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110話 新たな道標 1

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…チュン、チ、チチチ、チュンチュン…

 目がうっすらと開き、ゆっくり意識が覚醒していく、…頭が重い、なんだかボンヤリした目覚めだ。

 場所は…どこだろう分からない、見たことは無いが整えられたキレイな部屋にいる。
 カーテンを透かして部屋を照らす日の光に誘われ窓を見る。
 ぼんやり見えるのは中庭? 建物や塀に囲まれた小さな敷地に木が数本、池や花壇も見える。
 


「キュー…キュー…」

 ラテルは右脇辺りで静かに寝息を立てている。
 なんで右に…


 急激に意識が覚醒していき記憶が流れ出していく。


 そうだ、犬ジジイだ。
 障壁が保たないと判断して力を振り絞りラテルを右に抱き変えたんだ。
 その直後左胸を手刀で突かれ…そこからは意識が無いな。



 そっと見覚えのない寝間着の襟首を引っ張り身体を確認するが傷痕などは無い。

(…ここで治療を受けたのか?)


 身体をよじり視線を下げた事で、二の腕辺りに見え隠れする自分の髪に気がついた。
 左手で髪をかきあげそっと引っ張ると10~20cmは伸びている。


(これは…相当伸びてる、ヤバい、どれだけ寝てたんだ?)




「キューン!」

 突然顔右半分がモフモフに覆われる。
 ラテルが顔に抱きつきながら頬を舐め始める。

「おはようラテル、オレどれくらい寝てたの?」

「キュン、キュキュ!キューン」

 何か一生懸命訴えているが当然分からない。
 分かるのは再び頬を舐め始めたラテルのつぶらな瞳から小さな涙が零れている事だけ。


 オレはラテルの方に顔を向け、ラテルの頬とオレの頬をゆっくり擦り合わせながら抱いている右手で背中を撫でる。

「よしよし…ごめんな、心配かけたんだね」

「クーン…キューン…」





ーーーーーーーーーー

 ラテルも落ち着いて、オレはベッドに入ったまま起き上がり、胡座あぐらの中で丸くなっているラテルを撫でながらもう一度記憶の整理を始める。


(あの記憶…ティナに会う前にオレは"何者か"に出会っていたんだな。
 何故思い出せたのかは分からないが…ヤバい)



 オレがコチラに来る切っ掛けになった【神託改竄と不正召喚事件】。
 主導した下級神は、邪神の意思の波動を受けて配下に墜ちていたという報告があったはずだ。
 結局は何者も召喚されずに終わったが…


 …召喚と偽り無茶な術式で次元の壁に穴を開けさせる、
 何かしらの策により条件に一致する者を引き寄せ落とす、
 接触して何らかの力を授けて召喚陣へ送り込む…



 オレが出会った"アレ"が恐らく邪神だ。
 ティナが来る事が分かっているような口振りだったし、推測でしかないがオレがいたあの空間は時が止まっていたんじゃないか?
 だから気づかれずに話をする時間があったし、その後オレが忘れていたのもその辺りが原因か?


 ティナは邪神、悪神(違いは…そういえば聞きそびれたな)は【神代の終わり】といわれる戦争で駆逐されたと言っていた記憶があるけど…
 分からない、"意思の波動"を飛ばすという事は存在はしているという事だ。
 何処かに追いやっただけなのか、封印したのか、ヤバいのがいないならそれでいい、くらいに思っていたからなぁ…


(あの時は何も分からず使役獣を埋め込まれてしまったけど、アイツに何か仕掛けでもされていればオレも立派な邪神の使徒だ…)


(…たしか"瑠璃るり"だったか?)




 その瞬間、オレの胸元が淡く光り、そこから黒青い蝶が羽ばたき現れる。



「キュキュ!?」

「いや、呼んでねーって!」




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