上 下
22 / 244

22話 幕間 門兵 4

しおりを挟む

 歩きながらジョイスは考えていた。
 この件は、一衛兵の自分達には、荷が重すぎるんじゃないだろうか?

 恐らくリルトの話を聞けば、【この町を動かしている者達】が、ずっと知りたがっていた、または、知りたくなかった事実が、1つや2つ解き明かされるだろう。
 その時、この町でどんな事が起きるのか?
それだけの内容を、単なる衛兵が聞いていいのか?酒の席でポロッと話して、そこから混乱が起きれば罪に問われるぞ。

 というか恐らく、今の時点で俺らが知ってしまっている【夜の森を、少年が抜けて来た】という話だけでさえ、口を滑らせて冒険者にでも聞きかれたら、また無謀な突入者が現れて、死人が出るぞ。

 …聞くのは止めよう。恐らく今の時点で知り得た内容でも、隊長に【契約魔法】を受けるよう指示されるはずだ。

 門の前にたどり着くとジョイスは、
「色々考えたんだが、予定変更だ。リルト、そこの詰所で入町の手続きをするので付いてきてくれ。
フロン、ここを頼む。それから今日何があったかは、絶対に誰にも言うな。理由は後でちゃんと説明する」
「り、了解っス」
 フロンは、ジョイスの真剣な顔にビビりながら了承する。





 ジョイスはリルトを先導し、詰所に入っていく。

「とりあえず、そこのソファーに座っててくれ」
「はい」

 ジョイスは、何か書き物をしながら、リルトに話し掛ける。

「さっきフロンにも言ったが、リルトも【夜の森】から来た事は、誰かエラい人に、いいと言われるまで黙っててくれるか?」
「わかりました。何か事情があるんですよね?」
「そうだ。その辺りも誰かから聞かされると思う」
「はい」
「ひとまず細かい事情は抜きにして、リルトは【夜の森】を横断したのか?」
「はい。さっき出てきた場所の、ほとんどまっすぐ反対側にある夜の森を出た所から来ました」
「で、ここに仕事を求めて来た、と」
「はい」
「分かった。俺から聞くのはここまでだ」



 ジョイスは書いていた物を封筒に入れ、リルトの向かいのソファーに座る。
 そして、リルトの前に、20㎝ほどの大きさで、軽く装飾された木製の箱の天板に、磨かれて滑らかな表面になった水晶が半分埋まった、魔道具らしき物を置いた。

「これは【判定の水晶】という魔道具でな、人となりを保証されていない人間は、町に入る際、これで、確認を受けなきゃならん決まりなんだ」
「はい」
「軽く水晶に触れて、少しそのままにしててくれ」
「わかりました」

 リルトがそっと触れると、水晶が淡く青く光り出す。

「もう大丈夫だ、リルトは冒険者ギルドに行くつもりか?」
「はい、まだよく分かってませんが、少なくとも商人になれるほど勉強はしてませんから」
「そうか、でも今日は疲れただろ?」
「はい、だから今日は休んで明日行こうと思います、…お金を払って泊まれるお店があるんですよね?」
「"宿屋"な。金の方は大丈夫か?」
「これで、どうですか?」

 ジョイスが聞くと、リルトはソファーの足元に置いたリュックから小袋を出し、口を広げてジョイスに見せる。
 ジョイスは中を確認すると、小袋に手を突っ込み、銀色の大小のコインをテーブルに置いた。

「…あぁ、大丈夫だ、この小さなコイン5~6枚で、晩と朝のメシが食えて、ベッドで眠れる。
 部屋が広かったり、キレイだったり、メシが豪華だと、こっちの大きいコインが必要だ、小さいコイン10枚分だな」
「わかりました、豪華なのは必要無いので、安い所を探してみます」
「あぁ大丈夫、それは教えてやるから、今から一緒に出ようか」
「はい、ありがとうございます」




 ジョイスとリルトは、連れだって詰所を出ると、町の中心へ向かって歩き出す。
 だが、すぐにジョイスが立ち止まり、

「お、珍しくちょうどいいところにいるな」

と言って「おーーい」と声をかけながら、手を振り始める。
 すると、路地の入り口に立っていた、10歳くらいの男の子が目の前まで駆けつけ、紐で首に下げていた小さな板を、ジョイスに見せてくる。

「こんにちは!"見習い"のリオです。何かご依頼ですか?」
「あぁ、まずこのお兄ちゃんを"森精霊の守り"に案内してやってくれ、そうしたら、この封筒を、冒険者ギルドの受付に届けてくれ」
「はい!分かりました!2件で小銀貨1枚です」

 ジョイスは、ポケットから出した小さい銀貨を封筒に重ねて、男の子に差し出す。

「ありがとうございます!じゃあお兄ちゃんいこ!」

 男の子は、唐突にリルトの手を握ると、グイグイと引きながら歩き出す。

 リルトは引っ張られながら、振り返える。
「ジョイスさん、色々教えてもらって、ありがとうございました」

「あぁ、またな」

 ジョイスは、軽く手を振りながら考える、

(これから、南門も騒がしくなるのか?
 フロンは喜ぶかもしれんが…どうなることやら)

 ジョイスは、軽い不安を覚えながら、相棒の元へと歩き出す。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。

『スキルの素』を3つ選べって言うけど、早いもの勝ちで余りモノしか残っていませんでした。※チートスキルを生み出してバカにした奴らを見返します

ヒゲ抜き地蔵
ファンタジー
【書籍化に伴う掲載終了について】詳しくは近況ボードをご参照下さい。 ある日、まったく知らない空間で目覚めた300人の集団は、「スキルの素を3つ選べ」と謎の声を聞いた。 制限時間は10分。まさかの早いもの勝ちだった。 「鑑定」、「合成」、「錬成」、「癒やし」 チートの匂いがするスキルの素は、あっという間に取られていった。 そんな中、どうしても『スキルの素』の違和感が気になるタクミは、あるアイデアに従って、時間ギリギリで余りモノの中からスキルの素を選んだ。 その後、異世界に転生したタクミは余りモノの『スキルの素』で、世界の法則を変えていく。 その大胆な発想に人々は驚嘆し、やがて彼は人間とエルフ、ドワーフと魔族の勢力図を変えていく。 この男がどんなスキルを使うのか。 ひとつだけ確かなことは、タクミが選択した『スキルの素』は世界を変えられる能力だったということだ。 ※【同時掲載】カクヨム様、小説家になろう様

創造眼〜異世界転移で神の目を授かり無双する。勇者は神眼、魔王は魔眼だと?強くなる為に努力は必須のようだ〜

ファンタジー
【HOTランキング入り!】【ファンタジーランキング入り!】 【次世代ファンタジーカップ参加】応援よろしくお願いします。 異世界転移し創造神様から【創造眼】の力を授かる主人公あさひ! そして、あさひの精神世界には女神のような謎の美女ユヅキが現れる! 転移した先には絶世の美女ステラ! ステラとの共同生活が始まり、ステラに惹かれながらも、強くなる為に努力するあさひ! 勇者は神眼、魔王は魔眼を持っているだと? いずれあさひが無双するお話です。 二章後半からちょっとエッチな展開が増えます。 あさひはこれから少しずつ強くなっていきます!お楽しみください。 ざまぁはかなり後半になります。 小説家になろう様、カクヨム様にも投稿しています。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。 現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...