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32話 しがらみと戦いの中へ 2
しおりを挟む一息つく、といった空気になったので、紅茶を一口飲み、オレから疑問を投げ掛ける。
「素人考えなんですが、森の端から順々に伐採しちゃダメなんですか?」
「魔物のいる森で、そのやり方は推奨されていないのよ」
レシアナさんが答えてくれるようだ。
「どうしてなんですか?」
「魔物の住んでるエリアに対して、道を通しても何も起きないの、但し道にも魔物が出現するけどね。
それに対して、魔物の住んでるエリアを"削る"行為、森を端から伐採していき、生えない環境にする、といった事を一定面積行うと、魔物が一斉にエリアから出て来て、周りの環境を自分たちのテリトリーにしようとしてくるの、これを【侵食】と言うのよ」
「…その"周りの環境"に町があったら?」
「…襲われて消えるわ」
「なるほど、よくわかりました」
「まぁ、そんな訳で、ゼニス伯爵は鉱山を諦めた。
迂回する提案もあったらしいが、そんな危険な森の近くを開発するなんてリスクが高すぎる、と判断したんだろうな」
「そうでしょうね」
「そして、伯爵からもギルドからも、森への進入禁止が言い渡されて百年。
名を上げようとする、馬鹿な冒険者が帰って来ない、という事件は何度かあったが、これまで一度たりとも、あの森から魔物が出てきた事は無い」
「そんな所に私が現れた、と言う事ですね」
「そういったところだ、という事で、君の話を聞いていいかね?」
そこでオレは、元々決めてあった例のカバーストーリーを話した。
ベスティア山の麓に家がある事には、やっぱりずいぶん驚かれた。
オレが、天涯孤独の身の上である事には、レシアナさんが少し泣いていた。
そして【夜の森】の話へと移る。
「ちょっと【アイテムボックス】開いていいですか?」
「あ?あぁ、大丈夫だ」
オレは、宿屋で用意していた物を出し、ギルド長に向けてテーブルに置く。
「こ、これは?」
そこには拙いながらオレが描いた【鹿を咥えたナイトワンダラー】の絵。
色、大きさ、特徴など注釈も入れてある。
「【夜の森】にはコレがいます」
「…全身漆黒、全長は推定10m…これが無音で?」
「はい。
右にいたと思えば左に、左にいたと思えば、鹿を狩っていつの間にか背後に、その間完全に無音でした。
狩られた鹿の鳴き声すらありませんでした」
ギルド長は絵の向きを変え、レシアナさんの方へ向ける。
「レシアナ君、どうだ?」
「…何処の国だったか覚えてませんが、荒野に住む雑食性の動物で似たようなのがいた記憶が。
まぁ、その動物はキツネくらいの大きさですが。」
「魔物では?」
「類似する形は記憶に無いですね。
この大きさはヘルハウンド、ケルベロス、ハティ、クラスで、どれもダンジョンモンスターです。
…この大きさの身体を、鹿程度のエサで維持出来ている?…ダンジョン外で?」
何か考え込んでいたレシアナさんは、オレとギルド長が、紅茶を2口ほど飲んだ頃、おもむろに口を開く。
「ギルド長。
本部に連絡して、【ダンジョン学調査部隊】を要請する必要があります」
「なんだと!?」
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