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93話 幕間 顛末 1
しおりを挟むあまりにも自分勝手な親父のやり方にカッとなり、間に入ろうとした瞬間、ラテルに目がいく。
(リルトがこれだけ理不尽にやられてるのに何で動かねぇんだ?)
ラテルを見ると微動だにしていない。
だがその身体からは地属性の魔力が陽炎のように揺らめき出し、黒いつぶらな瞳も黄色く輝いている。
(…今にも親父に飛びかかりそうだな)
…ザッ
リルトが立ち上がったが俯いている。
あの肘の入り方ではまだダメージが残っていて上手く動けないはずだ。
「ほれ、そんな状態じゃお前一人でもう戦えねぇだろ、精霊獣を呼べよ。
お前みたいなザコなんか初めから眼中にねぇんだ。
俺には精霊獣が"本命"なんだよ」
(ラテルが"本命"? 親父とは初対面じゃねぇのか?)
親父がリルトに向かってゆっくり歩きだす。
「もう少し痛め付ければ、命令しなくても精霊獣が勝手に攻撃してく…ガハアァ!」
突然親父の身体が不自然に傾ぐ。
親父の背後、右脇腹付近で藍色の属性魔力が弾けている。
「何だ!…グゥ!」
親父が右後方へ振り返った瞬間、今度は左脚の膝裏で魔力が弾け、重心の乗っていなかった脚は跳ね上げられる。
…バキッ!
さすがに重心が崩れ過ぎた親父が右手を地面に付こうとするが、その手首で魔力が弾け、手を付くことも出来ず横倒しになる。
(何だ? 何が起きてる? こんなに目を凝らしてるのに、何で"着弾"しか見えないんだ?)
あの藍色の魔力はリルトの属性弾だ。
だがあの角度は何だ?どうやって撃ってる?
一瞬周囲を見渡し気配を探るが、やはり他には誰もいない。
バキッ!
「グフッ!」
親父の腹部で魔力が弾ける。
うつぶせになり、ダメージの無い左手で体勢を持ち上げようとすると、今度は左手首で魔力が弾け、顔面を地にぶつける親父。
リルトがゆっくりと親父に近づく。
「まずい!まだ近づくな!」
瞬間、親父の魔力が吹き上がり、身体に纏わりつき獣の体毛のように見えた、と思った時にはもう立ち上がっている。
獣人だけが使える【獣身強化】だ。
魔法の苦手な獣人族が虐げられていた歴史を終了させ、逆に恐怖の存在にしてしまったほどの魔法だ。
スピード、パワー、察知能力、反応速度、あらゆる力が倍ではきかない増加をし、魔法も簡単に避ける。
この魔法の前では人間は子供かのように蹴散らされ、エルフの魔法でさえ当たる事無く意味を為さない。
「やってくれたじゃねぇか…だが、"これ"を使わせたらお前はもうおわ…」
「キュイ」
ラテルが一声鳴くと、踏み固められた訓練場の地面に突然ポッカリと穴が開き、親父が何も出来ずに吸い込まれていく。
「グエッ!」
開いた時と同じ突然さで穴が閉じ、親父は首だけが地面に直立しているように見える。
「こんなもの!力づくで!」
親父は魔力を吹き上げてもがいているようだが、地面はピクリともしない。
口から血を流したリルトが親父の前に立つ。
ドガッ
「グゥ!」
親父が横っ面を蹴られうめき声を上げる。
「てめ…」
ドガッ
「グハ!」
「ふざけ…」
ドガッ
「ゴハッ!」
「分かった、模擬戦はしゆ…」
ドガッ
「グゥ!」
ドゴッ、バキッ、ゴスッ…
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