上 下
93 / 244

93話 幕間 顛末 1

しおりを挟む

 あまりにも自分勝手な親父のやり方にカッとなり、間に入ろうとした瞬間、ラテルに目がいく。

(リルトがこれだけ理不尽にやられてるのに何で動かねぇんだ?)

 ラテルを見ると微動だにしていない。
 だがその身体からは地属性の魔力が陽炎のように揺らめき出し、黒いつぶらな瞳も黄色く輝いている。

(…今にも親父に飛びかかりそうだな)


…ザッ


 リルトが立ち上がったが俯いている。
 あの肘の入り方ではまだダメージが残っていて上手く動けないはずだ。


「ほれ、そんな状態じゃお前一人でもう戦えねぇだろ、精霊獣を呼べよ。
 お前みたいなザコなんか初めから眼中にねぇんだ。
 俺には精霊獣が"本命"なんだよ」

(ラテルが"本命"? 親父とは初対面じゃねぇのか?)




 親父がリルトに向かってゆっくり歩きだす。

「もう少し痛め付ければ、命令しなくても精霊獣が勝手に攻撃してく…ガハアァ!」




 突然親父の身体が不自然に傾ぐ。
 親父の背後、右脇腹付近で藍色の属性魔力が弾けている。

「何だ!…グゥ!」

 親父が右後方へ振り返った瞬間、今度は左脚の膝裏で魔力が弾け、重心の乗っていなかった脚は跳ね上げられる。

…バキッ!

 さすがに重心が崩れ過ぎた親父が右手を地面に付こうとするが、その手首で魔力が弾け、手を付くことも出来ず横倒しになる。

(何だ? 何が起きてる? こんなに目を凝らしてるのに、何で"着弾"しか見えないんだ?)

 あの藍色の魔力はリルトの属性弾だ。
 だがあの角度は何だ?どうやって撃ってる?
 一瞬周囲を見渡し気配を探るが、やはり他には誰もいない。

バキッ!
「グフッ!」

 親父の腹部で魔力が弾ける。
 うつぶせになり、ダメージの無い左手で体勢を持ち上げようとすると、今度は左手首で魔力が弾け、顔面を地にぶつける親父。

 リルトがゆっくりと親父に近づく。


「まずい!まだ近づくな!」

 瞬間、親父の魔力が吹き上がり、身体に纏わりつき獣の体毛のように見えた、と思った時にはもう立ち上がっている。



 獣人だけが使える【獣身強化】だ。
 魔法の苦手な獣人族が虐げられていた歴史を終了させ、逆に恐怖の存在にしてしまったほどの魔法だ。

 スピード、パワー、察知能力、反応速度、あらゆる力が倍ではきかない増加をし、魔法も簡単に避ける。
 この魔法の前では人間は子供かのように蹴散らされ、エルフの魔法でさえ当たる事無く意味を為さない。

「やってくれたじゃねぇか…だが、"これ"を使わせたらお前はもうおわ…」

「キュイ」

 ラテルが一声鳴くと、踏み固められた訓練場の地面に突然ポッカリと穴が開き、親父が何も出来ずに吸い込まれていく。

「グエッ!」

 開いた時と同じ突然さで穴が閉じ、親父は首だけが地面に直立しているように見える。

「こんなもの!力づくで!」

 親父は魔力を吹き上げてもがいているようだが、地面はピクリともしない。



 口から血を流したリルトが親父の前に立つ。

ドガッ
「グゥ!」

 親父が横っ面を蹴られうめき声を上げる。

「てめ…」

ドガッ
「グハ!」

「ふざけ…」

ドガッ
「ゴハッ!」

「分かった、模擬戦はしゆ…」

ドガッ
「グゥ!」

ドゴッ、バキッ、ゴスッ…




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。

『スキルの素』を3つ選べって言うけど、早いもの勝ちで余りモノしか残っていませんでした。※チートスキルを生み出してバカにした奴らを見返します

ヒゲ抜き地蔵
ファンタジー
【書籍化に伴う掲載終了について】詳しくは近況ボードをご参照下さい。 ある日、まったく知らない空間で目覚めた300人の集団は、「スキルの素を3つ選べ」と謎の声を聞いた。 制限時間は10分。まさかの早いもの勝ちだった。 「鑑定」、「合成」、「錬成」、「癒やし」 チートの匂いがするスキルの素は、あっという間に取られていった。 そんな中、どうしても『スキルの素』の違和感が気になるタクミは、あるアイデアに従って、時間ギリギリで余りモノの中からスキルの素を選んだ。 その後、異世界に転生したタクミは余りモノの『スキルの素』で、世界の法則を変えていく。 その大胆な発想に人々は驚嘆し、やがて彼は人間とエルフ、ドワーフと魔族の勢力図を変えていく。 この男がどんなスキルを使うのか。 ひとつだけ確かなことは、タクミが選択した『スキルの素』は世界を変えられる能力だったということだ。 ※【同時掲載】カクヨム様、小説家になろう様

創造眼〜異世界転移で神の目を授かり無双する。勇者は神眼、魔王は魔眼だと?強くなる為に努力は必須のようだ〜

ファンタジー
【HOTランキング入り!】【ファンタジーランキング入り!】 【次世代ファンタジーカップ参加】応援よろしくお願いします。 異世界転移し創造神様から【創造眼】の力を授かる主人公あさひ! そして、あさひの精神世界には女神のような謎の美女ユヅキが現れる! 転移した先には絶世の美女ステラ! ステラとの共同生活が始まり、ステラに惹かれながらも、強くなる為に努力するあさひ! 勇者は神眼、魔王は魔眼を持っているだと? いずれあさひが無双するお話です。 二章後半からちょっとエッチな展開が増えます。 あさひはこれから少しずつ強くなっていきます!お楽しみください。 ざまぁはかなり後半になります。 小説家になろう様、カクヨム様にも投稿しています。

Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。 現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...