上 下
92 / 244

92話 出会いの旅路 18

しおりを挟む

 黒髪の犬獣人の男は肩をつかんだまま離さない。

(誰なのかはだいたい分かるが、…なんだこの態度?)


「あなたは?」

「俺はガルフの親父で、このギルドの戦闘訓練教官をしてるガリオスだ。
 ちょっと訓練つけてやるから訓練場まで来い」

「なぜですか? 特に受け忘れてる戦闘講習は無いはずですけど?」

「あ? つべこべ言ってねぇでいいから来いよ。
 王都ギルドの訓練教官として"戦闘から逃げるフヌケ野郎だ"って評価付けてやってもいいんだぜ?」

(……)

 オレは、犬ジジイが絡んできた時、ちょうどギルド入り口に現れたガルフが今の会話を聞いて顔をしかめているのを確認した。

「…分かりました、訓練場に行きましょうか」



 訓練場に向かっていると、後ろからガルフが小さな声で尋ねてくる。

「なかなか来ねぇと思って来てみたら何なんだ、この状況?
 それに親父のあの言い分は…」

「ガルフさん…とりあえずはオレがなんとかするんで、黙って見ててもらえますか?
 あ、"見られてる"のはちょっと困るんですけど」

「分かってる。
 音と気配でだいたい把握出来るからな、戦闘開始する時には目を閉じててやるよ」

「ありがとうございます」



 訓練場には誰もおらず、中央で犬ジジイが腕を組んで仁王立ちしている。


「おうガルフ、久しぶりだな。
 お前も観ていくか?」

「…あぁ、俺の後輩だからな」

「そうか、じゃあお前が治療室へ運んでやれよ」

 犬ジジイはニヤニヤしながら指をポキポキと鳴らしている。


 オレは聞いていないフリで訓練場に備え付けられた木製の短剣と盾を取る。

「ラテル、戦闘前に少し離れてて」

「キュキュギュ!」

 何となく嫌がっている雰囲気だ。

「まだ二人で戦闘訓練もしてないからね、訓練したら一緒に戦おうね」

「…ギュー」

 しぶしぶ了承したような鳴き声だが、犬ジジイの前に立つと、自分から降りて少し離れた場所に距離を取る。


「なんだ? 精霊獣も一緒に戦えよ」

 オレは構える。
「必要があれば呼びますよ」

「そうか、それならすぐ呼ぶ事になるな」

「…この模擬戦の条件は?」

「普通と同じ条件だ」

「合図は?」

「いらねぇよ、初手はやるからそれで開始だ」

「分かりました」

 チラっと確認すると、ガルフは訓練場の端で目をつぶって立っている。




「では行きます」

(…都合良く観客はいない、速攻だな)

「***** ***** 【空間壁】!」

 自分の前、犬ジジイの左右に計3枚の壁を出し、"位相転移"で姿を消す。

パリィン!

 一瞬でオレの前に来た犬ジジイの拳一撃で壁は破壊されたが、オレはすでに"空間蹴り"で右の壁裏へ移動済みだ。

「いない!?」

(やっぱりスピードもパワーも今のオレが届くレベルじゃない…もう一手挟むか)

「…【遅延罠スネア】!」

 空間壁の陰から"スネア"を撃ち込み、すぐに再度姿を消す。
 今度は左の壁には隠れない。

「チョコマカしてんじゃねぇよ!」

パリィン!

 スネアの影響を感じさせない速度で右の壁を蹴り壊し、間髪いれず左壁の前へ移動して拳を振りかぶる犬ジジイ。

(…ここだ!)

パリィン!

 犬ジジイの拳が壁を破壊し伸びきる瞬間に背後から姿を現して、首筋に模擬剣をソッと当てる。

「これで終了です」








ドゴォ!

「ぐぅ!」

 一瞬息が止まる腹部への衝撃、ゴロゴロと地面を転がり土まみれで止まる。

 立ち上がろうと膝立ちになるが、力が入らない。
 痛みで歪む視界では、犬ジジイが伸ばした右腕を引き戻し後ろへ肘を突き立てていた。

(……)

 犬ジジイは振り向きニヤニヤとしている。
「教官が"それまで"って言ってねぇんだから、模擬戦は終了じゃねぇんだぜ、油断したな」


「……あ?」


(自分の強さにうぬぼれて…それが正義かのように振る舞い…理屈も通じない…老害だな)




 …オレの意識が薄れる。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

『スキルの素』を3つ選べって言うけど、早いもの勝ちで余りモノしか残っていませんでした。※チートスキルを生み出してバカにした奴らを見返します

ヒゲ抜き地蔵
ファンタジー
【書籍化に伴う掲載終了について】詳しくは近況ボードをご参照下さい。 ある日、まったく知らない空間で目覚めた300人の集団は、「スキルの素を3つ選べ」と謎の声を聞いた。 制限時間は10分。まさかの早いもの勝ちだった。 「鑑定」、「合成」、「錬成」、「癒やし」 チートの匂いがするスキルの素は、あっという間に取られていった。 そんな中、どうしても『スキルの素』の違和感が気になるタクミは、あるアイデアに従って、時間ギリギリで余りモノの中からスキルの素を選んだ。 その後、異世界に転生したタクミは余りモノの『スキルの素』で、世界の法則を変えていく。 その大胆な発想に人々は驚嘆し、やがて彼は人間とエルフ、ドワーフと魔族の勢力図を変えていく。 この男がどんなスキルを使うのか。 ひとつだけ確かなことは、タクミが選択した『スキルの素』は世界を変えられる能力だったということだ。 ※【同時掲載】カクヨム様、小説家になろう様

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...