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94話 幕間 顛末 2

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「なんですか!この状況は?! ガルフ!説明なさい!」



 そろそろリルトを止めようかな、と思っていたところでお袋が訓練場に現れた。
 
「説明って言われてもなぁ、バカな親父が調子に乗って返り討ちにあったというか…」




 子供の頃はデカくて強い親父に憧れていたが、大人になれば見えてくるものもある。

 親父は恵まれた体格と獣人の能力に頼りきった何のひねりも無い戦い方しか出来ず、それなのに戦術やフォーメーションをバカにしていて、
「そんなモンに頼るのは弱い証拠だ」
などと言っていた。

 冒険者見習いになって、同じ見習い達に「親に贔屓されてる」なんて陰口叩かれる事もあったが、大人の冒険者達はなぜか苦笑いだった。

 大人になって分かったがあれは、贔屓どころか冒険者達に煙たがられている職員が親である俺を憐れんでいる態度だった。

 それに気づいてからは、ギルドで親父と顔を合わせるのが嫌になり、やがてルティスタに護衛で行った時に仲良くなった今のメンバーと一緒に拠点をルティスタに移した。



 気がつくとリルトは少し離れた場所でラテルを抱いて座っていて、ラテルは一生懸命リルトの顔を舐めている。

 親父が入っていた穴はいつの間にか土が緩められ崩れていて、しこたま蹴られた親父はグッタリしているが、意識はあるようだ。



 仕方なく俺は説明する。
 ・親父がリルトを無理矢理訓練場に誘った事。
 ・その際に教官権限を使うと脅迫した事。
 ・親父が"模擬戦は通常のルールだ"と宣言した事。
 ・反撃出来ないタイミングで模擬剣を首筋に当てられたのに、終了をわざと宣言せず無防備な リルトを攻撃した事。

 その後、なぜかラテルと戦う事に執着した親父がリルトに反撃され今に至る…と。


「ち、違うんだセリアナ。
 あのガキが汚い手を使って…俺は、精霊獣にも勝てるんだ…パルディオなんかより俺の方が…」

(パルディオ? 誰だ?)



 子供の頃から変わらない若々しいお袋のこめかみに青筋が…
 お袋が背後を振り返ると、そこには様子を見に来た職員が訓練場を覗き込んでいた。

「衛兵を呼びなさい、職権乱用による暴行犯罪が発生しました」

「おい、お袋さすがに…」



 お袋は何も反応せず俺の前を通りすぎ、親父の前に立つと後ろ襟を持つ。

「セリアナ…」

…バサァー!

 100㎏は超えていそうな親父の身体が、片手で穴から引き抜かれ土とともに宙に浮き、そのまま地面に叩きつけられる。

ドガァッ!
「グハッ!」

 背中から叩きつけらた親父は気絶したようだ。


 お袋も昔は冒険者だったとは聞いていたが…
 今でも俺より強いんじゃねぇか?


「…こんなバカでも、昔は可愛いと思えたんですけどね…」





 その後、俺や受付で見ていた職員などの証言で、親父は本当に衛兵に連れていかれてしまった。
 その間にリルトはギルドの専属治療師から治療を受けた。



 親父の暴走を最初に止めなかった事を少し後悔したが、お袋は。

「昔から多少は言われてましたが、最近 勤務態度や若い冒険者に対する暴言など目に余るところがあり、どうしようかと思っていたところでこの実害です。
 身内だからなどと甘い対応は出来ません」

 と、擁護ようごするつもりは無いようだ。

 リルトは腹部に打撲、転がされた時に擦り傷や口を切ったようだが重症では無い。
 国としての対応はおそらく罰金刑程度だが、ギルドは犯罪者を雇うほど甘くない、たぶん親父は解雇されるだろう。



 しかし、一番重い罰は…




「…"あの男"に冒険者ギルドは向いてなかった、と言う事ですね。
 傭兵ギルドでも獣人国でも、力だけでのしあがれる所へ行って好きに生きる方が向いているでしょう」

 お袋は完全に親父を見放した口調だ…

 この国では、
 "配偶者が犯罪を犯した場合、罪を犯していない側の申し立てがあれば、強制的に離婚が成立する"
 という法律がある。
 "鉱山送り"なんかになったら、帰ってくるのか来ないのかずっと分からないような状態になっちまうからだろう。

 …ハッキリは言わないが、離婚するつもりだな。

 本人は隠していたつもりだが、親父はお袋にベタ惚れだからこれが最大の罰だろうな。



 なんだか力の抜けた俺はリルトを連れて宿へ帰る。




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