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126話 新たな道標 17
しおりを挟む「それじゃあポラリス、作戦通りに行こうか。
今日はまだ本命じゃないけど警戒はしておかないとね」
「うん」
「瑠璃、頼んだよ?」
「ピッ」
馬車はうっすらと日が陰り始めた街道をゆっくりと進んでいる。
ラテルを膝に、瑠璃を頭に乗せたポラリスを残してオレは小さな扉を開け御者台から馬車内へ入る。
昼食前後に話し合いをして、アホエルフの行動を推測していた。
次の町マリニアまでは2日の行程、そしてレシアナさんの情報により、今日の夜営地付近からマリニアの近くまで続く場所にある魔物の森には、ある程度入ればゴブリンや、さらに入ればオークがいる事が確認出来た。
街道からはある程度離れていて兵士の巡回が多い事から普段街道沿いに現れる事は稀らしいので、逆にあの女にしてみればダークエルフのせいにするには好都合かも知れない。
今日の夜営地までのこの辺りでは森の浅い所にはゴブリンが多いので、いくらなんでもゴブリンを4~5匹程度連れて来て、
「ダークエルフのせいで!」
とか騒いでもさすがにインパクトに欠ける。
マリニアの近くまで行けばわりと浅い所でもオークを見かけるらしいので、オレ達の推測ではマリニアに着く夕方から夜にかけてオークを引っ張り出して来るのでは?という意見で一致を見せている。
馬車内に入るとレシアナさんが馬車後部の席に座りやる気満々の顔を見せている、今回の作戦ではレシアナさんの役割は大きい。
「レシアナさん、準備はいいですか?」
「ええ、いつでも行けるわよ!」
オレはレシアナさんの隣に座る。
「了解です、まぁ話してた通り今日は動かない可能性は高いですけどね」
「まぁそうね、だいたい馬車が走ってる状態だと魔物を引っ張りに行くのも大変よ」
「あの性格なら大変かどうかよりも、面倒くさい、という意味で動かない可能性が高そうですけどね」
「だけど…本当にやるかしら? 彼らは仮にもAランク上位まで上がった高ランク冒険者よ?
何の恨みなのか知らないけど、過去のわだかまりでこれからの人生を棒に振るような事を…」
「どうでしょうかね…」
口では分からない風を装ったが、オレはやると思っている。
前世の日本でもそんな事件はいくらでもニュースになっていた。
有名な芸能人になっても、努力の末プロスポーツ選手になっても、一流企業に勤めても、人間は人生を棒に振るような事をあっさりするものだ。
「…上手く隠せる自信と、高ランク冒険者である自分達の意見が信用される、と思っているのかも知れないわね」
我関せず、といった体で静かに本を読んでいたダニアさんが突然話に入って来た。
「私は研究の題材が"スキル"だから、けっこうたくさんの冒険者に会って来たわ。
そして彼らと話して思ったのは、スキルの強さ以上に自信過剰になってる人は意外と多いのよ。
それは強くて珍しいスキルを持っているから、とかではなくて、ランクが高ければ高いほどその傾向があるわね」
何となく納得出来る話だ。
「なるほど、周囲に持ち上げられてるうちにいつの間にか"高ランク=強い"みたいに錯覚しちゃう、と」
「ええ、珍しくて強いスキルを持っている人の方が逆に自分の力としっかり向き合っていて、自惚れていない人の割合が多い気がするわ」
「なるほど」
人は"肩書き"には惑わされやすいものだ。
オレがいた会社にも"常務"だの"部長"だのと会社内での役割の名前を与えられているだけでしかないのに、"高い肩書き=偉い"と勘違いしてまるで人間として一段上にいるかのような振る舞いで下の者に"人生とは"とか説教しているヤツがいて哀れだなぁと思ったものだ。
「まぁ、なんにせよ彼らが愚かじゃない事を祈るしかないですね」
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