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57話 片鱗 9
しおりを挟むこちらを伺う"隠密ゴブリン"、背後からは"職業持ち"とザコ3体。
(…落ち着け、冷静に…)
隠密ゴブリンを視界に入れながら【空間蹴り】で近くの木に駆け上がり、太めの枝に乗る。
「はぁっ、はぁ…」
疲れていないのに呼吸が荒い。
(…【鑑定】)
ーーーーーーーーーー
ゴブリンアサシン
レベル:19
種族:妖魔
ーーーーーーーーーー
…アサシン、やっぱりヤバいタイプだ。
ソードマンに気を取られて【空間察知】が切れたタイミングで近付かれてた、…でも。
グギャ、ギャオ!
声の方を振り返る。
ソードマン達が、オレの乗った木の側まで到着している。
(この辺りの木は比較的高いものが多い、ゴブリンでは登っては来れない)
アサシンは放置でいい、やっぱりまずはソードマ…
ソードマンに指示され、ザコゴブリンが石を拾っている。
(それはマズい!)
「空間弾!」
グゲェ!
下を向いて無防備な1体の頭を撃ち抜く。
何も飛んできていないのに、仲間がやられた事にソードマンは驚いたようで、盾を顔の前に引き寄せて、防御の姿勢を取り始めた。
同じタイミングでザコの投石が飛んでくる。
オレは素早く幹に隠れ、射線を切る。
("空間察知"からの空間弾!)
グギャ!
ザコの赤マークがさらに一つ消える。
最後のザコが、石を持ったまま回り込んでくる。
「空間弾!」
ゴギェ!
最後のザコの顔面に空間弾が刺さる。
(よし、これで…)
ドシュッ!
「がぁあ!」
枝から足を踏み外して落下する、肩の根元には1本の矢が刺さっている。
(空間蹴り!)
地面に激突する直前に、横に飛び、地面に背中を擦られながら着地する。
さっきまで乗っていた木の向こうを見ると、ゴブリンの集団が。
その中には弓矢を持ったゴブリンが、そして集団の横には、ゴブリンアサシンが…
こちらを見て気味悪く笑っている。
(アイツ!呼んできやがった!)
一瞬頭に血が上りかけるが、ソードマンが向かってくるのが見えた。
(空間蹴り!)
肩の痛みに集中力を奪われながらも、木に登り、弓矢の射線を切るように、さらに次の木へ、さらに次へ…
…遠くから、微かにゴブリンの声が聞こえる。
今は、葉が多い木の、かなり上の方の枝に身を隠している。
「ぐぅ!」
肩から矢を引き抜くと、アイテムボックスからポーションを出し、半分をかけ、半分を飲む。
「はぁ、はぁ…」
("返し"の無い原始的な矢じりで良かった…)
「…【浄化】」
真っ赤に染まっていた右手全体がキレイになる。
だが、手は痺れていて、上手く動かない。
(血だらけの見た目は、精神的にキツかった…
本調子じゃないけど、これで少しは冷静になれる)
手の届く範囲で、自分より上にある枝を折り、自分の足元の下にある枝に重ねる。
(これで下から見えにくくならないか?)
グギャ、ギャギャ!
ゴブリンの声が近づいて来た。
(…どうする?【空間察知】からの魔法で倒せるか?
途中で気付かれたら、矢を"空間壁"で上手く防げるのか?…)
ステータスを見る、MPが半分切っている…
(…ダメだ、普通に戦闘する分には十分だけど、さっきのように乱戦になったり、その後の森からの脱出を考えたら足りない…)
ゴブリンの声が、どんどん近づいて来ている気がする…
(バレたのか?偶然なのか?)
恐怖に身体が硬直する、震える呼吸で無理やり深呼吸をする。
(静かに…ゆっくり呼吸を…魔力も放出しない…身体の中に隠して…)
(……)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
職業スキル【位相転移】を習得しました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(……!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【位相転移】
(【D・S】職業スキル)
パッシブスキル
使用者の存在を世界からずらし、
あらゆる感知から遮断する。
視認されている状態からは発動不能。
攻撃行動を起こすと強制解除となる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(…隠れる、という一点においては強いけど、デメリットも多い、ピーキーな性能だ…)
(…【位相転移】)
どこからか聞こえるピシッ、という音と共に身体が透けていく、半透明な自分を触るが、感触に違いがない。
下を見ると、ゴブリン達が通り過ぎていく。
"空間蹴り"で木を降りるが、音は一切無い。
(完全に負けた、ゴブリンと侮った、まったく冷静に戦えなかった、次こそは…)
キョロキョロとオレを探しながら、離れていくゴブリンを見送り、森の出口へと歩き始める。
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