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54話 片鱗 6

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「こんにちは!」

 冒険者ギルドの受付嬢が、明るく挨拶をしてくる。
 オレは目線だけで挨拶して、ゆっくりと室内に入ると、カウンター内を見回す。

(よし、レシアナさんはいないな)


 カウンターに立つ受付嬢に会釈をして、奥の食堂へ入って行く。
 今の時間は4時過ぎ、もうそろそろ日帰りの冒険者達が、報告に戻ってくる忙しくなる時間帯だ。

 食堂はまだそこそこの客数なのを、さっと見回した後カウンターへ行き、わざわざマスターらしきオヤジの目の前に座る。


「レシアナお気に入りの少年エルフじゃないか」
「リルトと言います、ハーフエルフで15歳です」
「おうそうか、俺はダン、ここのマスターだ、それで、注文は?」
「じゃあ…リンゴジュースで」


 マスターは振り向くと、背後のテーブルでサッとジュースを用意してオレの前に置くと、ニヤニヤしながら話しかけてくる。


「で、こんな酒場のオヤジに何の用だ?
 お前に構うと、レシアナに怒られそうなんだが」

「大丈夫ですよ、レシアナさんに怒られるのは、たぶんボクなので」
「ホントかよ…」


「それで、ダンさんは、ここの冒険者の事詳しいですか?」
「あぁ?そりゃ…相手によるな、冒険者でもここを利用しないヤツはそれなりにいる。
 贔屓にしてる他の酒場があったり、所帯持ってたりな。
 そういうヤツは話でしか知らん、ここを利用するヤツにはそこそこ詳しいぞ」


「そうですか…ダンさんが知ってる"斥候"系の職業の人で、腕がいいのって誰ですか?」
「それは、"強い"って事か?」
「いいえ、知識や経験が豊富な方、って意味です」

「ん~…そうだなぁ…」
マスターは腕を組み、難しい顔をして店内をキョロキョロと見回す。
 と、入り口の方を見た後、チョイチョイと手招きする。

 オレも入り口を見ると、装備も着けていない軽装の30代くらいの男性が、こちらへ歩いて来て、1つ開けた隣へ座る。

「コイツだな」
マスターが親指でその男性を指す。

「なんだよマスター。
 今、めんどくさい仕事を頼まれてきたとこで、気分落ちてんだよ、とりあえず酒」

 マスターは背後からジョッキに入ったビールらしきものを用意し、男性の前に置く。

「こっちの少年が、お前に用があるってさ」
「ん?知らない顔だな、…ハーフエルフ?」
 オレの顔を見た男性は、怪訝けげんそうな面持ちだ。

「はい、最近この町に来ました。
リルトと言います、ハーフエルフで15歳です」
「おう、俺はデリック、斥候でA下級だ」

 おお、Aランク斥候!

 オレはギルドカードを彼に見えるように出す。
「実はボク、こういう職業なんですが…ちょっと相談にのってもらえませんか?」

 マスターが横から覗き見る。
「おお!"魔斥候"!ずいぶん珍しい職業だな」

 マスターも知ってるのか、どうやら珍しすぎる、って事は無いみたいだな。

「…同じ職業系統の俺に、職業の事で何か聞きたい、って事か?」
「はい、どうでしょうか?」
「……」

 彼は少し考えた後、マスターの方を向く。

「あいよ」
 何も会話していないのに、厨房の方へ下がっていくマスター。





 デリックがこちらを向く、
「いいぞ、その代わりお前も俺の質問に答えてくれ」



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