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86話 出会いの旅路 12

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…チュン、チ、チチチ、チュンチュン…

 ゆっくり目を開けると、薄暗い中、帆布のようなものに囲まれた圧迫された視界…

(…あぁ、テントか)




「キュー…キュー…」

 ラテルは二の腕を枕に、左脇の下に丸まって寝ている。

(まさかの相手で腕枕復活だな…)

「ラテル?」
 静かに呼び掛けると、ゆっくりと目を開きこちらを見る。



「キューン…」
 甘えるように鳴きながら前足で抱きつき、顔を擦り付けている。

(まだ起きたくない、って言ってるみたいだな)

 オレは自分とラテルに"浄化"をかける。

「そろそろ起きるぞ、ここでまだ寝てるか?」
「キュキュ!」
 首を横に振っている。




 抱きつくラテルを左手で抱えながらテントを出ると、全員からの注目の的だ。

(あ、ガルフがいないな、まだ寝てるのか)


 ジャネットちゃんが駆け寄ってくる。

「おはようお兄ちゃん! その子が"精霊獣"っていう動物なんでしょ? 触らせて触らせて!」


 ラテルがゆっくりと右手を上げようとしたので、力を込めずに掴んで止める。

「ちょっと待ってねジャネットちゃん」

 オレはラテルをこちら向きに両手で抱え直し、目を合わせる。

「ラテル。
 相手が何かしようとしてきたら爪を出してもいいけど、それ以外はダメだよ。
 嫌な事は嫌って言えば守ってあげるから」

「キュウン」
 ちょっとヘコんでるみたいなので撫でておき、オレはジャネットちゃんに向き直る。

「ジャネットちゃん、この精霊獣は"ラテル"って名前なんだ。
 人見知りな子だから抱っことかは嫌がると思うけど、撫でていいか聞いてみる?」

 ジャネットちゃんはちょっと残念そうな顔をしたが、頷いてゆっくりとラテルに近づく。

「こんにちはラテルちゃん、わたしジャネットっていうの、ちょっとだけ撫でさせてくれる?」

「キュキュン」

「いいよ、だって」

 ジャネットちゃんは首筋から背中にかけて、ゆっくりと撫でる。

「ふわあぁ、ラテルちゃん、モコモコでフワフワでサラサラだねぇ!」

「キュンキュ!」

「お兄ちゃんラテルちゃんなんて言ってるの?」

「"スゴいでしょ!"みたいな感じかな? さっき"浄化"の魔法かけたからね」

「そうなんだ!」


ーーーーーーーーーー

 ガルフも起きてきたので順番に朝食を取る。
 オレは"灰狼"と一緒の予定だったが、ジャネットちゃんの要望で非冒険者組に混じっている。

 マーガレットさんは血の涙を流していた。



「キュ、キュ♪」

 ラテルは手拭いをヨダレ掛けのように首に巻いて、オレの膝の上でリンゴを食べている。

 何を食べるのか色々試してみたが、肉、野菜、果物と何でも食べる。
 短い指で器用にスプーンを持った時は驚いたが、やっぱり上手くは使えなかった。

「可愛い~ね、お母さん」
「そうねぇ、ジャニーの小さい頃を思い出すわ」




 ガルフは知らなかったが、精霊獣はこの国の王妃も使役しているらしい。
 鷹のような鳥型の精霊獣で、スゴい速さで遠くの領地に手紙を届けたりするという話だ、便利だな。
 後、童話のような子供向けの書物にも出てくるらしく、ジャネットちゃんが一生懸命説明している。

「…でね、お兄さんのテイムした竜は、村の食べ物を全部食べていなくなっちゃうの。
 で、弟がテイムした鹿は魔法で村の畑を豊かにして、弟が領主になるの!」

「へぇ~」

 なんか異世界の童話って、当たり前に「領主が」とか出てきて違和感あるなぁ。






 さて、後少しで目的地の王都だ。
 オレもラテルも目立つだろうし、きっと何かしらトラブルも起きるだろうな。
 でも引きこもってちゃオレも変われないし、上手くかわして楽しんでやろう。



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