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59話 幕間 うわさの少年 2

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「そうですね、何か売れそうな物が出来たら、持って来ますよ」

「はい、楽しみにお待ちしてます」

 リルトさんが店を出て行くのを見送り、執務室へ戻ると、すかさず紙とペンを用意する。
 忘れないうちにメモをまとめよう。




 私はこのルティスタで一番の大店である"マーカス商会"の会長、ジョン・マーカス。
 31歳という若さで会長などと名乗っているが、父が早くに亡くなったので後を継いだだけのぺーぺーだ。


 店が大店なのもご先祖様のおかげ。

 ゼニス伯爵領で長年店を出してお世話になっていたご先祖様は、恩返しにと、伯爵の作った開拓村に店を移した。
 最初は苦しかったらしいが、それでも歯を食い縛り伯爵に協力して、開拓村を町になるまで盛り立てたというのがこのルティスタの店だ。

 その功績で伯爵から、商人ギルドの"魔道通信"を使う権利を賜った。
 これを使い、一番商流の活発な王都と頻繁に手紙をやり取りし、流行の商品をいち早く扱う事で大店にまでのしあがった。


 つまり私は、肩書きだけは立派なただの新米商人、という事だ。


 だが私だって、父に厳しく鍛えられて、"見る目"だけはしっかり養った自信がある。




 
 最近になって、女性店員の間で噂になる人物が現れた。
 こういうちょっとした噂にも、貴重な情報が隠されていたりするので、私も話に加わらせてもらうようにしている。

 まぁ、今回は「キレイ可愛いハーフエルフの少年が現れた」という女性特有の話だったので、すぐ退散したが。


 その話を聞いて一週間ほど経った頃だろうか?
 噂の少年が店に現れた。

 なるほど確かに綺麗な少年だ。
 見たことない色合いの髪と瞳に、整った顔、白く美しい肌、平民の服を着ていなければ、貴族様のご子息かと思っただろう。
 これは女性の間で噂になるのも無理はない。

 偶然店に出ていて、店員も近くにいなかったので、私が対応したのだが。


 どうやらこの少年は、綺麗なだけのそこらにいる貴族子息とは違うようだ。


 商品を紹介すれば、良いところ、悪いところを的確に言い当て、ただ批判するだけでなく、店の事情も考慮した上で、目から鱗が落ちるような改良案まで出されてしまった。
 興が乗った私が店の事まで聞くと、聞いた事の無いような商売の方策まで出てきてしまい、慌てて執務室に来てもらったほどだ。

 特に、この時リルトさんに提案してもらった、
名印サイン】を使った"お買い物カード"
という案は、衝撃だった。

 ギルドにも設置されている"事前に登録されている魔力に反応する"という魔道具を使い。
 会計対応をする店員の魔力を登録しておき、一定金額以上買い物したお客様のカードに【名印サイン】をしていき、1枚貯まったら、一定額以下の商品が1点無料になる。
 というサービスだ。

 最初に聞いた時は"それのどこが儲けにつながるのだろうか?"と思ったが、考えれば考えるほど有効な事に気付いた。
 今では貯まっていく【名印サイン】を見て、楽しそうに帰って行くお客様達を笑顔で見送っている。


 そんなこんなで、私はすっかりリルトさんのファンのようになっていて、訪れたら執務室に報告にくるように店員に通達している。


 そんなリルトさんが、商人ギルドに【錬金術師】【薬師】の登録をしたらしい。
 冒険者の才能だけでなく、職人の才能まであるとはさすがだ。



 どんな商品を見せてくれるのか、今から楽しみでならない。



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