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95話 出会いの旅路 19
しおりを挟む…チュン、チ、チチチ、チュンチュン…
見慣れない部屋で目覚める、外はまだ薄暗い。
小鳥は爽やかにさえずっているけど気分はよろしくない。
完全にやってしまった。
"ギルドの教官"という地位に騙されて不意打ちを食らい転がされ、あまりの理不尽な物言いにぶちギレて【無動作魔法コンボ】をガルフの前で使ってしまった…
"無動作魔法コンボ"は、前々からゴブリンやコボルドのような"人型"相手に練習していた"奥の手"の一つだ。
あり得ない背後からの急襲で、相手の"軸"を思いの方向へ傾け、属性弾による関節部分への攻撃でバランスを崩させる。
初めて人間相手に使ったけど、効果は高かった。
オレの腕枕で寝るラテルを見る。
静かにキュウキュウと鳴きながらよく眠っている。
(けど…結局ラテルに助けられたな)
あの可視化された魔力が流れる毛並みのように見えた魔法が獣人の奥の手【獣身強化】だろう。
立ち上がる動作をまったく目で追えてなかったし、あのまま攻撃されればたぶん負けていた。
(反省点は多いな…)
うっすらと犬ジジイがセリアナさんに振り回され地面に叩きつけられたり、衛兵に連れて行かれたのを覚えているけど。
自分の甘さと、弱さと、感情に振り回された情けなさで、ボーッと宿の手続きをしてすぐ部屋に籠って寝てしまった。
(まぁ、いきなり強い"チート勇者"じゃない、って事はこういう事だ、足元を掬われたのが生き死にのかかっていない場面で良かったと喜ぼう)
ーーーーーーーーーー
少し布団の中でダラダラしながら今後のスケジュールを考え、身だしなみを整えて1階へ降りる。
「おはようございます、朝食にされますか?」
「お願いします。
あ、追加支払うので1.5人分でお願いします」
「分かりました、少々お待ち下さい」
宿のおかみさんは恰幅のいい威勢のよさそうなオバチャンだが、物腰は柔らかだ。
適当に座り店内を見渡す。
時間はまだ少し早めなので、"灰狼"のメンバーもいないし、商人風の男性や冒険者っぽいパーティーがいるが人はまばらだ。
カウンターの端の席に、店名にもなっている黒猫が香箱座りで寝ている。
そういえば昨日セリアナさんに聞いたが、精霊獣は特に食事を必要としないらしい。
実体化してるけど元々精霊なので、周囲や使役者の魔力があればそれで十分で、食べるのは娯楽のようなものらしい。
まぁ、何となく一緒に食べる方が楽しいので、これからもオレが食べる時はあげるけど。
「お待たせしました」
出てきたメニューはパン、ベーコンエッグ、サラダ、スープで"ザ朝食"という感じ。
膝の上のラテルに分け与えながら食べる。
(食文化がある程度育ってる異世界で良かったよなぁ)
やっぱり美味しいものを食べて生活したいので、たまにある"マズ飯しか存在しない世界で料理チート"みたいな異世界だったら、オレも同じ事せざるを得ないんだろう。
(店出して大繁盛になって大忙し、みたいな描写よくあるけど、リアルだったら逃げる自信あるな)
朝は開店の何時間も前から準備、開店すれば調理や接客に忙しく、終われば清掃や明日の準備、他にも金勘定や経営の事も考えなきゃいけない…
まぁ、オレならそもそも店は出さない。
出したとしても完全人任せだろうな、一日中仕事に追われる毎日なんて、好きじゃなきゃ出来ない職種だよ。
そんな事を考えながら朝食を食べ進める。
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