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114話 新たな道標 5

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「リルトさん」


 思考の渦に飲み込まれていると、セリアナさんから声をかけられハッとする。



「実は今日私が来たのは、リルトさんに謝りたいと言っている子を連れて来たの…」

「謝りたい?」

「ええ、ほら、入って来なさい」


 セリアナさんの促す言葉の後、廊下から現れた小さな影は…


(ダークエルフだと!?)


 身長は150cmくらいの少女?オレより小さいかな?
 褐色の肌に銀髪のセミロング、瞳は金色っぽいな。


 見た目は物語によく登場するダークエルフそのままだが事情が違いすぎる。
 実はこの世界には元々ダークエルフは存在せず、歴史上のある事件の後からこの世界に現れた超特殊種族だ。



ーーーーーーーーーー

 のちに【神代の終わり】と呼ばれる、神と人間が2つの陣営に分かれ争った世界戦争。
 大神側の勝利が見え、その終戦が近い頃の出来事。




 東大陸を統一支配していた国のエンシェントハイエルフの王と王妃が誘拐された。

 エルフ達の総力をあげた捜索で、とある悪神の神殿に捕らえられているのを無事助け出したが、実は無事ではなかった。




 その王と王妃に近しいエルフの中から、突然ダークエルフに変異し悪神に操られるまま味方を襲う者達が現れた。
 その変異はウイルスのようにエルフ中に広がっていき、やがてダークエルフの姿で産まれる赤子さえ現れ始めた。


 
 大神達が調べたところ、気付かれぬよう王と王妃の魂の奥深くに刻み込まれた悪神の魔法を発見したが時既に遅く、エルフ全体に今も広がり続けているこの仕掛けはもう根絶不能で、エルフを絶滅させるくらいしか解決方法が無く、完全に手詰まりとなっていた。


 エルフ同士の泥沼の争いになりかけたが、神々の助力もあり一部のダークエルフは殺され、一部はなんとか捕らえられ無力化されたまま終戦を迎えた。



 悪神がいなくなれば特に操られる事もなく、単なる見た目の違うエルフでしかなかったんだけど、人の心はそう簡単にはいかない。

 神々が大丈夫だと伝えても迫害は起こり、闇討ちされる者、追放される者、捨てられる者が続出した。
 そんな事が繰り返されるうちにダークエルフの因子も弱まり、今では変異する者はいなくなったのだが、極々希にダークエルフが産まれる事がある。


 神々に"その存在は悪ではない"と念を押されていてもやはり捨てられる事も多く、育ったとしても周りの目に耐えられず、結果としてダークエルフは拠り所の無い放浪の種族となってしまった。



ーーーーーーーーーー

 目の前の少女はそんな種族だ、年齢は分からないがこれまで恐らく平坦な人生では無かっただろう。

 顔は可愛いのに似合わない覇気の無い瞳は、そんな日々で疲弊した末に醸し出されているのかもしれない。



「ごめん、間に合わなかった」
 少女がペコリとオレに頭を下げる。



 セリアナさんが前に出た少女の頭に手を置く。

「こら、それじゃ何が何だか分からないわよ。
 この子はポラリス、リルトさんと同じ15歳よ。

 とある町の近くの森で発見されて、私が保護して王都に連れて来たの。
 普段は冒険者半分、ギルドのお手伝い半分って感じでギルドに寝泊まりして活動してるわ」


「森で一人で?」

「ええ、それで冒険者から報告が上がって保護したの。
 この子が言うには家族3人で旅暮らしだったけど、ご両親が魔物に…それで人里に降りてきたらしいの」

「うん、塩無くなった。
 だから冒険者の人と物々交換してた、塩大事」


(なんか…境遇はオレと似てるけど独特な雰囲気だなこの子)


「それで、なんでボクに謝ったの?」

「鎖、間に合わなかったから」

「鎖! あの時の鎖ポラリスが投げたの?」

「そう、準備はしてたけど周りの人が邪魔でちょっと投げ遅れた」





(あの高速で飛んで来た鎖をポラリスが…何かのスキルなのか?)




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