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124話 新たな道標 15

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 だいたい昼頃だろうという事で後方の馬車に合図を出し、街道沿いの休憩スペースに馬車を停める。


「……」


 少し離れた場所では"隼の瞳"の連中が馬の世話を行いながら、こちらを恨めしげにチラチラと見ている。

 こっちにはそんな必要は無いので、教授一行も誘い早速昼食を摂り始めている。
 当然ストレージの力で出来立て料理と新鮮なサラダや焼きたてパンをテーブルに並べているので全員文句無しだ。

「いやはや、旅先でこんなちゃんとした料理を食べられるとは、素晴らしいスキルですな」
 教授は"ダンジョン学"というフィールドワークな職業だけあって、お歳を召しているにしてはなかなかの健啖家けんたんかだ。
 助手の二人の男性も2~30代くらいの見た目に合った勢いで食べている。

「多めに用意してますから、良ければ毎食こちらに来て下さい」

「そ、それは嬉しいですがさすがにご迷惑では?」
 教授は嬉しさと困惑の混じった顔でこちらを見る。

「大したこと無いですよ、じゃあ気になるなら1食1000ゴルという事にしましょうか?仕入れ値もだいたいそのくらいですから」

「1000ゴル?!ちょっと安いのでは?」

「いやいや、旅先とはいえストレージの力で労力は0ですから、気にしないで下さい」

「ありがとうございます、ではお言葉に甘えてお世話になります」

 毎食出来立ての料理が食べれる事になって、横で推移を見守っていた助手2人も笑顔だ。




ーーーーーーーーーー

(よしよし、これで学者組もこちらに好印象だろう、こういう時は周りの味方は多いに限るからな)

 食後のお茶をしながら嫌らしい事を考えていると、教授が話しかけてきた。
「リルトさん、食後ののんびりしているところ恐縮ですが、"夜の森"についてお聞きしてもいいですかな?」

「ええ、構いませんよ」

「リルトさんは恐らく初めて夜の森の深部まで入って戻って来た人間でしょう。
 正直あそこはダンジョンだとお思いになりますかな?」


(まぁオレは元々あそこがダンジョンだって知ってて転生してきたんだけど…)


「まだ未熟な冒険者なのでダンジョンに入った経験が無いので、ボクの感覚でしかありませんがダンジョンなのでは?と思います」

「それはなぜ?」

「ボクは夜の森を抜けて町に着いてから冒険者になりました。
 そこで初めて魔物の棲む森にも入りましたが、夜の森はそことも違っていました」

「ほう、具体的にはどんなところがですかな?」

「森に入った瞬間に感じた温度や湿度の突然の変化、木々の密度以上に感じる周囲の暗さ、そして何もいない中ただ歩いているだけなのに覚えた"恐怖耐性"というスキル、全てが異常だったように思います」

「なるほど…確かにダンジョンは"空間魔法"の適正があると入る瞬間に違和感を感じると報告にあります、確かリルトさんも適正持ちでしたな?」

「ええ、そうです」

「フィールドダンジョンも通常ダンジョンと同じように、一種の異空間だと言われていますからその証言は重要ですな。
 それに魔物に出会っていなくても覚えた"恐怖耐性スキル"というのも通常ではあり得ませんな。
 高難易度ダンジョンの中にはフロアによって常に状態異常がかかる場所も実在しますし、…やはりダンジョンである可能性は高そうですな」

「私もそうだと思います」


 教授は髭を擦りながら少し下を向いていたが、ふと"隼の瞳"の方を確認した後こちらに顔を戻し、少し抑えた声で話す。
「リルトさん、あなたはかなり高度な隠密スキルをお持ちと伺っております。
 もし要請したら、そのスキルを使って我らと"夜の森"に同行して頂けますか?」

「……」



 ポラリスと訓練を行う中で、パーティーになったという事で今持っているスキルも効果の見直しをした。
 そして発見が3つあった。

 1つは"空間蹴り"、オレに接触している状態であればポラリスもオレの作った足場を踏む事が出来た。
 通常そこまで役には立たないが、上空へ避難する等、緊急時には有用だと思う。


 次は"死線の空隙"、瑠璃に攻撃魔法を弱めに放ってもらい確認したが、残念ながらこれは接触していてもポラリスには効果が出なかった。
 「あれ?」と思い、組み合わせを変えて確認したが、なぜかラテルだけは効果があり、瑠璃とポラリスはダメだった。

 犬ジジイの時もラテルは反応していたから、てっきり誰でも共有出来ると思っていたのでこれには驚いた。
 使役した時のアナウンスも異常だったし、やっぱりラテルは何か普通の使役獣と違うんだろう。


 そして"位相転移"、これはパーティーでもかなり強力だという事が分かった。

 ぼっちの今までは分からなかったが、オレが仲間と認識しているラテル、瑠璃、ポラリスの前では見られていても発動が可能だった。
 そして接触した状態から発動すればその相手も隠密状態になり、その後離れてもオレの視界内にいれば、攻撃行動を起こさない限り解ける事も無かった。



 なので、教授の提案には乗る事は出来る。
 出来るが…



「要請に答える事は出来ます」

「おお!」



「但し、安全は保証出来ません」




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