベル:27
種族:獣魔
ーーーーーーーーーーーーーーーー
(やっぱりまだけっこう格上だな)
相撲取りのような体型にボロい毛皮の貫頭衣のようなギリギリ服らしきモノを纏い、くすんだ肌色に短めの体毛、そして何より特徴的なのは顔だ。
日本人のよく知っている耳が大きくピンと立っていて、鼻先のシュッと長い豚の顔、ではなく。
大きな耳は垂れ下がり、頬と顎付近の肉は弛み、大きな鼻は顔に押し込まれたように潰れている相当醜い顔だ。
(図鑑か何かで見た、肉をたくさん取るために品種改良された種類の豚っぽい顔だな)
ちなみにこの世界のオークは人間種と交配は出来ない。
なので性的な目的で襲う事は無いが、人間に対してはかなり悪意を持っているようで、もし捕まれば嬲り殺しにされるらしく、その過程で女性であれば"そういった状況"になる事もあり、そしてもちろん食糧にもされる…
「おいで、ビネス」
風精霊はすでにいなくなっていて、アホエルフはまた何かを呼び出した。
今度は地面から濃い緑色の魔力が立ち昇るように現れ、"地面に下半身が埋まった人"のシルエットのような形になる。
「あれは…?」
「たぶん"樹属性"の精霊ですね、けっこうレアなはずですよ」
オレはおもむろにレシアナさんの後ろに回り込み、またお姫様抱っこをする。
「え!なに?」
「ここからはどう展開するか分かりません、戦闘が怖ければ目をつぶっていていいですから、本気で掴まっていて下さい」
「わ、分かったわ!」
レシアナさんはオレの首に腕を回しがっちり掴む。
胸もがっちり当たっているが、感触を楽しめる状況でもない。
「ビネス、あのオークを殺さないようにちょっかいかけて、あっちにある焚き火まで誘導するのよ」
アホエルフが焚き火の方向を指差すと、樹精霊はその方向を少し振り向き、おもむろにオークの方へ地面を滑るように進み出す。
バシッ!
オークが樹精霊に気づいたのと、樹精霊が周囲の草を束ねて鞭を作り出し、1匹のオークを撃ち据えたのはほぼ同時だった。
「フゴッ!?ブキィイ!」
4匹全てが樹精霊に気づいて鳴き声を上げた頃には樹精霊はゆっくりと後退していた。
滑るように木々の間を後退していく樹精霊、それを追いかけるオークはすぐに森から飛び出した。
オレはレシアナさんを抱えたままオークの頭上3m上辺りを"空間蹴り"で移動している。
森から出てすぐの草むらに入った樹精霊が突然消え、追いかけていたオーク達はキョロキョロしていたが、1匹が焚き火の方向を指差した。
アホエルフはそれを確認するとテントの方へ走り出した。
「これで"故意の魔物引き連れ行為"が確定しましたね」
「…ええ、もう覆らないわ」
「じゃあ残務処理です」
(…【次元刃】)
1匹のオークの首から血が吹き出す、突然の事に呆然としている他のオークも順番に首から血を流して倒れていき、1匹も頭上を見ることなく1分もかからず4匹のオークは骸となった。
「す、すごい…オークを一撃」
レシアナさんは目を見開いている。
錬金術酷使の賜物か、ポラリスとの訓練で自分の魔力制御力がけっこう上がっているのに気がついた。
そこでオレは今自分に足りない攻撃手段の一つ"切断力"を求めて"次元弾"を改良し、斬撃を飛ばす事に成功したのがこの【次元刃】だ。
ステータスにも正式に登録されていたので、おそらく各属性魔法にある"カッター系"魔法の空間属性魔法だと思うが、ポラリスは見た事あるカッター系魔法より威力が高いと言っていた。
オレは地面に着地するとレシアナさんを降ろし、オーク達の死体をストレージに仕舞う。
「"浄化"」
魔物を引き寄せても困るのでオークの血を消していたが、一歩遅かったようだ。
「レシアナさん、この辺りは安全なので、先に焚き火の所へ帰ってポラリスと合流して下さい。
あ、あとオレの寝てるフリも片付けておいてくれますか?」
「いいけど…リルトくんは?」
「さっきの戦闘のせいか、血の匂いのせいか分かりませんが、オークが追加でこちらに向かって来てます。
こいつらを倒してから戻ります」
「分かったわ、気をつけてね」
「大丈夫ですよ、さっきと同じように"処理"するだけですから」
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