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56話 片鱗 8

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 ザワザワ、サワサワと木々や下草が断続的に揺れている。
 隙間を通り森に入り込んで来た風は、ヒュウと高い音を立てる。


 …完全にミスったかもしれない。



 Aランク斥候のデリックさんから、【隠密】についてヒントを聞き、すぐさま次の日の今日、西の森に来ている。
 中層を進み、深層に近付きつつ入らないようにする、と計画を立ててたけど…

 訓練の為、と【空間察知】も【空間蹴り】も使わず、自分の力で足音を抑えながら進んでいたが、気が付くと風が強くなっていて、音に翻弄ほんろうされているうちに深層に入ってしまったかもしれない。





 今、慌てて発動した【空間察知】には、20m以内の四方に"黄色いマーク"がうごめいている。





 そもそも"中層"だ"深層"だ、と言っても、別にラインが引いてある訳じゃない。
 出現した敵の傾向で区分けされているだけで、どこが安全ラインかなんて分からない。

 最近【空間察知】に頼りきっていた事もあり、久しぶりの視覚、聴覚での察知は、かなりの精神的疲労があったんだろう。
 風の音なのか、敵の足音なのかとビクビクとしてうろついてしまったが、それが間違いだったようだ。


 前方20m付近には、黄色いマークが2つに、赤いマークが3つ。
 おそらく、"職業持ち"2体とノーマルゴブリン3体だろう。

 左15m付近には、黄色1と赤色3。
 右25m付近には、黄色3と赤色4

 そして、いつの間にかいる、背後15m付近の黄色いマークが1体。

 すぐに背後を向いて、浅いところまで撤退したいのに、どうにも背後からイヤな予感が漂ってくる。

 今のところ、どこの群れにも動きはないが、群れ同士が近づいたところで戦闘にでもなろうものなら、乱入されて押し潰される未来しか見えない。

 どうする?早く判断しないと…!



 迷っているうちに、右の群れがこちらへ動き出した!


 そいつらが一番マズい、ただでさえ数が多い上に、職業持ちも3体混じっている。


 …左だ!


 予感は【直感】スキルに違いない、これだけ囲まれているのに、背後だけにイヤな予感を感じる、という事は、あの1体は相当難敵のハズだ。
 それなら左へ行き、職業持ちを速攻で倒し、ザコのゴブリンを倒しながら包囲を抜けた方がいい。

 焦る気持ちを抑えながら、慎重に左の群れに近づいていく。



 見えた!
 木々の隙間からゴブリンが4体、先頭の1体は、革の表面に金属で補強されている盾と、錆びたダガーを持っている。

(【鑑定】…)

ーーーーーーーーーーー
ゴブリンソードマン
レベル:21
種族:妖魔

ーーーーーーーーーーー

 …高レベルだ。
 でも良かった、このタイミングなら、絶対魔法が決まる。
 出し惜しみせず"次元弾"で一撃で……






 ザッ!

 突然背後から気配が現れる。
 振り返ったそこには、短剣を振りかざすゴブリンが目の前に!

「うわぁああ!」

 思わず声を上げ、目の前に"空間壁"を出す。

 森に入る前に、標準タイプとして、丸盾バックラー型を考えておいて良かった。

 ギャリィ!とイヤな音とともに何とか攻撃を防いだ、が、

 ギャアギャアと背後からゴブリンの声が迫ってくる。
 振り返ると、ソードマンの群れがこちらに向かってくる、今の戦闘音で気付かれた!

 さらに振り返ると、先ほどの短剣を持ったゴブリンがいない…

「【空間察知】!」

 短剣ゴブリンは、こちらを向いたまま、5mほど先の木と草むらの影をゆっくりと移動している。




(隠密タイプ…"背後のあの1体"か…)




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