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3話 聞き分けの無い女神サマ 2

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「えぇ…な…なんなのこれ?」

 ティナは震える指を世界地図に向けたまま、茫然自失している。 オレは再起動させるため声をかける。

「原因…調べられる?」
「は、はい」

 ティナが指を動かすと、世界地図は巨大な赤点を中心に据えるようにスライドしながら、ゆっくりと拡大してゆく。
 大小の四角いモノがぎっしりと…これは町?
中央には大きな建物、一番外周には囲うような白いライン…城壁?
 どうやら何処かの国の王都で、赤点の中心は城だね。

「…これは、膨大な魔力!…生命力変換?見た事ない術式!時空間召還?!…なにこれ?無理矢理すぎる!」




ーーーーーーーーーー

…パタ、ポタ…
 隣で懸命に指を動かし続けるティナの目からは、止めどなく涙が溢れては流れ落ち、絶対に何も見逃さないと決意に満ち、まばたきを忘れた目はゆっくりと充血している。

「…沢山の人の命を魔方陣にくべて燃やし、その力で時空に穴を開け地球から何者かを呼びよせたようです…」
「勇者召還か…」
「こんな邪悪なモノで呼ばれた者が、勇者であるはずがありません!!」

 オレは、ティナが泣きながら懸命に何かを調べてる間に用意していた蒸しタオルをパタパタと叩き、温度を調節する。

「落ち着いて。頭に血が昇ってちゃ、大事な事を見逃すよ。はいこれ、まずは顔拭いてゆっくり深呼吸して」

 オレが暖かなタオルを手渡すと、ティナはそれをゆっくりと顔に付け、そのまま「…ふう」と一息つく。軽く拭いた後タオルを顔から離したティナの瞳は、…どうやら少し落ち着きを取り戻したようだ。

「ありがとうございます。あまりの事に気が動転しちゃいました」
「うん。ちょっとお茶でも飲んで一回休憩しようよ」
「…はい。」

 オレはキッチンからティーセットを持ってきて用意を始める。

「でも…なんであなたは"これ"に気づいたんですか?」
「…いや、何も気づいてないよ。単なる想像」
「想像?こんな特殊な状況を?」

 ガラス製のティーポットにゆっくりとお湯を注いでいき、茶葉がその中をくるくると泳ぎ回るのを眺める。

「…ティナは、地球の事どのくらい知ってる?」
「地球ですか? 最近やっと閲覧権限を貰ったんですが、仕事が忙しくて…。正直、資料上の"物質文明世界で最も栄えている"という事ぐらいしかほとんど知識は無いですね」
「そっか…」

 カップに紅茶を注ぎ、ティナの前と自分の前に置く。

「いただきます」
「地球は…いや、オレがいた地球の日本って国ではさ、"異世界転生"っていう題材の物語は、今ものすごい数が産み出されてるんだ」
「物語…ですか」
「そう。そして、その中にはこんなシチュエーションもあるんだよ。悪いヤツが無理矢理に地球から人を誘拐するような、さ」
「そんな…」

 ティナは紅茶を一口こくんと飲むと、世界地図をぼぅっと見上げた。

「…どうする? もっと"物語"聞きたい?」

 一瞬だけ呆けたような顔でオレを見たティナは、瞳に力を宿してしっかりと頷く。

「はい。聞かせて下さい」
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